第3話 起承転結の転

起。


俺の名前は、光リエ(ヒカル・リエ)。女の名前だが、れっきとした男である。


「女の子が欲しかった!? 男の子が生まれたら、男の子の名前をつけやがれ! 小さい頃から、「リエちゃん? え!? 女の子と思った!」とか、好きな女の子に告白をしては、「私、女の子の名前の人とは付き合えません!」とか、そんなことばかりだ!? 俺の人生で楽しいことなんて、やって来ないんだ!」


と、思いつめ、学校の屋上から飛び降り自殺を図ったのだが、不幸な俺は死ぬことすら許されなかった。そんな俺の前に、福の神という、偉そうなでキチガイな女が現れた。


承。


「福の神!?」

「そう、私は福の神だ!」

「頭おかしいんじゃない・・・。」

「そう、頭がおかしいんです・・・違う!」


この福の神、ノリツッコミができます。


「貴様、そんなに不幸な生まれなのに、福の神は初めてか?」

「うん。」

「仕方がない、福の神について説明してやろう。福の神とは、不幸な人間にだけ訪れる幸せを運ぶ、ありがたい神様なのだ!」

「ありがたや、ありがたや。」

「仏様とは違う、手を合わせて拝むな!」

「ということは、俺は、そんなに不幸だというのか!?」

「その通り! 貴様は、不幸12に選ばれたのだ!」

「不幸12!?」

「そう、不幸12だ。不幸12の選び方は、毎年1月1日に不幸な人間の上位12名の元に、1年間のレンタル福の神として派遣される。その確率は、日本の人口は1億2000万人なので、割り当ては約1000万人に1人。」

「まるで年末ジャンボ宝クジじゃないか!?」

「幸運の福の神がやってくることから、新春幸運の宝クジとも言われているのだ! ハハハハハッ!」


俺は、日本で12番以内に入る不幸な人間だというのか・・・。


転。


「いらん。」

「ん?」

「福の神など、いらん。」

「なに!?」

「悪いが、福の神が来ても、俺の不幸には敵わない。だから、いらん。」

「なんだと!?」

「俺は不幸な人生を終わらせたくて、屋上から飛び降りたんだ! それでも死ねずに生き恥をさらしているような、不幸の持ち主なんだぞ!?」

「それは私、私のおかげだ。」

「え?」

「貴様が自殺をしようとするぐらい不幸なので、私が福の神として助けたのだ。」

「何だと!? お前のせいで、死ねなかったのか!?」

「いや~、惜しかったな、昨日までなら死ねたのにな。」

「俺は自由に死ぬこともできないのか!? なんて不幸なんだ・・・。」

「残念、残念。アッハハ。」


死なずに済んだことは幸運なのだが、不幸な人間は、前向きには考えない。


「いいか! 福の神!」

「なんだよ?」

「俺は今から、もう一度、屋上から飛び降りる! 邪魔するなよ!」

「・・・わかった。何もしない。好きにしろよ。」

「よし! 俺は不幸な人生とお別れして、異世界転生して、チートでハーレムな、ウハウハ生活を過ごすんだ!」

「貴様、本当に死ねよ。」


俺は、本日2度目の屋上ダイブを決行した。


結。


「カア~、カア~。」

「・・・。」


俺はまた、渋谷の栄養満点ツヤツヤな羽を持ったカラスのくちばしに食わられながら屋上の上空に帰って来た。


「ギャアアアア!」

「アホ~、アホ~。」


前回、同様、俺は上空から屋上にドカーン! と落とされた。カラスは俺を馬鹿にするように鳴きながら空に飛んで去って行った。


「イタタタタッ。」

「大丈夫か? 死んだ方が痛くなさそうだな。」

「クソ、あのカラスも、おまえの仕業だったのか?」

「違う、違う、私は約束通り何もしていないぞ。」

「なら、どうして、俺は死ねないんだ。」

「何もしていないが・・・貴様には、福の神が憑いている。」

「な?」

「全ての不幸は、幸福に転換されるのだ。」

「なに!?」

「貴様の不幸、私が頂こう。」


こうして、俺の前に、不敵に笑う福の神が現れたのだった。


つづく。





























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る