第16話 不幸を幸福への結
起。
俺の名前は、光リエ(ヒカル・リエ)。女の名前だが、れっきとした男である。
「女の子が欲しかった!? 男の子が生まれたら、男の子の名前をつけやがれ! 小さい頃から、「リエちゃん? え!? 女の子と思った!」とか、好きな女の子に告白をしては、「私、女の子の名前の人とは付き合えません!」とか、そんなことばかりだ!? 俺の人生で楽しいことなんて、やって来ないんだ!」
と、思いつめ、学校の屋上から飛び降り自殺を図ったのだが、不幸な俺は死ぬことすら許されなかった。そんな俺の前に、レンタル福の神という、偉そうなでキチガイな女が現れ、不幸を幸福に変えるという。俺は、福の神に憑りつかれてしまった。福の神のおかげで、俺にも久野文香という彼女もできた。そして、俺の不幸との戦いが始まった。「貴様の不幸、私が頂こう。」あ~ん、パク、モグモグ、ゴックーン「おいしい!」「ほんとに食うな!」。俺の生死の不幸はおいしいらしい!?
承。
「行く! 行く! 行きたい!」
福の神の福ちゃんは、不幸の臭いを嗅ぎ付けた。
「行きたくない・・・。」
俺は、最初は乗り気だったが、福ちゃんの興奮した姿に、身の危険を感じた。
「行こう! 富士山登山!」
「ええ・・・。」
「なんで、嫌なんだよ?」
「だって、福ちゃんが乗り気っていうことは、俺にとてつもない不幸が訪れるってことだろう?」
「うんうん、そんなことないよ。」
「顔にウソだと書いていますが?」
「ハハハ、バレたか!」
「俺が富士山に登る。山から転げ落ちる、雪崩に巻き込まれる、そんな辺りの不幸に巻き込まれる可能性があるんですが?」
「大丈夫! そんなレベルの不幸は、私が頂いてやる! 安心しろ!」
「ま、まさか!? それ以上の不幸があるというのか!?」
「ないない。」
「怪しいな。」
「エヘヘ。」
俺は、福の神を信じていなかった。明らかに福ちゃんは、もっと大きな不幸を思い描いている。俺に、いったい何が起こるというのだ!?
転。
「富士山だ! きれいだな!」
「おいしそう! 不幸がいっぱいだ! よだれがジュルジュル!」
「おい! 喜ぶな!」
「よそ見をしていていいのか?」
「え!?」
「もう不幸は始まっている。」
ペチャっと頭に鳥の糞が落ちてきた。
「うわぁ!? 汚い!? 福ちゃん、俺の不幸を頂いてよ!」
「そんな安っぽい不幸は、まずそうだからいらない。」
俺には、不幸を呼び寄せるスキル、「リエの呪い。」を持っている。登山中も例外ではなかった。
「うわぁ!? 大きな岩が落ちてくる!?」
「落石? 知りません。」
「ギャアアアア!」
「うわぁ!? 大きな雪が流れてくる!?」
「雪崩? 見えません。」
「ギャアアアア!」
「うわぁ!? 大きなガジラがやっくる!?」
「大怪獣? そんなもの富士山にはいません。」
「ギャアアアア!」
俺の不幸を幸福に転換するはずの福の神は、俺の不幸を頂かなかった。俺は、修行に3年は行って、着替えをしていないようなボロボロでフラフラになっていた。
「福ちゃん! 俺の不幸を食べてよ!?」
「生きてるだろ? こんなものは不幸の中でも、カワイイ方さ。」
「こ、これ以上の不幸が、俺を待っているというのか!?」
「ピンポーン! 大正解!」
「マジか!?」
「ウッシシシ。」
俺は、耳を疑った。これ以上の不幸があるというのか!? 不敵に笑う福の神。今までの不幸を、なぜ食べなかったのか!?
結。
「私が頂く、貴様の不幸は・・・これだ!」
山頂に着いた俺を待っていたのは、火口で燃え滾っているマグマだった。
「マグマ!?」
「飛び込め。」
「え?」
「落ちろ。」
「ええ!?」
「間もなく、富士山が大爆発を起こす、大不幸がやってくる。しかし、貴様が落ちれば、富士山の大噴火から、周辺の数千万の人々を、不幸から守ることができる。みんなのために身を投げろ。」
「嫌だ。絶対に嫌だ。」
「はぁ・・・仕方がない。私も一緒に落ちてやろう。」
「福ちゃん・・・。」
「私は、貴様に憑りついてる福の神だ、貴様、一人だけを人柱にはしない。貴様が落ちる時は、私も一緒だ。」
「福ちゃん、本当は優しかったんだね。」
「当たり前だ、私は福の神だからな。」
俺と福ちゃんは手を握り、火口を神妙な顔で見下ろしている。
「行くよ、福ちゃん!」
「貴様、私の手を離すなよ!」
「絶対に離さない!」
「みんなを大不幸から守るためだ。」
「死ぬ時は一緒だよ!」
「早く飛べ。」
「え?」
「ゆくぞ! とお!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
福の神は、俺の手を離さずに火口にダイブした。その顔は楽しそうで、口からよだれが垂れていた。
「ウギャアアア!!!」
火山のマグマが、俺を目掛けて突進して来る。
「貴様の不幸、私が頂こう!」
福ちゃんは、俺からマグマで全身やけどと、富士山大噴火で周辺住民への大不幸が集約された、不幸の塊を手づかみで取り外した。
「大不幸のマグマシロップ付き、なんて、おいしそうなんだ!」
ア~ン、パク、モグモグ、ゴックン、プハー!
「おいしかった。」
「い、生きてる!? 俺は生きてるぞ!?」
「当たり前だ、貴様には私が憑りついているのだからな。」
「こ、これは!?」
「噴火寸前の活火山だった富士山のマグマは、貴様が大惨事の不幸を集め、私が、おいしく食べたことによって、灰色の死火山になったのだ。当分の間、富士山が大爆発を起こすことはないだろう。」
「やった! よかった!」
「噴火から多くの人達を守るためとはいえ、落石や雪崩から貴様を守ってやることができなかった。悪かった・・・。」
「いいよ、別に。みんなの幸せのために役に立てたのもうれしい。」
「そう言ってもらえると、ありがたい。」
「それよりも、福ちゃんが謝るのなんか、初めて聞いた気がする。」
「そりゃあ、私だって、たまには謝る。」
「なら、触ってもいい? ピタ。」
「こら! 調子に乗るな!」
これでも俺は幸せに暮らしている・・・たぶん。
つづく。
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