第28話「それでも俺にはメイドがいる」

「ふぅん。お手柄ね上総。調査の結果、あの屋根裏にあった遺骨は市内で多発していた女子高生たちのものであると判明したわ」


 二時間後、上総は都内のファミレスで制服を着たままシェイクを飲む紅に案件処理報告を行っていた。


「そっか。そいつは気の毒にな」


「天井下がりは昔から屋根裏に溜まった陰の気が積もって召喚されるといわれる異界の生物よ。ああ、当然失踪していた家の主人は指名手配されたわ。指紋や少女たちを監禁していた道具も多数発見されてる。上総が斃した妖怪も好き好んであの場所に出たわけじゃないし災難よね」


 紅はソファに深く身体を倒すとフーッと疲れたように息を吐き出した。


「ま、この先は司法の手に委ねるべき問題で退魔士であるあたしたちにできそうなことはないわね」


「……なんだかやけに疲れてるみたいだが」


「文化祭の実行委員に祭り上げられちゃったの。普段もちょくちょく授業を抜けてるし、さすがに面と向かって拒否できる状況じゃなかったわ。はぁ、災難よね」


 不貞腐れたように紅はべたっとテーブルにうつぶせになると、さも大変そうにもう一度これ見よがしに溜息を吐く。彼女のしっとりとした長く美しい黒髪が浜に打ち上げられた海藻のように広がった。


「大丈夫か?」


「もう最悪よ。めんどくさいことこの上ないもの。文化祭なんてそもそもあたし興味ないのに」


「兄さん、兄さん、紅は兄さんに心配して欲しいんだよー。紅ってばほかに愚痴聞かせる相手もいなし、寂しいし友だちいないしスマホの登録兄さん姫さんメイドさんの三人だけだし甘えてるだけだってば。ほっとけほっとけ。とんだかまってちゃんでマジ、メンヘラ気質だよなー」


「お、おい」


「紅は兄さんにやさしくして欲しいんだよなぁ。とんだ甘えっ子だよ。こういう女ってマジ疲れるよな。兄さんも紅と知り合ったが運の尽き――」


 外道丸がぴょいっとテーブルに乗り移りフライドポテトを咥えてそう嘯くと、倒れ込んでいた紅の手が速やかにその喉へと巻きついた。


「ねぇ外道丸。あたしが疲れてるときに余計に疲れるような真似すんなっていっつもいってるでしょ。学習能力ないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」


「ぐ、ぐるじぃ……」


「あー、はいはい。わかった、わかったから。だから紅、外道丸をンなにイジメんなって。動物愛護団体に訴えられるぞ」


「ふんだ。第一、コイツはあたしの所有物なのよ。煮て食おうが焼いて食おうがカリッと揚げようが勝手でしょ」


 紅は顔にかかった髪をかき上げるとそっぽを向いて咥えたストローをぴこぴこ動かした。


「ま、ともかくもとりあえず仕事は完了したんだから、さ。今日は遅いしここいらでお開きってことにしようじゃないか。な? 紅もお疲れのようだし」


 上総は焦りながらもなんとか紅の機嫌を取ろうと終始する。が、明後日の方向を向いたまま腕を組んでいた紅は余計に膨れっ面になった。


「なによ。あたしがせっかく時間作ったってのに、追い払うみたいにさ」


「ん。今、なんかいったか」


「なーんでもない。あー、もうそういうわけであたしは帰ります。報酬は口座に振り込んでおいたから、これからはたいした用もないのに呼び出さないでくれますぅ」


「あ、おい。ちょっと待った。どこ行くんだよ」


 紅は突然立ち上がると長い髪を振って足早に店を出てゆく。遅れて外道丸が店に残された上総を振り返り振り返りすまなさそうに追っていった。


「……なんだぁ? そもそも店に来いっていったのはおまえのほうじゃないか」


 上総はぬるくなったコーヒーに口をつけながらスマホを立ち上げメールの履歴を確認した。


 ロインにはポップなアニメのスタンプが打たれたのち、確かに上総に対してファミレスまで来るよう書かれていた。


(んー。やっぱりあの年頃の娘がなに考えてんのかわからーん。いわゆるひとつのジェネレーションギャップってやつか)


