#4 朝食までが果てしない
やぁ皆さんおはようございます。斑目です。
別に低血圧症でもなく、寝起きもそこまで悪くない自信がありますが、なんだか妙に身体がだるい気配です。班目です。
というのも昨日、初めて会ったデンジャー系女子に『お節介野郎』『変態』と称され、その挙句に『死ね』と言われました。斑目です。
そういった要素を重ねてみた所、
「ヤバいな…意外とダメージデカい……」
言葉を尽くすまでも無く、結構効いてる。
自分以外に誰もいない部屋でキャラを変えてまで寂しく独りごちる位には普通に凹んだ。
昨夜は何か無駄に無意味にコーヒーをがぶ飲みしたりもした。日課の筋トレも勉強も読書も手を付けずに寝た。
ってあれ? オレってこんなにメンタル弱かったっけ? 自分を見失う程に他人に関心があったのか?
いや、事実やそれに伴う現状はさておいて、強くあろうと決めたはずだ。事有る事に自分を揺らさない、必要以上に他人に深く関わらないと誓ったはずだ。
うん、思い出した。理論武装の構築完了。心の防護壁も建設した。
これで今日もなんとかやれるはず。かろうじて生きていける。
そんな感じで、実に薄っぺらくて根拠の薄い鼓舞で自分を励ます。
例えそれが崩れることが確定した砂上の楼閣であったとしてもだ。
「よし、頑張れオレ! 男だろ? やれるってマジで!!」
頼りない現実に対して俯きそうになるメンタルに向け、世間の荒波に揉まれて疲れたOLの様に発破をかけてから、習慣的にとりあえず時計を見る。
自らを鼓舞しておいて、最初の行動が時刻を確認とは何だかひどく遣る瀬無い、微妙な気分になるが、一応現代社会を生きる者として最低限の嗜みだと善意かつ自分本位の解釈をすることにしよう。
現在時刻は六時を回った所か。朝メシどうすっかなぁ~
頭を乱雑に掻き、懸命に思案したところで浮かぶ案は大きく三つしかない。
自分で作るか、外に出るか、それとも食わないか…。さて、どうしたものだろう。
幾ばくかの時が過ぎた―――そう表現すれば少なからず詩的な感じがする気がする。朝メシ如きでそこまで素敵に言う必要はないかもだけど。まぁ平たく言うと一、二分程度適当に考えたってことですよ。
結果、作ろうと思った。そう思ったのだけど…、
「あぁ~、見事に何もねぇなオイ」と嘆いたよオイ。
居住スペースである八畳のフローリングから、申し訳程度についている台所に移動して小さな冷蔵庫を開けてみれば、そこには…不思議な街が―――なんてファンタジー世界があるわけもなく、むしろ現実にあるべきはずの食料の類が皆無であった。
より詳しく説明すれば調味料とマーガリン、しらすはあった。
しかし、それで何が出来ると?
