第伍宴

ヒュカッドガガガッガキィンッ!!

影で出来た日本刀と朱色に塗られた鉄扇が混じり交錯する。そのままギリギリ……ッと音を立てながら互いが互いを睨み合う。怖いのは両者とも笑っているのに目が笑っていないのだ。

──と、言うか菱垣さんアンタよく鉄扇のみで戦えるな……ッ!?

菱垣さんは鉄扇以外の武器を使わなかった。面倒臭いのかそれとも何か他の理由が──?

「あっははははははははははははは! あ〜…………馬鹿らしい茶番劇に付き合わせないでくれるかなァ?」

「ッ! なっ、に……ッ!?」

ザリィッと菱垣さんが地面の土を踏み締め一気に跳躍する▪▪▪▪。それこそ兎の如く軽々と壮年男性の頭を越えると男性の背中を遠慮容赦無く蹴り飛ばす。そしてそのまま相手の顔面を地面に擦り付けた。時間にして僅か数秒▪▪▪▪

「!? ガ、ハッ……!」

「ヤレヤレ背後がガラ空きだよ御老人▪▪▪遊び相手が欲しくて▪▪▪▪▪▪▪▪▪ボクを呼び出したのなら出直すべきだね、ボクの相手には値しない▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪。まだキミより助手ワトソンくんの方が相手としては取るに足るってモノだよ」

「くっ……」

──知らなかった。菱垣さんってこんなに強かったのか……ッ?

菱垣さんは笑ったまま▪▪▪▪▪男性を地面に押し付けている。まるで親の仇とでも言うように。

「ボクはキミの下らない茶番劇シナリオに付き合うつもりは更々無いんだよ。ボクが此処に来たのは見極める為▪▪▪▪▪であって、遊ぶ為では無い▪▪▪▪▪▪▪んだよ?」

「菱垣さん……」

初めて見た気がする、菱垣さんの真面目な所。しかし……

──見極めるって何の事だ?

「キミが骨を拾うに値するかどうか▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪。それを見極めに来たのだけれど、無駄足だったかもね。キミが此処まで無能▪▪だとは思わなかったよ本当に」

「なっ……私が無能だと…………ッ!?」

「えっ……」

「無能だろう? ボク如き▪▪▪▪倒せない首領なんてさァ?」

「ッ……!!」

杼淹が口を噛む。その通りだ。本気さえ出していない▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪骨譟相手に遅れとるとは……。

「それで? ボクの目的は今言った通りだけれどキミとしては違うんだろう? 此処までされといてまだボクに勧誘するかい? 生憎ボクはボクより弱い首領に尽くす気なんて更々無いけれどね」

「…………いや良い。此処まで自分が使えないとは思えなかった。勧誘は諦めて無いがどうやら今の私では無理だという事は理解出来たからな……」

「理解してくれたようで何よりだよ」

ニヤッと口元を三日月状に上げて鉄扇を口に当てて隠す。どうやら骨譟菱垣という名のは目的を達成したらしい。

「餞別にそうだなァ……これでもあげるよ」

「ッ!?」

菱垣さんは僕がからってきたバックから骨を一つ取り出すとそれで男性の頭を殴り気絶させた。

──は!? いやいやいやいやいや菱垣さんアンタ何やってんの!? なんで和解したのに気絶させるんだよッ?

「いや〜面倒臭い御老人は寝かせとくに限るね〜? ……それに其処に居るんだろう、ユキちゃん?」

「…………貴方に見付からなかった、って事がありませんわね……」

「え? あっ……」

其処に居たのは僕が菱垣さんと会った日に常軌を逸した攻撃をしていた同年代の少女が其処に居た。今日も鮮やかな着物に身を包み、花が綻ぶように微笑んでいる。あの時とは似ても似つかない穏やかな笑顔だ。彼女は僕に気が付くと苦笑して少し頭を下げ、自己紹介した。

「あら貴方は……改めまして、名を癒斬邑緋莉ゆきむらあかりと申します。協同組合フォルゲート殺し屋アサシンをしております、以後お見知り置きを」

「え、あ……あぁ…………」

吃りながら癒斬邑緋莉と名乗った少女に頭を下げる。……横で菱垣さんがニヤニヤ笑っているのが凄くウザったい。帰ったら骨無しの刑に処そう。

「あっはは〜初々しいねェ? 所でユキちゃん、フォルゲートは何を頼みに来たんだい?」

「…………此処で話しても良いのだけれど少し込み入った話になるのよ……」

「???」

「そうかい。なら『葬骨屋』で話すのが一番無難だろうねェ……卯月其処の御老人を頼んだよ?」

「御意」

「有難う助かるわ……」

「あっはは〜御老人の骨は美味しく無さそうだから要らないかなァ〜代わりに何か別のモノを頼むよ、依頼を受けたら、ね?」

菱垣さんは鉄扇を口に当ててニヤリと狐じみた笑顔でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る