「あのお客さま」

「え、あ、はい?」


 ふと顔を上げると店員が眉根を寄せて口をもごもごさせていた。


「その、当店は一応ペット禁止なので……フェレットですかね? 次回からはお連れさまにもそのようにお伝えしておいていただきたいのですが」


「うあ、すみません、すみません」


 どうやら傍目には愛玩動物を連れて堂々と深夜に密会するカップルだと思われていたらしい。


(まさか援交でもしてると思われたんじゃ。うあー、最悪だよ、マジで)


 だが年齢的には三十の声が聞こえる上総と十六歳のリアルJK紅とでは歳の差があり過ぎてそう勘繰られても仕方なかった。


 深くうつむくと支払いレシートを取って立ち上がる。


 同時にスマホンへとひよひよと小鳥が鳴くような着信音が流れた。視線を画面に落とす。そこには紅の送ったアニメスタンプが打たれていた。少女が大きく舌を出し「ばーか」といっている。上総は脱力すると足を引きずるようにしてレジに向かった。





 

 紅と別れて四畳半のアパートに向かう。


 秋葉原のダンジョンを攻略して日本の首都における安寧を守った立役者の上総であったが経済状態はあまり変わっていなかった。


 発端はリリアーヌが引っかかったおれおれ詐欺だ。

 秋葉原ダンジョン攻略後の話だ。


 上総は紅から請け負った退魔の仕事を着実にこなすことによって以前の営業職とは比べものにならないほどの大金を短期間で得ていたのだが、ある日それらをすべて失った。


「アンタね、金がないわけじゃないんだから固定電話くらい引いときなさいよ」


 これだけ携帯電話が普及していまさらなにをと思わないでもなかったが、紅はJKにしては思考が古臭かった。


 おまけに仕事の発注先はお役所なので上総の自宅にも固定電話があったほうがなにかと都合がよかったのも仇になった。上総のアパートに固定電話が引かれたのは間もなくだった。


 そうなるとアパートに妙な勧誘電話がかかってくる。

 日中上総はアパートにはいない。


 ――そして悲劇は起きた。


 たまたまひとりで留守番をしていたリリアーヌは「上総の危機」という電話先の詐欺師に騙されあっさりと自宅にあった現金をすべて駅前で待機していた自称上総の業務関係者に進呈することとなった。


 ――よかったです。これでカズサさまは救われました。


 詐欺師に金を手渡した際、安堵のあまりリリアーヌはそういった。


 もちろん騙されたとわかったあとの彼女の落ちこみようは見ていられないほどであった。


 リリアーヌは歴とした王族だ。そもそもが金品に執着がない。リリアーヌが自分を責めるのは、奪われた金銭を上総がどのようにして稼いだかを誰よりも知っていたからだ。


「どうすればいいでしょう。カズサさま。わたくし、この大罪一死を持って償わなければ……」


「姫さま、私もお供いたしますゆえ、勇者さま。姫さまの罪をなにとぞお許しくださいっ」


「いやいやいや、死ぬとかないから」


 ぼろぼろと大粒の涙をこぼすリリアーヌとクリスを止めるのに上総は多大な労力を費やさなければならなかった。


 人間万事塞翁が馬である。楽あれば苦あり、苦あれば楽あり。


 上総の脳裏にはさまざまな故事成語が次々と浮かんだ。


「ま、終わったことは仕方ないんで」


 綺麗サッパリからっけつになった上総はむしろサバサバしていた。紅はことの発端が自分にもあり責任を感じており、霧散した貯金の穴埋めを上総にさせるべく次から次へと退魔の仕事を取って来ては上総に振るようになり、少なくともここ最近は暇に悩むことはない社畜勇者として恥ずかしくない激務の日々を過ごしていた。


