第肆宴

菱垣さんがニヤニヤと笑って扇をぱたぱたと振る。どうやら菱垣さんと面識があるらしい。

「あっはは成程成程、今回露羅巍あららぎ君に依頼したのはキミか。道理であの▪▪露羅巍君にしてはやけに感情が排除されてた▪▪▪▪▪▪▪▪▪訳だ。彼とてキミからの命令依頼はそう簡単には断れないだろうからねェ?」

「菱垣さ、ん……?」

「…………骨譟、こちら側へ来い。お前はそちら側の人間では無い▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪だろう?」

「あっはははは! 何を言う出すかと思ったら! ボクに、骨譟菱垣に『協同組合フォルゲート』に入れだって? 数年前の事を忘れた訳じゃああるまいし、よくそんな事が言えるね? それにボクは生まれた時から人間を辞め掛けた存在だよ?」

「……『協同組合フォルゲート』……? 数年前の、出来事……?」

「…………無論お前が数年前に起こした事は憶えている。そのせいでこちらも甚大な被害を受けたからな。だがそれとこれは話が別だ。組合は優秀な人材を欲している▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪。まさにお前は組合に必要不可欠な存在だ」

突然現れた壮年男性が菱垣さんに手を差し伸べながら『協同組合フォルゲート』なるモノに勧誘した。菱垣さんがその言葉を聞いた時、僕と会ってから初めて本当の意味での▪▪▪▪▪▪▪爆笑をして相手に嘲笑混じりの笑顔と言葉を返す。

──協同組合フォルゲートって、何、だ……?

「…………協同組合フォルゲートとは主に首都を拠点として置く、能力者集団の名前です。そしてあの壮年男性はその集団の頭領リーダー……『鴎外鏡』瓔杼淹おうひえんです」

「へぇ〜…………ってうわぁっ!? 卯月さんいつの間に!?」

「あっは助手ワトソンくん、卯月なら最初はじめから居たさァ……ずっとキミの後ろに、ね?」

疑問に感じていた事の答えを貰って感心していると、すぐ隣から答えが返ってきた事に疑問を覚えて横を見ると今の今まで姿の見えなかった卯月さんが居た。菱垣さんは俺の反応を見て愉しそうにニヤニヤ笑っている。

──……この人絶対愉しんでるだろ……しかし、『一緒に居た▪▪▪▪▪』? 今まで姿の見えなかった卯月さんが?

「…………梓潼さん、骨は降ろさなくて宜しいのですか?」

「え? あ、あぁ今降ろすよ……ってあれ? 骨の数が減って、る……?」

卯月さんに促され、からっていた鞄を地面に置いた所でおかしな事に気が付いた。今までなら重くて鞄を置く時はドスンッと重たい音がしていたハズだ。なのに今はカシャンッと骨同士がぶつかる軽やかな音しかしない。

不思議に思って中を覗けば明らかに骨の数が減っている。

──どう、いう……事だ……?

「どうかしたのかい、助手ワトソンくん?」

「…………あの……骨の数が減っている、ンですが……?」

「ん〜? あぁそうか、キミにはまだ教えて無かったっけねェ?」

「…………へ?」

──嫌な予感がする……

菱垣さんの言葉に背中を悪寒が走りぬける。

「卯月は元より死んでるから骨だよ?」

「あぁ何だそういう事……ってはい!?」

「だからァ『卯月は骨だよ?▪▪▪▪▪▪▪』ってね?」

「うそ……」

──卯月さんが死んでる?▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪ 目の前に居て僕らと同じ様に生活していた彼が?

僕は呆然と隣に立っている卯月さんを見る。

卯月さんは申し訳無さそうに肩を竦めて視線を返してくる。それで僕は菱垣さんの言う事が本当の事なのだと、理解してしまった。元より菱垣さんが嘘を付ける訳が無い。嘘を付くのが下手糞な上に嘘を付く事自体を苦手とする菱垣さんなのだから……。

「…………そろそろ茶番は終わったかね?」

「あっはは〜延々に終わらなくても良いかもねェ?」

「……ッ!」

「…………」

男性の言葉にそれぞれ反応を返す。男性はそれを横目で見た後鼻で笑い、再度菱垣さんに訊く。

「…………もう一度問おう。骨譟菱垣、『協同組合フォルゲート』に来る気は無いかね?」

「行かないよ。ボクは今の生活が好きだから、ねェ?」

「…………そうか。ならば仕方あるまい……力づくで引き入れるまで」

「あっは! やっぱりそうなるよねェ? ……卯月、助手ワトソンくんを頼んだよ?」

「…………御意イエス我が主マイロード

「え、ちょっ卯月、さ……ッ!?」

ヒュッドガガガガガガガッ!!

菱垣さんが卯月さんに指示を出したと同時に激しい弾幕が響く。無論相手の男性が攻撃を開始したのだ。

「あっはは〜面倒臭いねェ……」

菱垣さんはそう言って狐の様に笑うと鉄扇で全ての弾幕を地に落とした。その間に卯月さんが僕を抱えて二人から距離を取る。









──こうして狂人たちの能力者の夜マジック・ナイトが始まった。

片方は狐のような男性、片方は独眼の狼の様な壮年男性。二人の狂人が捲る運命の螺旋ページが幕開ける。

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