第12話〜最期の別れ〜
時を同じくして、風華は秀斗とは違う牢獄に入れられていた。
2日後に執行される刑罰。それは国民の前で
炎帝国の象徴によって処刑することに意味があると軍人は言っていた。
(もしも・・・私が秀斗に出会わなければ・・・秀斗はこんなことにならなかったのかな)
今でも鮮明に覚えている。初めて秀斗に出会った日のこと。
あの日は風華にとって生きる意味を、理由を見つけた日。それをなかったことにしたくないが、あの日がなければ秀斗は次期皇帝としていまも華々しく輝いていたに違いない。
やはり闇の娘は人を不幸にすることしかしない。
「そんな顔、あなたらしくなくてよ」
そんな時、静かだった空間に凛とした声が響いた。
「っ・・・珠麗・・・」
暗い牢獄には全く似合わないその雰囲気と立ち姿。格子越しにいたのは紛れもない珠麗だった。
「本当にあなたが闇の娘でしたのね」
返す言葉もない。友人だと言ってくれた彼女になんて言ったらいいのか。
「なんとか言ったらどうなの」
「・・・ごめんなさい」
何も言葉が出てこない。どう言ったってそれは言い訳にすぎない。
「でも、もうこれでさよなら。あなたがこの国を支える光になる。闇は地に朽ちるだけ」
「馬鹿じゃないのっ!」
しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。
「え・・・」
「どうして謝るのっ。あなたが好き好んで闇の娘になったのなら別ですけどっ、これは決められたことじゃないっ。私は純粋になたのことが好きだったっ・・・。最初は闇の娘が怖くて怯えていたけど、でもあなたみたいな人が闇の娘だなんて拍子抜けよ」
ポタリ、と珠麗の頬を伝って涙が地面に落ちた。
「闇の娘なんていなくなればいいっ!でもあなたは生きてずっと隣にいてほしいっ・・・」
いつも綺麗に化粧してあった顔が涙で崩れてしまっている。そんなのも御構い無しに珠麗は膝から泣き崩れてしまった。
こんなにも誰かに必要とされたことは秀斗以外にあっただろうか。
生きていてほしいなんて、言ってもらったことがあっただろうか。
「しゅ・・・れ・・・い」
そんな時、風華の目から一雫の涙がこぼれ落ちた。
(えっ・・・私、泣いてるの?)
もう決心はついていた。自分は消えるのだと。2日後にはこの世から消えてなくなるのだと。
しかし、この涙はなんだろうか。
するとそこに白玉が静かにやって来た。
「全く2人揃って涙もろいことで」
「白玉お兄様・・・」
これはいい機会だ。風華はすかさず口を開いた。
「白玉皇子。珠麗皇女を連れて行ってもらえませんか」
「風華っ。あなた何をっ」
だが、風華の心中を察したのか白玉は黙って頷くと珠麗の腕を強引に引っ張った。
「痛いっ。お兄様何をするのですっ!風華っあなたもっ」
ぐいぐい引っ張って行けれる珠麗の姿を最後まで見れず、風華は目をそらした。
「風華」
ふと、歩みを止めた白玉が声をかけた。
「ありがとう」
そして、再び歩みを進めた。
牢獄の重たい扉が閉まる音を確認すると、風華は膝から崩れて落ちた。
あのまま珠麗の言葉を聞いていたら決心が揺らいでしまう。
もう決めたことなのだ。
せめて、秀斗だけでも元の世界に戻してあげたい。自分と道ずれにはさせない。
ありがとう、珠麗、白玉。
そしてさようなら。
そしてついにその日はやって来た。
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