「はぁ、だが、ウォーターサーバーや謎過ぎるエナジードリンクを売りつける仕事よりかはマシなのか」


 少なくとも業務は都内限定であるし最低限日付が変わる前には必ず帰宅できているだけヨシとするべきか。疲労で重たくなった身体を引きずり歩いていると、不意に住宅街の一角からあらゆる気配が消えた。


 またか、と上総は胸のうちに溜まった澱を呼吸とともに吐き出した。視線の先。なんてことのない電柱の陰から虚無僧の姿をした男たちがバラバラっと飛び出して来た。


 前方に三人、後方に五人。計八名。


 いずれも身のこなしからして一定以上の練度を積んだ刺客であった。


「なぁ。こういうのもうよしませんか。俺らが岩手組を出し抜いたのはまぐれだって」


 虚無僧たちは返事もせずにジリジリと間合いを詰めて来る。


 そうなのだ。


 あの日、上総が所属していると思しきいわゆる「白河組」は日本各地の退魔士から狙われる事態に陥っていた。


「冗談じゃない。今は二十一世紀だよ。なんで時代劇チャンネルみたいな殺陣をくったくったの疲れ切った身体でやんなきゃなんないのさ。みなさん、アレですよ。俺をとっちめてもなーんの得にもなりませんからね。時間の無駄ですって。それよりまだ最終あるみたいですから駅まで走れば間に合いますよー」


 退魔士たちは一様に無言だった。目の前の上総を倒すことが至上の命題と思い込んでいるのか、こうして深夜になると突如として現れ襲いかかって来るのはもはや固定イベントになりつつあった。


 上総は革カバンを片手に濡れた犬のようにして頭を左右にぶるぶると振った。


 それから右手でもしゃもしゃと自分の頭髪を掻いた。


 ――とっとと帰って熱いシャワーを浴び飯食って寝たい。


 だが、虚無僧たちは手に手に錫杖を構えつつ包囲の輪を縮めて来るのだ。とてもではないが話し合いで解決できそうにない。こういう輩たちは目立つ人間を蹴落とすことでわずかでも自分というものが少し高い場所に上ることができるとてんから信じているのだ。


「て、ちょっ! いきなり問答無用ですか?」


 前の三人は無言のまま突っ込んで来た。


 錫杖は一七〇センチ程度である。長物といえば槍や薙刀を常に相手にしていた上総にとってみればやや中途半端な感が拭えない。


「まぁ。仕方ないなー」


 しゃらんと軽やかな音を鳴らしながら錫杖が迫る。


 先端は尖っていてまともに喰らえば大怪我どころではすまされないだろう。


 上総はわずかに腰を落とすと素早く虚無僧たちの前を踊るように舞って左側の壁に跳んだ。


 とん、と爪先で壁を蹴る。


 次の瞬間、上総は虚無僧たちの背後に三本の錫杖を持ったまま立っていた。


「危ないなー。少なくとも初対面の人間に向けていいものじゃないぜ。コイツは」


 と上総が世間話をするようにいって手にした錫杖の束を地面に放った。


 それらは一瞬の間に丹念かつ再生不可能なほど念入りにブチ折られゴミと化していた。


 同時に虚無僧たちがかぶっていた深編笠――天蓋と呼ばれる筒形のもの――に斜めの亀裂が入ってバサバサと落下した。男たちの素顔は一様に若く上総と同じ二十代であろうか。誰もが信じられないといように驚愕の表情でその場に固まっていた。


「で、どうする? まだやるかい」


 錫杖の先端にあった輪っかを上総が指先で回転させながら聞くと男たちは胸元から匕首を取り出し腰だめにして突っ込んで来る。


 上総は革カバンへわずかに魔力を込めて強化すると迎え撃った。


 ばんばんばん、とまとわりつく子供をあやすようにカバンで男たちを打った。ただのカバンと侮るなかれ。強化されたカバンは至近距離の剣銃弾を弾くほどの硬度を持っておりそんなもので殴打されればたまったものではない。顔を、肩を、腕を打たれた男たちは悲鳴を上げながら吹っ飛ぶと痛みにもがき苦しみながら七転八倒した。


