第8話〜予兆〜
そんなこんなでようやく迎えた夜。風華はいつもより早く寝巻きに着替えて布団に入った。
突然殺されかけたかと思えば秀斗の姉である紫翠に助けられ、しかし帰ってくると光の娘の珠麗に出会い。本当にたくさんのことが一日で駆け巡ったため、疲れもぐっとくる。
こんな日の後はきっといい日になる。そんな母の教えを頭に浮かべて
「こんな奴が闇の娘なのか」
聞き覚えのない声が頭上から降ってきた。まさかの展開に風華は急いで上半身を起こした。
目の前は月の光がわずかに差し込む室内。しかし、そこに人の姿はない。
(今確かに人の声が聞こえたような・・・)
「しかも、まだガキかよ」
今度ははっきりと聞こえた。だが、肝心の姿がどこにもない。そう思った矢先、風華の目の前にぼんやりと人の姿が見えてくる。突如宙から現れたのは風華とあまり歳の変わらなさそうな少年だった。
「あなたは・・・?」
「まさかお前、俺の姿が見えてるのか?」
風華の反応に思いの外驚いている少年。しかし、風華の目にははっきりと少年の姿が見えているため、少年の言葉がすんなりと頭に入って来ない。
「見えてるのかって言われても、当たり前でしょ・・・?」
「・・・そうか、無力化の神力、か」
少年は自身で納得したのかすぐに平常心に戻る。
「こんなやつのお
「もしかして・・・紅鈴君?」
秀斗から大まかなことは聞いている。
月 紅鈴。月一族の第七皇子。彼が持つ神力は自身の存在を他人に認知させなくする神力。歴代の中でも珍しい神力らしく、その公務からあまり城にいないという。
「私は風華。よろしくね」
しかし、紅鈴は風華から差し出された手を握り返すことはしなかった。代わりに返ってきたのは。
「俺は兄上の指示だからこそいるだけだ。きっちり見張っててやる」
そう言って部屋の出口へと歩き出したのだが、部屋は月明かりだけが頼りであまり視界が良くない。そのせいか紅鈴は思いっきり壁へと激突した。
「痛っーーーっ」
痛む額を抑えるその姿は、まだ幼い子どもそのものだ。
「ぷぷっ」
秀斗の弟と聞いてどんな人物かと想像したが、思いの外面白い人物のようだ。
「わ、笑うな!!」
それとも、歳のせいなのか。
「ごめんね。悪気はないの」
何せ、彼はまだ12歳なのだから。
そうして、翌日から珠麗は風華の部屋を訪れるようになった。
ある日はその日の政治の話。ある日は今皇族の間で流行っているファッションの話。またある日は秀斗のこと。
珠麗は風華が知らない話をたくさん持って来ては、楽しそうに話していた。そんな中、出会ったのは珠麗の妹だという陽一族の第七皇女の陽 花鈴だ。珠麗のことが大好きで、よく珠麗と行動を共にしているという。
「そういえば風華。あなたは秀斗様が持っていらっしゃる神力についてご存知?」
そんなある日。珠麗はいつものごとく風華の部屋を訪れていた。
「そう言われてみれば知らないかも・・・」
花鈴が入れてくれた美味しいお茶を手に風華と珠麗は机に向かい合う形で座っていた。
もちろん、珠麗の隣には花鈴の姿もある。
「秀斗様がお持ちの神力はこの国も象徴でもある「炎」、そして「雷」。これらの神力を持っていたのは初代皇帝以外、いないそうよ」
そういえば、風華が「錬」から助けてもらった時に突然炎に囲まれたが、あれは秀斗の神力だったのか。
「そもそも、この国の始まりは月しか昇らない土地。そこで暮らしていた人々はいつも炎を焚くことで灯りを作り、そして寒さをしのいでいた。やがて、時は流れて、光の娘が現れ太陽を昇らせると宣言した時、空はたちまち黒い雷雲に覆われ、その雲が晴れた時には太陽の光が土地を照らし出した。そこから、「炎」と「雷」がこの国の象徴とされているの」
ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚が風華を襲う。
そう、元は月しか昇らない土地だった。
そうしたのは他でもない、闇の娘だ。
「もしかしたら本当に闇の娘は近くにいるかもしれないのよね。何せ予兆が多すぎるもの」
「た、例えば?」
「そうね。例えば千里がそう言われているわ。光一族は代々月一族に仕えてきた一族だけども、ある言い伝えがあって、一族の中に神力の使い手が現れた時、必ず闇の娘が現れるというものよ。神力は本来皇族が持つ力。主人である月一族と同じ力を持つということは最大の不幸を招く、というのが光一族の考えだそうよ」
「不幸ということは・・・」
「そう。月一族が闇の娘と結ばれ国が滅びること。そこから来ているそうよ。千里はれっきとした結界の神力の持ち主。一族からは酷い扱いを受けているわ」
まだあんなに小さな体で頑張っているのに、神力を持ったということだけで不幸扱いされるなんて。
しかし、光一族の言い伝えも間違っている訳ではなさそうだ。
「さて、時間も時間ですし、今日はこの辺りで引き上げさせていただきますわ。また明日。ごきげんよう」
そう言って心のままに帰っていく珠麗を見送った直後だった。
空間が歪んでしまったのではないかと錯覚するほどの大きな地面の揺れを感じたのは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます