第15話 不幸を幸福への転
起。
俺の名前は、光リエ(ヒカル・リエ)。女の名前だが、れっきとした男である。
「女の子が欲しかった!? 男の子が生まれたら、男の子の名前をつけやがれ! 小さい頃から、「リエちゃん? え!? 女の子と思った!」とか、好きな女の子に告白をしては、「私、女の子の名前の人とは付き合えません!」とか、そんなことばかりだ!? 俺の人生で楽しいことなんて、やって来ないんだ!」
と、思いつめ、学校の屋上から飛び降り自殺を図ったのだが、不幸な俺は死ぬことすら許されなかった。そんな俺の前に、レンタル福の神という、偉そうなでキチガイな女が現れ、不幸を幸福に変えるという。俺は、福の神に憑りつかれてしまった。福の神のおかげで、俺にも久野文香という彼女もできた。そして、俺の不幸との戦いが始まった。「貴様の不幸、私が頂こう。」あ~ん、パク、モグモグ、「おいしい!」「ほんとに食うな!」。
承。
「大きい! 大きいのがいい!」
福の神の福ちゃんは、大きいのが好きだ。
「俺には十分大きいんだけどな?」
俺は首を傾げる。
「自動販売機にお金を入れようとして、100円玉を溝に落としてしまうことのどこが、大きな不幸なんだ!?」
「俺にとって、100円を落とすことは立派な不幸だ。」
「もっとおいしそうな、大きな不幸がいい、こんな脳みそまで貧乏臭い、まずそうな不幸な奴はイヤだ。」
「悪かったな!」
青年よ大志を抱け。
転。
「もっと、こう、戦争している所に行こう!」
「なんで?」
「貴様が戦地に赴く、ミサイルに銃弾は、全て、貴様に降り注ぐ、そして世界は平和になる。なんて素晴らしいんだ!」
「おまえは、俺に死ねというのか!?」
「例え話じゃないか、そうムキになるな。アハハハ。」
「でも、福ちゃん。」
「なんだ?」
「戦争だとか、病院だとか、不幸がインフレしているが、ネタが尽きるとかの心配はないのか?」
「ない。なぜって、貴様が生きている限り、不幸が無くなることがないからだ。」
「ズコ~!」
楽しいことは、思いつかないのに、不幸って、なんで簡単に思いつくんだろう。
結。
「俺は、命の危険があるスケールの大きい不幸より、小さくてもいいから、小さな不幸を積み重ねたいな。」
「ダメ! それじゃあ私が、おいしい不幸を味わえない。」
「だけど、飛行機に乗って戦場に行くお金もないし・・・。」
「キラーン。」
「福ちゃんの目つきが怖い・・・。」
道を歩いていると、三輪車に乗った女の子が、トラックに引かれそうになっている。
「あ!? 危ない!?」
「貴様の出番が来たぞ! 不幸を受け止めろ!」
「え!?」
トラックは、女の子から逸れ、俺を目掛けて、突っ込んでくる。
「ギャアアアア!?」
「貴様の不幸、頂くよ!」
福の神は、俺のトラックにひき逃げされて死ぬ、という不幸を俺の体から取り出し、ア~ンと口を開き、パクッと食べ、モグモグ、ゴックーンと食べ干した。
トラックは、俺に当たることなく、何事も無く過ぎていった。
「プワ~、おいしかった!」
「し、し、死ぬかと思った・・・。」
「生死の不幸は、最高にうまい!」
「もう、ヤダ・・・。」
「バカ野郎! 女の子を見てみろ!」
女の子は三輪車を笑顔で楽しそうにこいでいる。
「な・・・。」
「あれは貴様が助けた命だ、楽しそうだろう? 貴様がいなければ、あの女の子は天国に行ってしまっていたんだぞ!」
「お、俺が助けた命!?」
「そうだ、貴様の不幸を呼び寄せるスキルが女の子を助けたんだ! 貴様の不幸が人助けになるんだ!」
「俺の不幸って・・・すごい!」
「すごい! そうだ! すごいのだ!」
「俺、カッコイイ!」
「カッコイイぞ!」
「わ~い!」
不幸な奴は単純だ。後ろを向いてアッカンベーをする福の神だった。
つづく。
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