#9 大体全部、何事も上手くいかない日

 閑静な早朝の公園に否応なく蔓延する――実に爽やかで清々しい空気にそぐわない一人の男子高校生は軽く絶望していた。


 右手の人差し指を何もない空間に突き出すその様は間抜けな道化以外の何者でもなかったと思う。


「あれっ? コーヒーねぇじゃん。一つ残らず売り切れって…え~嘘だろ……」


 家を出る時点で思っていたけどさ、これってあれだよな、厄日ってやつだよな。


 マジで仏滅? 或いはブルーマンデー?

 欲しいのは飲んだことないブルーマウンテンなんだけどさ…もう何でもいいや。こういう日は何をやっても益にならない。そう相場は決まっているんだ。


 ならば逆説的に考えてみれば、何をしたって一緒だろという破滅主義に落ち着くわけだ。


 飲み物とか喉の乾きを潤せれば何だっていいさ。例えばこの目についたサイダー君でいいよ。よし君に決めた。


 小銭を入れて、発売当時から現在に到るまでに内外共に微妙な変化を遂げているパッケージのサイダーを選ぶ。ガコンと音を立てて、缶が勢いそのままに落ちて来る。


 いつも思うけど、炭酸飲料って自販機で売るのに全く適してないよな。

 だって、買った状態で既に振られてるじゃん。しばらく待たないと噴火するし出来損ないだよ。


 詮無き考察はさておき、しゃがんで缶を取る。腰から財布に繋がったシルバーのチェーンが小さく揺れて音が鳴る。


 座って食事の出来そうな場所を探せば、すぐに小奇麗なベンチが見つかった。

 リュックと朝メシの入った袋を横に置いてから腰を下ろす。缶を開けて、まず一口。プハッ…うめぇ。


「ふぅ、ようやくの朝メシですよ、と」


 中身が半分ほどになった缶をベンチに置き、袋の中をあさる。微開封のサンドイッチを取り出した。


 後はそれを後は食うだけ、口に入れるだけだったんだけど…。たったそれだけのことだったのだけれど…それが出来無い。


 予期せぬ乱入者に対して反射的に口を開いた。


「ん? 何見てんだよ…言っとくけど、やらねぇぞ?」

「要らないわよ」


 何故かな? 僕の前には彼女がいたんだよ。氷の女王、神無月先輩がね。


 そりゃあ人並みに普通に疑問に思ったよ、なんでだろうと。

 そんな人並みで常識的な疑問をガン無視した現在が目の前には繰り広げられてるんだ。


―――そうしてオレ達は、三度目の再会を果たした…。

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