第14話〜真実〜


 熱い。いや、違う、熱いを通り越して痛みが風華を襲う。

 足の皮膚の一部が溶けているのが分かる。でも涙も悲鳴も出ない。

 それが自分の運命だったのだと、その決心が今の風華を支えている。

 せめて最期くらいは笑顔でいたい。


 だが、その時。足元にまで迫っていた炎が突如勢いを失い、そして鎮火していった。

 もちろん、水はかかっていないし、誰かが手を出した形跡もない。

 いや、1人だけこの状況を打開できる人物がいる。

 この国の象徴である炎と雷を操る神力を持つ人物が1人いる。

「お待ちください」

 ふと響いた秀斗の声に、ざわめいていた一体がしんと静まり返った。

「何をしているのです。まさか、本当に闇の娘と繋がっていたことを認めるとは・・・」

「そうですね。闇の娘と繋がっていたのかもしれません。しかし、それは必然。なくてはならないことです」

 江燕だけではない。その場にいた誰もが秀斗の言葉を疑った。

「先日城下に出現した遺跡。あれは闇の娘に関することが書かれた遺跡です。そこに書かれていたのは、四つの図。一つは何もない空、一つは月、一つは雷、そしてもう一つは太陽が描かれたものです。そこで一つ引っかかったのが、何も書かれていない図です。他の三つは皆さんがご存知の通り、この国の建国までの空を現しています。しかし、何もない空については何も書かれていません。そして、もう一つ。初代皇帝のある言葉です。「初めて見た月は美しかった。私もいつかあんな月になれるだろうか 」。この言葉と照らし合わせて下さい。初めて見た月、つまりそれまでこの土地には月がなかったのです」

「しかし、それとこれとを明確に証明できるものがない。でっち上げですな」

「私は見たのです。いや、風華が見せてくれた。この土地に月が昇る瞬間を。初代皇帝が闇の娘と出会い、初めてこの土地に光が差す瞬間を」

 月さえなく、光がないこの土地に月という光をもたらした存在、それが闇の娘であり、闇の娘がいなかったらこの土地に光が差すことはなかった。

「そんなこと馬鹿馬鹿しい。この一瞬でそんなことができる訳がない」

 だが、そんな中、民衆の中で1人の老婆が口を開いた。

「聞いたことがある。真の皇帝とは炎と雷を操り、そしてこの国の真の始まりを知る者。そして、その隣には必ず娘の姿がある、と」

 それなら秀斗も見たことがある。そう、真の皇帝の隣には必ず娘の姿がある。

 いつの時代かその言葉は「光の娘」と変わっていったが、初代皇帝はこう残している。「真の皇帝の隣にはの姿がある」と。

 ようやく、証明できた。あまりにも土壇場ではあったが、それが返って力を高めたのかもしれない。

「風華を離して下さい。彼女はこの国にはなくてならない存在です」

 秀斗から自然と手を離した軍人に対して秀斗はニコリと笑顔で言った。しかし、それとは逆に青ざめた様子の軍人は急いで風華の救出にあたった。

「そういえば、今回の騒動といい、「錬」の勝手な行動といい、あなたとは少し話しをしなしなくてはいけませんね、江燕殿」

 江燕は少しずつ後ずさりしていくが、最後には降りてきた白玉と紅鈴に取り押さえられた。

 そして、解放された風華は怪我の影響で1人では立てなくなっていて、軍人に支えられてようやく体を起こせた。

「風華っ」

 風華に駆け寄った秀斗は風華の顔を覗き込んだ。

「秀斗っ」

 すると風華はその腕で秀斗を抱きしめた。

「怖かったっ。怖かったよっ」

 ずっと心の中にしまいこんできた感情が爆発してしまった。しかし、今は止める気もない。

 そして秀斗も風華を抱きしめた。

「うん。ごめんね。ごめん・・・ね」

 秀斗の頬にも涙が伝った。

「これからはずっと一緒だよ」

「うんっ」

 2人はお互いの存在を確かめ合うようにぎゅっと抱きしめた。



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