 おそらくは挟み撃ちを狙っていたため後方に待機していた五人が呆気にとられたように立ち尽くしていた。


「ま、まだだ。こっちのほうが数が多い――! 一斉に仕掛ければ」


 襲撃グループのリーダーだろうか。大柄な男が深編笠の下で叫ぶ。


「勘違いしてないか。おまえが頭なら、まずおまえから来いよ」


 上総の言葉に触発されたように巨漢がすっ飛んできた。


「ちえええっ!」


 だん、と大きく地面を踏み込んで飛び上がった。錫杖が真っ直ぐ脳天目がけて振り下ろされる。


 が、あえて受けた。


 もの凄い衝撃音とともに巨漢の振りかぶった錫杖はバラバラになって四散した。


 瞬間的に上総は魔力を頭部に這わせてガードを行ったのだ。


 虚無僧の手にしていた錫杖は柄の半ばからぽきりと折れて転がっている。


 上総は無言で乱れた前髪を指先で払うと猫のような忍び足で前に出た。


「ば、バケモノが!」


「あのなー。俺だってちっとは痛いっての。まったく」


 虚無僧の怯え。上総は見逃さない。

 瞬間的に距離を詰める。


 唇から鋭く呼気を吐き出しながら掌底を見舞った。

 ずん、と鈍い音が鳴って巨漢が吹っ飛ぶ。


 二メートル近い男の体躯は毬のように水平に飛んで後方の仲間を巻き込みながらも勢いを殺し切れずさらに一〇メートルは距離を稼いだ。


 上総は確かに巨漢のあばらを粉々に砕いた。手のひらにその感触が残っている。視線を向けると男たちにもはや戦意はなく我先に逃げようと立ち上がっている最中だった。


「ちょっと待った」


 逃げようとしていた男たちの動きが加速する。面白いように彼らの心理が見て取れた。


「おまえらのお仲間ちゃんと回収していけよ。ご近所さんに迷惑だからな」






 狭苦しい自宅アパートの明かりが見えると上総はようやく安堵のため息を漏らした。


 カツカツカツとさびた手すりのある階段を勢いよく登ってたどり着くとドアノブに手をかける前に開いた。


「お帰りなさいませ勇者さまっ」

「ただいまクリス」


「もうもうもう。待ちくたびれちゃいましたよう。もうもうもう」


 メイドの姿のクリスは独特のリズムを取ってそういうとパタンと扉を閉めた上総へと飛びついて来た。


「ちょ、クリス?」


 上総は抱き着いて来たクリスの好きにさせながら手にしていた革カバンをそっと上がり框に置いた。クリスは上総に抱き着きながら胸板に顔を埋めふんふんと鼻を鳴らしている。帰りを待ちわびたわんこのようによろこびを身体全体で表していた。


(む、胸が……)


 ボリューミーなクリスの胸の感触が伝わって来て上総は頬がゆるむのを止められない。なんともいえないフレグランスな香りがクリスの身体から立ち昇る。上総の帰宅に合わせて身体を洗い清めていたのであろう。


(ヤバい。メチャうれし過ぎる。さっきはアキバ救ったのちょっと後悔しかけたけど、これはなんていうか、たまらん)


「ぎゅーっです」

「え、ええと。これはなんなのかな?」


「勇者さまが分がクリスには不足していました。なので今から急速充電なのです。ぎゅーっ、ぎゅぎゅぎゅのぎゅう」


「いやいやいや。俺、あっちこっち回ってきて汚れてるし汗臭いしさ」


「そんなの関係ありません。それに私にとってはすっごーくいい匂いなのですよ」


「ええと」


(これは抱き返してもいい展開なのではないだろうか)


 恐る恐る彼女の身体に腕を回してより一層密着度を高める。するとクリスはサッと顔を上げて目をまん丸にして上総を見た。


(マズったか? 俺、調子に乗りすぎたかな?)


