#31 結構色々と限界
「まぁ、何だ。その、汚い所だけど入れよ」
見慣れた玄関の鍵を開けて――古き決まり文句を言いながら――見知らぬ人とは言えない間柄の招かれざる客を渋々自室へと招く。
全く持って本来の予定になかった来客である神無月は小さく『ただいま』と言いやがった。その一言はしっかりと聞こえていたが、面倒臭いので特には言及しなかった。掘り下げても面倒だし、変に触れて膨れ上がるのはなお一層疲れる気がしたからさ。
「へぇ、別に汚くはないけれど…何と言うか…全体的に暗いわね。趣味が悪いってわけでは無いのだろうけど…あなた何処まで残念イケメンなの? もう狙い澄ました設定としか思えないレベル。マジで何路線を目指しているの?」
「ほっとけ。だったらお前もなかなかに残念美人じゃねぇか」
言いがかりに近い感想を皮肉で受けて、ドアを開ける。
普段は大して用のないクローゼットを漁って、来客対応の為の布団を探しながら極めて適当に答える。
つーか、もうマジで諸々限界だから。
余計な会話なんて要らない。そんなのに割く体力が残り少ない。
心と脳の欲求の殆どを占めるのは早くベッドに飛び込んで意識を失いたいという――本当に原始的な欲求の一つだけ。
だけど…、
「神無月、ベッド使えよ。オレは床に寝るから」
これでも一応、大和男子の末席を汚す端くれの一人だ。
あわよくばを狙って打算的になる必要性を全くと言って――マジで露や毛ほども感じ無いけど。一応、杞憂的な念の為レベルで傷ついた女の子を気遣う素振りぐらいは見せとかないとな…。
別に誰に向けてのアピールでもないけどさ。
あと防衛網を張っとかないと、一緒に寝ましょうとか言われそうだ。
「あら? 同じベッドじゃないの?」
これはもうストレートにどんぴしゃだ。
折角張った防衛網とか全く意味を成していない。悠々と超えやがった。
何かパッと見、貞操観念硬そうだけど、何となくちょろい感じがひしひしとするな、この女。これも口には出さないけれど。
色々な意味を込めた溜息をついてから、クッションを枕にして勢い良く布団を被る。
ケータイのアラームを設定しながら、一方的に会話の終了を突き付ける。もうだめだ、本当の本当に限界。もう頭の中は因数分解で最小化した睡眠欲を満たすことしか考えられない。マジで夢見る五秒前。
嘯く言葉も、寿く台詞も曖昧の中に溶けて、無意識の中に消えていく感覚。
「もう、そういうノリいいし。あー、五時くらいになったら起こして…おやすみー」
「あ、マジで寝ちゃう感じなの? 少しくらいお話しましょうよ…って、え? マジで! もしかして…もう寝たの?」
意識の向こうの遥か遠くの空を通じて、何かしらの言葉を神無月が吐き出したようだけど、そのうちにすぐに聞こえなくなった。
意識が遠くなる。世界から離れる。
神無月が喋るのをヤメたのか、オレの意識が途切れてしまったのか…。どっちでもいいし、どうでもいいや。
とりあえず言えるのは、オレはすぐに深い眠りに堕ちたってこと。
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