#37 舌に残る復讐の味
よし、ならばより詳しく知るために、色眼鏡なしの裸眼で目の前の少女について考えを巡らせてみようじゃないか。
記憶のタンスをカラにして、今から中身を詰めて再構成しようじゃないか。気持ち的にはファーストインプレッション。
オレの視線の先にいるのは、『丸山宏美』という一人の同い年の少女。
背丈は目測一五〇ちょいくらい? 笹原さんより若干低い感じ。
タイトな服から理解るのは、かなりスタイルがいい女性という事実。神無月とは違って、出る所は出ている理想の体型だとも言える。
明る過ぎる髪色からは、何処と無く知能指数が低そうな印象を受ける。
そんな金髪に包まれている顔の作りは、正直可愛いと思う。
目鼻立ちがハッキリしていて、世間一般では『モテる顔』に分類されるだろう。うん。外見的にはこんなもん。
内面的な変化は解らないけど、コイツは今までの会話で全く
ならば言葉から判断すれば大まかな人物像は掴める。
畢竟、声が大きく自分勝手で横暴で、自分の勝利を信じて止まないハッピーな思考回路を持つ女だってこと。端的に言えばバカ女。
では結論。
コイツは今も昔もどう仕様も無い存在。超えるべき過去だった少女。
身勝手な論理が一応の完成をみたことで、頭は冷え渡り、自身を包む背景を観察する余裕が精神に生まれたように感じられた。
視界を前に向ければ、丸山にフラれ立ち竦むチビ男がいる。哀れな彼は、未だに状況を飲み込めていない困惑の顔。
可哀相なやつだと同性として軽く同情はするけれど、こんなアホに引っ掛かったお前が悪い。自業自得の因果応報。人生は一生勉強であるという。コレを機に女を見る目を養うことにしてくれ。南無三。
視線を自分と同色の髪色の少女に移す。丸山はあの告白の時と同じ顔。自分の勝利を疑ってる様子など微塵もない。
一回大失敗しているくせに、よくそんな顔が出来るもんだと感心する。いや成功したのかな?
計画通りでは無いにしても、結局オレは失敗して失脚して、その挙句人間不信の優しさ恐怖症になった。思わず心の中で自嘲してしまう。
まあプロセスでの失敗を除けば、概ね成功と言えるのかもな。
皮肉だけども、その後ろ向きな笑いによって一気に肩の力が抜けた。皮肉から本心へと笑いの要因が、質がシフトする。
「はははっ」
「ねぇ何処行く? 案内してよ司」
オレの左腕に自分の腕を慣れた仕草で巻きつける丸山がいた。
まだ返事もしていないのに彼女ヅラかよ…。
告ってもいないし告られてもいないのに、それと似たスタンスをとる神無月とどっちがマシなのかな?
まぁ、どっちもどっちの似たり寄ったりだな。オレ調べの個人的意見を多分に含んだ独善的な見地に基づけば、不快指数は丸山のぶっちぎりだけれど。
何にせよ、オレから見れば、どちらもビックリするぐらいのオプティミストで羨ましい限り。
それとは真逆の感性を持つオレは、少しくらい彼女たちのメンタリティを見倣うべきかも知れないな。
いやまあこのレベルまで到達するのは絶対に嫌だけど。そんなつもりは微塵もないけれど。その十分の一くらいなら許容してもいいやと物思い。
図々しくも被害者に腕を絡めていた丸山を雑かつ強引に引き剥がし、軽く膝を曲げて顔を近付け言葉を紡ぐ。その最中にシナプスを通じて脳の表裏を巡るのはかつて色濃かった自分への失望感、無力感。
へぇ、丸山ってこんな顔してたんだなと、その他現在喋る為には機能していない、オレの何処かしらにあると推測される冷静かつ客観的な部分が未来永劫役に立たない発見をする。
これもひとつの成長なのかな? 前とは違う現在だからこそ言えることがある。
「馬鹿だろ、お前。オレ様は
「えっ?」
バカ女の心底驚いた顔。
どうやら彼女のメデタイ自分本位なゆとり的思考回路では予想だにしていなかった回答らしい。
まさかこのオレが、かつての僕が、『おう、付き合おうぜ』とでも言うと思っていたのか?
とんだハッピー野郎――いや女だから……えーっと…腐れアマ?――別になんでもいいや、さして興味のある事柄でもない。
むしろ心底興味がないと正直に吐露してもいい。こいつの頭の中がカラッポでくだらない幻想もとい自分本位の妄想が詰まってるって言いたかっただけだし。
あくまで予想の域を出ないけれど今までの丸山の人生の中で自分の手に掛かって落ちない男など殆どいなかったのだろう。
個人的な怨恨を抜きにして第三者視点の客観的目線に立ってみると、男受けしそうなルックスと愛嬌を持っていて、ノリもイイ。それらを兼ね備えた丸山が世の男性に好かれるのも頷けるってものだ。
だからこそ、そういう風に思考が回るのかも自然なのかも知れない。アデージョ気取りの丸山はある意味可哀相な少女なのかもしれない。
だからと言って、同情心なんて破片も感じ得ないけれどね。そんな高尚な感情、持つことすらおぞましい。
傾国の女じゃなくて軽薄な馬鹿だ。
でも、忘れたのか? もし仮に世界の殆どのXY染色体を持つホモサピエンスがそうだったとしても、そんな男共の中には例外がいたことを…。
まあ、そのお粗末な記憶力ではとうの昔に忘却の彼方に消え失せたのかも知れないな。
でも、オレは一時たりとも片時も忘れなかったぜ? むしろ思い出さないことがなかった。ずっと重く思ってい続けた。なんて歪んだ片想いだ。笑えない冗句。
個人的な黒い感想はひとまず置いておくとして、こういう復讐めいたやり口ってのはなかなかある程度はスッキリするもんだなぁ。凄い陰気な感じがするけれど、反対に爽快さがあるのは何の皮肉なんだか…。
それにしてもこの爽快感と高揚感。決して爽やかな高原の息吹を一身に浴びているような感じではない。もっとドロドロとしたものが渦巻いている。
例えるなら、自分より遥かにエライ人物の名刺を貰ったその場で破り捨てるみたいな(やったことないけれど)。
他人が長年大事にしたためてきた宝物を笑いながら踏み付けるみたいな(これも意識的にやったことはない)。
とにかくある程度の爽快で愉快な気分は感じるが、断じて満足できる類のものではない。
なんてままならねぇもんだ。なぁ神無月?
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