第10話〜決別〜


 そうして、事態が収まってきたのは数日後のことだった。

 皇族の協力もあってか最悪の事態を避けることができた。そして、その日の夜、秀斗は急いで風華のいる部屋へと向かった。

 あの大きな揺れからまだ風華に会えていない。紅鈴から無事だということは聞いていたが、やはり直接会って確かめなければ落ち着かない。

 とその前に珠麗の様子を見てきたが、未だに目が覚めていない。今は白玉がそばにいて珠麗の目覚めを待っている。

 − お前は風華の元に行ってやれよ。・・・分かってる。珠麗のことは俺に任せろ。なんせ、今は俺が珠麗の親代わりだからな −

 そんな白玉に見送られ今に至る。

 辺りは静寂に包まれている。月明かりがしんしんと城内に降り注ぐ。そして、ようやく風華のいる別棟の入り口までやってきた。

 そこで秀斗は気がつく。

 やけに静かだ。夜だから当たり前のことだが、そうではない。

 音がないのだ。風の音、人が歩く音。何も聞こえない。

 扉を静かに開けて中を覗くと、そのには窓から月を眺める風華の姿があった。

 その姿は今までの風華とはどこか違う。少し大人びていて、近寄りがたい雰囲気が漂っている。しかし、秀斗の存在に気がつくといつもの笑みを見せる。

「お疲れ様、秀斗」

 秀斗は歩み寄ると風華の頭にそっと手を乗せた。

「ありがとう」

 無事だったか、なんともなかったか。そんな言葉は今の2人の間では必要なかった。こうして会えただけで十分、証明になる。

「なんとか被害は最小限に抑えられたよ。ただ、気がかりなのは城下の中心に現れた遺跡らしきものなんだ。明日見に行ってくる」

「うん」

 風華はここ数日で分かったことがあった。珠麗はおそらく闇の娘の気配に当てられてしまったのだ。というのも、あの揺れの後から少しずつ力がのが分かった。そして、今の秀斗の話しで確信した。

 全ての元凶はその遺跡だ。

「・・・今まで、娘の物語について色々調べてきたけど、わからないことだらけで進展も何もなかった。でも、この遺跡を探っていけばきっと何かわかる。・・・俺を信じて待っていてくれるかい?」

 この遺跡は娘の物語に大きな意味を持っている。そう何かが告げていた。

「待ってる。ここで待ってる。だから、心配しなしで」

 風華のその返答に秀斗は反射的に風華を抱きしめた。

 身勝手なことを言っているのに、酷なことを言っているのに。

 彼女はこうして背中を押してくれる。

「必ず帰ってくるからっ」

「うんっ」

 何があってもここで待ってる。




 そして、翌日。秀斗はついに遺跡へと足を踏み入れた。

 遺跡の中はひどく暗いものの、わずかな光でなんとか足下は見える。

 なんとも言えない気配は満ちている。濃い神力がその空間を満たして来るものを拒んでいるようにも感じる。

 しかし、隣で歩く千里の神力のおかげで難なく前に進める。

 そして、秀斗は前方の側壁に一つの絵を見つけた。

 それは、円の中に四つの区切りがあり、全てのくくりに人が1人描かれている。左上のくくりには何もなく、その右には月、その下は雷、さらにその左には太陽が描かれている。

 月から雷、そして太陽の流れはだいたい分かるが、何も書かれていないくくりには何か意味があるのか。

 しかしその時。

「秀斗皇子、あれをご覧ください!」

 千里が前方に何かを見つけた。すぐにその方へと顔を向けるとそこにあったのは。

「これは・・・」

 壁一面に書かれた文。そしてその文をたどっていくと、細々とした文が続く。そして。

「ふう・・・か」

 最後の文。そこに書かれていたのは「風華」の文字。

 そう、ここに書かれていたのは歴代の闇の娘の名前だった。

 これだけの人たちが闇の娘の名の下にその人生を終えたのだ。

「やはり、ここは闇の娘に関係した遺跡だったんですね。しかし、何故突然出現したのでしょうか」

「風華と珠麗が出会ったからだよ。闇と光の接触がバランスを崩したんだ」

 本当に珠麗には悪いことをした。

 しばらく遺跡を探索した秀斗は一度整理するために城へと戻った。

 しかし。

「お帰りなさいませ、秀斗皇子」

 城の玄関で出迎えたのは江燕だった。

 しかし、そんな彼の周りには沢山の「錬」の軍人の姿があった。

「物騒な出迎えですね。どうかしましたか」

「もう、この城にあなたの居場所はありません。大人しく同行してください」

「と、言うと?」

「あなたは闇の娘を匿っていた。それは重大な犯罪です」

「何故匿っていると?何を根拠に?」

「秀斗、もう終わりにしましょう」

 その時、江燕の後ろから現れたのは紫翠だった。

「姉上・・・」

「やっぱり、闇の娘は存在するべきではないの。この国のために」

 すると、軍人はがっちりと秀斗の両脇をつかむとそのまま連行していった。

 連行される秀斗の姿を見て紫翠は目に涙を浮かべたが、決して目をそらすことはなかった。


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