#20 決して忘れぬ悪夢③

 オレはその審判の日、その内にバスケ部へ退部届を提出した。


 他者を信じられない人間にチームプレイは無理だと思ったからだ。顧問にはせめて夏の大会までは続けないかと言われたが、そんなのは不可能だと思い、辞退した。


 その日から、オレは空っぽになろうと思った。


 容器が空ならば、そこに波が立つこともない。始めから何も持っていなければ、奪われる心配をしなくて済む。人と深く付き合わなければ、大きく傷付くこともない。


 そこから夏休みまでどう毎日を生きていたのかはっきりとは覚えていない。県選抜の大会では隣県の赤髪の選手が見た目もプレーも目立っていたと聞いたような気もするが定かじゃない。


 夏休みに突入したオレは、家族で隣の県に住む叔母さん夫婦の家に遊びにいくことになった。

 今までは部活があったり、無くても疲れを取りたいが為に断っていたが、その時は提案に乗った。夏休みになってから、一歩も外に出ていなかったので気晴らしをしたかったのかも知れない。


 父親の車で移動すること数時間、叔母さん宅のある市内に入った。


 過ぎ去っていく見慣れぬ景色を漠然と見ていた生ける屍の目に飛び込んだ小洒落た建物は『私立海堂高校』――現在オレが通っている高校だ。


 当時はモチロン名前なんて知らず、それが高校だということも分からなかった。

 だから、何となく親父に聞いた。


「ねぇ、今通り過ぎたのって学校?」


 適当な質問の返答は父親からではなく、助手席の方から返ってきた。


「今の…って、あぁ海堂高校ね」

「海堂…高校…?」

「そう。朱鷺子の…あんたの叔母さんの旦那さんが通っていた高校で、偏差値が凄い高いらしいわよ」


 その時、脳裏に一つの策が閃いた。進むべき道が見えた気がした。が、興味無さ気に言った。


「へぇ~、賢いんだね」


 投げやりに返事を返したオレの意識は既に会話に重きを置いていなかった。霞がかかったこの策をもっと練りあげなければ…。


 意外と思考労働に夢中になっていたらしい、気が付けば二宮宅に着いていた。

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