第9話〜確信〜

 大きな地面の揺れ。それは執務室で白玉と共に公務に当たっていた秀斗にもかなりの衝撃が加わった。

「この揺れはっ」

 執務室にいた他の官吏も壁に掴まる者や、机の下に潜る者などもいる。

 しばらくの揺れの後、ようやく収まった。

「怪我はないかっ、秀斗っ」

「うん、俺は大丈夫。けど、城下が心配だ」

「そういうことでしたら、我々にお任せください、秀斗皇子」

 その時、執務室の入り口に一斉に顔が向けられた。

「蘭 江燕殿・・・」

 その視線の先に立っていたのは江燕、その人だった。

「「錬」の出動許可を。城下の様子を見て参ります」

「・・・分かりました。緊急事態です。至急お願いします」

 江燕は一礼すると部屋を後にする。

 だが、秀斗は不信感を拭えない。

 対応が早すぎる。揺れが収まってから時間が経っていなかったにも関わらず、江燕はすぐにやってきた。

 もしや、分かっていたのか。

 いや、まさか。

「秀斗、珠麗や風華が心配だ。様子を見に行って来る」

「分かった。俺もすぐに行くよ」




「珠麗っ、珠麗っ!しっかりしてっ!」

 揺れが収まった後、珠麗が心配で部屋の外を覗いた風華だったが、目の前に見つけたのはへたりと地面に座り込む珠麗の姿だった。

「嫌っ・・・入って来ないでっ・・・」

 珠麗は頭を抱えて必死に何かを訴えている。

「お姉様っ。気を確かにお持ちくださいっ」

 花鈴の必死な訴えてにも全く反応しない。彼女に何が起こっているのか。

「珠麗!無事かっ」

 そこに慌てた様子の白玉がやって来た。

「白玉お兄様っ。お姉様がっ」

「大丈夫だ。落ち着け、花鈴」

 白玉が珠麗の顔を覗き込んで声をかけるが、全く反応はなくずっと頭を抱え込んでは何かをつぶやいている。

「とにかく、俺は珠麗を部屋に運ぶから、風華は部屋から出ないでくれ。秀斗が直に来る」

 コクリと頷いた風華を見た白玉はそのまま珠麗を抱えて部屋に急いだ。

 珠麗は大丈夫だろうか。白玉と花鈴の後ろ姿を見送った風華はそっと瞳を閉じた。

 なんだか胸騒ぎがした。何かが起ころうとしている。

 それは確実に光と闇の娘に関係すること。




「秀斗皇子、事態は深刻です。城下はほぼ壊滅状態。被害者も増え続けています」

「皇子、突如として城下の中心に大きな遺跡が出現しました」

 秀斗の周りでは次々と事態が明らかになっていく。

「遺跡については、ただいま蘭殿が関連性を捜査しております」

「とにかく、国民の安全確保が最優先だ。光 千里の結界の神力を中心に国民を安全な場所へと誘導し、確実に情報を集める。全力を尽くしてほしい」

 秀斗の指示で官吏たちは全力を尽くすがまだ全貌は見えてこない。そこに。

「秀斗皇子、珠麗皇女が倒れられたとの知らせが」

「珠麗が?」

「はい、どうも様子がおかしく、もしや光の娘がらみではないかと白玉皇子が」

 もしや、この揺れは光と闇の娘に関係しているのか。となれば、出現した遺跡も何か関係があるのか。

 いや、それよりも、珠麗に異変があったということは風華の身にも何か起こっているかもしれない。

 早く、彼女の元に行きたい。だが、まずは皇子としての役目を果たさなければ。





「お前はなんともないのかよ」

 そして、再び部屋に戻った風華の元には紅鈴の姿があった。

「なんともない、のかな。珠麗に比べたら。でも、なんだかさっきからずっと呼ばれている気がしてならないの。あっちの方から」

 そう言って風華が指差したのは城下の方面だ。

「お父さんとお母さんは大丈夫かな。怪我してなければいいけど・・・」

 そう言う風華の背中はやけに小さく見えた。自分よりも歳は上のはずだが、この時はとても小さく見えた。

「だったら、この隙に逃げたらどうだ」

 そんな紅鈴の言葉に風華は勢いよく振り返った。

「今なら何事もなくこの城から逃げられる。俺はお前がいようといまいと関係ない。闇の娘だか光の娘だかの物語には滅方興味ない」

 風華からすれば美味しい話に他ならない。この混乱に乗じて帰ることは容易に可能だ。そうすれば、今ほどに怯えた生活をしなくて済む。こんな皇族に囲まれた生活をしなくて済む。

「私はどこにも行かないよ」

 しかし、風華から帰って来たのは思いがけない一言だった。

「え・・・」

「帰らないよ。確かに、お父さんやお母さんのことは心配だし、ここにいると少し息苦しいけど、でも私はここで秀斗の力になるって決めたの。どんなことが自分に出来るのかなんて私にも分からないけど、それでも、私は秀斗の力になりたい」

 馬鹿なのか、お人好しなのか、この人は。

 自分が置かれている立場は極めて悪い。それでもここに残って秀斗の力になりたいと思うのか。

「ありがとう、紅鈴君。私なら大丈夫だから」

 とんでもない変人だ。

 紅鈴はそう思いながらも、どこか心の中で温かいものを感じていた。



 そして。

「・・・これで確信したな」

 遺跡の中でとある文を見つけた江燕。

 そこには沢山の名が刻まれていた。その中には「風華」の文字が。

「秀斗皇子が匿っている少女の名は「風華」で間違いないのですね・・・紫翠皇女」

 そんな江燕の後ろには紫翠と奏の姿があった。

「えぇ、そうよ」

 紫翠のその一言で江燕はついに勝利を確信した。

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