#15 偉大なるマーフィー
地元の外での姉兄代わりのいい大人は殊更極めてニヤニヤと――正直イラッとするタイプの笑みを浮かべて面倒臭い感じにウェイウェイ絡んでくる。
なんだろう? 厄介な大人って本当に厄介。
「何々? そこのキレイ系お姉さんが司の彼女? 俺も後十年若ければな…」
「おーっと、何ですかー、清隆さんココに来て浮気ですかー?」
マジで何だよコレ? なんだこれ?
世の中って基本的に退屈な癖して、時折やけにエキセントリックな色に染まることがある。それもだいたい別に望んでいない時に限ってだ。
そして、災難という巨大過ぎる荒波に巻き込まれた少年に出来ることは、『どうか早く過ぎ去っていってくれ』と信仰して真棒する何かに情け無く祈ることだけだ。
「えーっと、お二方は…その…」
妙齢の大人の突然の介入に神無月は動揺を隠しきれていない感じだ。
それに気づいているのかいないのか、若しくは敢えて無視しているのか、二宮夫婦は必要以上に気さくに対応している。
「あー、あたしたち? んー、まぁこの子の親戚?」
「まぁ司のココでの保護者ってとこ? あぁ、えーっと…」
「申し遅れました、私、神無月紫織と申します」
仮にも年上に対して凄く失礼な感想なのは重々承知だけど――
もっと大胆不敵、慇懃無礼、絶対零度の人間失格みたいな人間だと思っていたんだけれど、本当に意外で。会う度にその印象をコロコロと変える不思議な女だ。
「よろしくね、紫織ちゃん。俺は二宮清隆、こっちは妻の朱鷺子ね。保護者代わりと言えば、そうそう知ってる? 司の地元って隣の県だからさぁ…」
二宮夫妻は基本お喋り気質だからかな、えらく会話が弾んでいる。
オレはと言えば、流れについていけず完全に蚊帳の外。
本来であれば初対面で、神無月と叔母さん達との間で楔として機能するはずの人間が疎外感を感じているのだろう…?
しかし、神無月は楽しそうに話しながらも何処か落ち着きがない――何処かそわそわしている感じ。言葉の端々にも
具体的には解らないけど、困っているようだし、助け舟でも出しとくか…。
別に疎外感故に存在感を発揮したい訳では無いことは言として主張したいけど。
「叔母…朱鷺子さん、それに清兄も。その辺にしといてよ。し…紫織とそろそろ二人きりになりたいんだ」
おいおい、欠片も思っていないことを口走っちゃったよ。
大体、真っ昼間から学校をサボタージュしてまで二人きりになりたいとか、近頃の若者の性の乱れ感ハンパねぇな。
軽く落ち込み、二宮夫妻の反応を予想して更に落ち込む準備をしていたのだが、二人のリアクションは、オレの予想の遥か斜め上を言っていた。
「と、『朱鷺子さん』って司が言ってくれた…」
とか言って、叔母さんを両手で口を押さえて、謎の感涙にむせいでいるし、夫の清隆さんはと言えば、
「そうかぁ、気が利かなくてわりーな。お詫びと言っては何だが…」
とギャルゲーの男友達の様なコメントをし、こそりと小さな四角い袋を渡してきた。
訝しんで注視してみれば、それは所謂ゴム的な! そう、ゴム的なドムだっ!
「コレを使え。まだ育てらんないっしょ? あ、車貸してやろうか? オススメは海浜公園な」
「どっちも要らねぇよっ!」
とは言えないので、清隆さんのいい笑顔と突き出した右手の親指に対して、お礼の言葉を日本人特有の曖昧な笑みでラッピングしてから返した。
一方で突き返せなかったセーフ的な四角型は尻ポケットの中に雑に投げ込んだ。
「さっ、早く行こうぜ」
穴を掘ってそこで永眠したいぐらいの危害…もといそんな気概だったが、実現不可能な願そ望れを断腸の思いで断念した。
神無月の手を取り、二宮夫妻からあらん限りの速度で離れる。
昨日と違って、差し出した手を払われなかったこと。
その些細な事実が案外――結構存外に嬉しかったりもした。
決して言葉に出して、世間に放ったりはしないけどね。
大なり小なり、少なからず――そう思ったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます