第13話〜運命の日〜
城の前の大きな広場。いつもならめでたい行事が行われる広場だが、今日は違った。集まった人々は皆、眉をひそめ中央に建つ大きな木の棒を見上げていた。
空は鉛色の空はで、所々で雷の音が響いている。
そして、その近くい立っていたのは秀斗だ。両脇を軍人に固められ、自由はほぼない。国民を裏切ったとされる秀斗に涙する者もいれば怒りを露わにする者もいる。
そんな中ついに風華が姿を現した。
すぐに木の棒に巻き付けられ、身動き一つ取れなくなる。全く容赦がない。
「国民の皆さん、お待たせしました」
そして、そんな中口を開いたのは江燕だった。
「これより、闇の娘の処刑を開始します。この者が闇の娘です」
江燕が風華に視線を向けると所々から罵声や石が投げつけられる。しかし、風華は一言も発しない。
「そして、この闇の娘を秀斗皇子は匿い、それを我々に隠しておりました。加えて光の娘である珠麗皇女と合わせ、先日の大きな揺れを招きました。これらの事実について、間違いありませんな、秀斗皇子」
「ありません」
秀斗の言葉に罵声はさらに強まるばかりだ。
「では最後に、闇の娘、何か言いたいことはあるか」
そう問いかけられた風華はスッと口を開いた。
「ないです」
城からは珠麗と白玉、そして紫翠がその様子を見守っている。
「ただ」
そして、処刑の準備を始めたところで風華が再び口を開いた。
「秀斗皇子は本当にいい人なんです。私を庇ったからっていうことではなくて、本当に国のことを考えて、国のためにその時間を費やしてきました。それはきっと色んな人が知っているはずです」
せめて、秀斗という人物が本当に国のことを思っていることを伝えたい。自分が言っても説得力にかけるかもしれないが、それでも伝えたい。
「私のせいで秀斗皇子がこんなことになってしまったことは謝ります。でも」
「そもそも、私は月一族が皇族で、皇帝を代々継いでいることに首を傾げたい」
だが、そんな風華の訴えに遮るようにして口を開いたのは江燕だった。そんな江燕の訴えに国民は一斉に江燕に目を向ける。
「まず皆さんはこの国が出来る前の話しを知っているでしょうか。国民の皆さんでしたら知っているかと思いますが、この国の始まりは月しか昇らない土地。そこで考えてみてください。月しか昇らせない土地にしたのは闇の娘です。つまり闇の娘の象徴は月。そんな一族が皇帝を継いていることに、首を傾げませんか」
江燕はさらに続ける。
「初代皇帝は何故「月」という性を名乗ったのかは定かではありません。しかし、もし元から月一族が闇の娘と関係があったとしたら、辻褄が合うとは思いませんか」
してやられた。秀斗はあたりの国民のどよめきに危機感を感じていた。それは月一族の危機ではない。この国の混乱だ。
江燕の目的は月一族の皇帝の座からの失脚、そして混乱に乗じて自信がこの国の頂点に立つこと。
以前から薄々は分かっていた。江燕が秀斗を見る目は哀れな人を見る目。その真意に気がついた時にはもうことは進みすぎていた。それを止める手立ては一つ。風華を救い出すこと。
雷が近くで落ちるのが見えた。
「確かに・・・」
「月はこの土地に君臨しすぎた」
「だとすれば」
だんだん秀斗に向けられる視線が変わっていく。これは殺意だ。
そして、その光景を見ていた珠麗と白玉は言葉を失った。
「なんてことをっ」
「くそっ、間に合わなかったかっ」
同じくして城の中から様子を見ていた紫翠は目を細めた。
「江燕・・・」
だが、突然紫翠の隣に紅鈴が現れた。
「これで満足か、姉上」
「違うわ・・・こんなこと、望んでないっ」
「だが、結果はこれだ」
「おやめください、紅鈴皇子」
そんな紅鈴の前に立ったのは奏だった。
「こうなったのは誰のせいでもない。強いて言えば、こうなることを予想していても阻止できなかった我々の責任だ」
「奏・・・あなた・・・」
「すまない」
人々が秀斗に向ける視線が殺意に変わっていく。その様子を目の当たりにした風華は一心に秀斗を見つめた。
今ならまだ間に合う。きっと秀斗の力があればまだ逃げられる。
だが、秀斗は一歩も動かなかった。
雷の
(何かがおかしい・・・)
それと同時に秀斗の中で何かが疼いているのが分かった。
雷の轟音と共に何かが疼いている。
(− 何を迷っている −)
その時、秀斗の頭の中で声が響いた。
(これは・・・)
(− もう、答えはお前の中にある−)
(何を言って・・・)
しかし、その間にも処刑の準備は進んでいく。そして、ついに風華の足元に火がつけられた。
木に燃え移った炎は勢いよく風華の足元で燃え、どんどん上に上がっていく。
すると、今度は違う声が響いた。
(= 君の努力が身を結ぶ時は来た。さぁ=)
体の芯から力が湧き上がってくる力。雷と炎。まさかこれは。
遺跡で見た不思議な図。そして、秀斗は初代皇帝のある言葉を思い出す。
− 初めて見た月は美しかった。私もいつかあんな月になれるだろうか −
ずっと気になっていた文だったが、この図と重ねてみるとどうだろうか。
月の書かれたくくりの前に書かれていたのは何もない図。そう、何もない空。
初めて見た月。何もない空。
「秀斗ーーっ!」
響く風華の声。その声が波紋となって心に響いてくる。すると、とある映像が流れ込んできた。
そこにあったのは、何もない空。その空を眺めている1人の青年。その青年に声をかけたのは1人の女性だった。
『私にはこれしか出来ないけど、あなたたちに光を』
その言葉の直後だった。だんだんと少年の顔を光が照らし出した。
そして、少年の前には月が現れた。
『あとはよろしくね』
そう言って女性は姿を消した。
これで全てが繋がった。初代皇帝の謎多き言葉の数々。そしてあの遺跡の図。これらを全てが繋がった時、娘の物語は終焉を迎える。
(ありがとう、風華)
やはり君は悪なんかじゃない。むしろ、君がいなくてはこの国は終わっていたかもしれない。
全てを話そう。この国の本当の物語を。
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