いやどう考えても無理だろ。それらの調味料(しらすは除く)から男子高校生のお腹が満足できるような物体が錬成されるとは到底思えない。
その道のプロの手練手管を用いれば意外とイケたりするのかも知れないけど、残念ながらオレはそんな高度な錬成テクを持ちあわせてはいない。
基本的に一人暮らしの男性の例に洩れずにインスタント生活であるオレにそんな高尚なことは不可能である。
食品棚を見ても、頼みの綱であるカップ麺様は鎮座していてくれはしなかった。となれば仕方ない。
「コンビニにでも行くか…」
鍵と財布と机から手に取り、寝間着であるジャージのポケットに入れる。
朝も早いし、コンビニぐらいなら寝間着のTシャツとジャージで充分だ。
サンダルを履いて、部屋の鍵を閉める。
階段を降りながら、何が食いたいかな? なんて考えていれば、あっと言う間に一階だ。
三階ぐらいからなら階段で充分だ。エレベーターなんて未来の重機は必要ないな。
そんな文明の移り変わりに思いを馳せ、道路に出たところで振り返ってオレの居住区を見上げる。
本当叔母さん達には感謝だよな……
もの凄くどうでもいい自分語りを始めると、オレは高校生にして一人暮らし。
実家を出て母親の妹夫婦、つまりは叔母さん夫婦が管理しているアパートで暮らしている。
両親は高校生の息子を一人で暮らさせるのに猛烈な反対を見せたが、叔母さんがなんとか取り持ってくれた結果が今の暮らしってわけ。
叔母さんの旦那さんが俗に言う不動産王で、空いていた部屋に殆どタダ同然の価格で住まわせてもらっている。
ちなみに更なる好意で、オレの住んでいる階には誰も住んでいない。なんて気楽な一人暮らし。
なので、二人に頼まれたことには、基本的に絶対服従するとオレは勝手に誓っている。うん、本当に頭が上がらない、足を向けて寝れない立場であると言える。
家賃がタダ同然なので、実家からの仕送りで成り立っている生活は豊かとは言えないが貧しくもなく、たまに年齢を偽ってする短期のバイトのおかげで特にお金に困ることもなく生きている。
そんな両親や叔母夫婦への感謝の思いを頭の中で思い浮かべていようとも、意外と関係なく脚は動くようで、気がつけば青と白で彩られた看板が目立つコンビニのすぐ前まで来ていた。
無意識の内にコンビニまで真っ直ぐ行けるというオレは如何なものかなと軽く頭を捻った。
軽快な音が鳴って、自動ドアが無機質にお出迎え。アイス什器横のカゴを手に取りながら、朝ごはんのメニューを思案する。
さて、何を食おうか…。飲み物はコーヒーでも沸かすとして、サンドイッチでも買うかな。よし、今日の朝はサンドイッチだ!
BLTサンドイッチとチョコレート風味の携帯食、デザートとしてヨーグルトをカゴに入れ、レジ待ちの列に並ぶ。
オレの前に並んでいるのは、疲れきった顔で朝刊と菓子パンを持った中年のおじさんだ。
今でも思う。
前に位置するくたびれたオッサンのことを見ている場合では無かったと。
もっと他のことに注意すべきだったと。
例えばそう――いまこの瞬間。
接客業務に全然相応しくない仏頂面でつまらなさそうにレジを打っている、長い黒髪を頭の後ろで結んでいる店員の女の子とか。
そういう人物に注視して気を配るべきだった。
そうすれば、今までのオレでしばらくの間、いることが出来たのに。
仮にそれがいつか限界を迎えることが決められた、既定事項だったのだとしても、他人の人生に関わり、自分の人生も変えてしまうような事態にならなかったのかもしれないのに。
それが正解なのか間違いなのかは、現在となっては確かめる術なんて在りはしないけれど、言いようもなく巻き込まれてしまった。
自分で言いながらも取り留めの無い、文脈の繋がりも分かり易さも微妙な感じだと自覚しているが、ともかく、
―――この時、オレの歪みは良くも悪くも変容してしまったんだと思う。
可憐な美少女が空から降ってくる訳でもなく、悪の組織に追われている少女に匿うよう言われた訳でもなければ、部屋の中に異次元ホールが開かれてそこから魔族の少女がオレを連れ去ろうとしたはずなんて荒唐無稽で失笑モノのファンタジーは勿論有り得なくて。
登校中に曲がり角でパンを咥えた美少女と衝突して、その後少女が転校生であったと発覚する訳でもなく、突然の両親の海外出張で美少女の家に転がり込むなんて非現実的で理想的な展開でもない。
淡々とした日常の中で遭遇した未知とでも言うべきか――いや、別に未知でも何でも無いのだけど。
何の変哲も大したストーリーも無く、ファンタジー色なんか破片も感じられない様な場所――近所にある全国にチェーン展開されているコンビニで再び出会った。
その出会いから甘酸っぱいラブコメを予期することなどは到底不可能だったし、よくよく思い出してみれば事実そんなことはなかったし。
そう考えても、その出会いがもたらしたものは蒼くて痛いだけで、青春とは到底言えなくて。
最後に『僕』の中に残ったものは行き場のない虚しさとやるせない気持ち。それから――、
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