「うれしいですー。やっと勇者さまが私にハグを返してくれましたー。もうっ、もうもうっ。ホントに恥ずかしがり屋さんなんですからぁ」


 クリスはそういうと喜悦の表情で余計に身体をぐりぐりこすりつけて来る。上総はやわらかな少女の身体とまるで隠すことのない絶大的な好意の海に溺れながら十五分近く玄関先でクリスト抱き合うのだった。


 ――しばらく経って先に我へと返ったのはクリスであった。


「は! いけません。おヤカンさんがぴーひゃららと鳴いております」


 クリスは素早く跪いて上総の靴を脱がすとその流れで上着も取ってクローゼットに仕舞いブラシをかけ風のような速さで台所に戻っていった。


「いつもながらなんという手際のよさ」


「待っていてくださいね。すーぐお夜食お造りしますからねー」


 自室に移動するとちゃぶ台にはあたかかなこぶ茶が淹れられていた。茶請けには上総の好物であるきんつばが置いてある。


 ――疲れた身体に甘いものはうれしい。


 首を左右に振ってコキコキと鳴らすとテレビの電源を入れてニュース番組をザッピングする。


 どうやら今日も日付変更線を超えない程度に戻れてホッと一息だった。


「クリスー。いっつもいってるように先に寝てて構わないんだぞ。俺ら帰るのどうせいつも遅いんだしー」


「いえいえー。勇者さまや姫さまがお戻りになられないうちに高いびきなどメイドとして到底受け入れられませんよー。どうかお気になさらずにー。それに私はちゃんとお昼寝してますから大丈夫ですよー」


 台所からそう返事が返って来たと同時にちゃーっという醤油が焦げる音が響き渡った。日本人の五感を刺激する匂いに「ぐうう」と腹が鳴った。


「さあさあ、今日のお夜食もクリス印の特A品ですよー。どうぞお納めくださいませっ」


 果たしてクリスが運んできた今夜の夜食はわかめラーメンとミニチャーハンに餃子のセットであった。


「お、わかってるじゃないか。たまりませんなぁ」


「うふふ。勇者さま。このクリスさんに惚れ直して襲っちゃっても構いませんことよ?」


 夜食を運び終えたクリスがフライ返しを手にしたままずりずりと柱に背を預けて流し目を送って来るが無視。


 今は胃の腑を満たすことが先決だった。


(それにしても深夜の中華料理というのはどうしてこのように凶悪的な魅力を兼ね備えているのだろうか)


「ああん。もう、無視しちゃいやですよう。せっかくクリスが姫さまの居られぬ間に勇者さまを誘惑しているのにぃ」


「ワリィ、先にご飯食べさせてね」


 上総は合掌してからいただきますとつぶやくと猛然とわかめラーメンに襲いかかった。レンゲにスープを汲み入れて口元に運ぶ。


(うっわ! ナニコレ、うっま!)


 たちまち口腔に濃厚なスープの複雑な醤油味が炸裂して視界に閃光が走った。ずるずると音を立ててスープがたっぷり絡んだ麺をすすり込む。膨大な量の麺を噛みちぎるとき上総の顔は嫌が応にも幸福に満ちあふれ輝き出す。


「んで、チャーハンは……」


 ネギと玉子と細切れのハムがちりばめられたチャーハンを掬って掻き込む。米は絶妙な炒め具合でパラリと口の中でほどけ上総の脳内は天使たちが天上から舞い降りながら歓喜のラッパを吹き鳴らした。


 もにょもにょとチャーハンを一口一口噛み締めながら、今度はギョーザに取りかかった。ラー油とタレを合わせたものをほどほどにつけてガブリとやると、ニンニクと肉と旨みスープがじゅわっと口一杯に広がり上総はバンバンとあぐらをかいた自分の膝を思わず打ち据えた。


「うまいっ、うますぎるっ。クリスの飯を一生食べたいっ」


「まあっ」


 料理人冥利に尽きるのだろうかクリスは目元を赤く染めながら健啖にすべてを喰らいつくす上総をうっとりとした様子で見守るのだった。


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