第参宴

「暇ですねぇ……」

誰に言うでも無くは呟いた。

「馬鹿も居ないし暇で仕方ありません。久々にあそびに行くかな…………」

ウザいくらいに真っ蒼な蒼空を見上げながら彼は言う。

「…………『時は人を待たず』、ね……」

彼は呟いて髪を掻き上げてウザったそうに言った。

「…………皆消えれば良いのにな」

そう不穏に呟いて彼は闇に紛れて消えていった。



「ほらほらワトソンくん、早くしたまえよ? 時間は待ってくれはしないのだから」

「解、ってますけど……菱垣さんなんで骨ばっかこんなに大量に必要るんですか…………?」

「あっははは〜仕事先で調達出来るか解らないからね〜(笑)」

「なら自分で持って下さいよ!?」

ガシャガシャと重い骨の詰まったリュックサックを肩に担いで、梓潼は前を歩く菱垣に怒鳴る。

それに菱垣はあの特徴的な笑いをしながら言葉を返す。

「あっはははワトソンくん、それは無理な相談だよ。ボクは生まれてこの方骨以外に重いものは持った事が無いんだよ?」

「自慢げに言う事じゃないでしょうが!」

いつまでもすっとぼけた返事をする菱垣さんに思わず怒鳴る。

「あっははは〜あんまり怒鳴ると禿げやすくなるよワトソンくん?」

「禿げねぇよ!?」

──ホントこの人と居ると調子狂う……この自由人マイペースが…………!

心の中で菱垣に対する悪口雑言を吐く。恐らく菱垣は理解してて放っているのだろうが。

「……っと、着いたみたいだねェ?」

菱垣がのんびりと立ち止まった。いつの間にやら周りは今まで生えていた鬱蒼とした木々が姿を消し、そこだけぽっかりと穴があいていた。まるで誰かを待ち構えているかのように▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪

──いやいやいやまさかねぇ? そんな事、有り得る訳が……

「…………時に不可思議な事が普遍的な日常を奪い去っても、なんら問題は無い。問題があるとすればそれはそうだねぇ……どれだけその普遍的な日常に浸って溺れていたか、だろうね」

菱垣が唐突に話し出した。それもいつものおちゃらけた声のまま、凄く意味深な事を。

「殆どの人は否定するかもしれない▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪。人とは『そういうモノ』だからね。何かを否定して何かを得る。何かを肯定して何かを失う。その無意味な繰り返しの中で生きている」

「…………………………必ずしも、そうとは限りませんよ?」

「確かにボクの定義は間違いもある。だけれど何が正しいかなんて、ボクにとってはそこら辺に転がる砂利やゴミと大して変わりは無いからね」

──…………そうだろうな、この人はこの人なりの考えを持っている。そしてそれは一部の人間からしたら酷く、稚拙で醜悪なモノに映るだろう。だが菱垣さんは気にしない、いや気にならない▪▪▪▪▪▪。頭の何処かで歯車が妙な具合でズレているのだ。そう、まるで……狂人としての素質▪▪▪▪▪▪▪▪を生まれつき兼ね備えているかのように。

「…………まぁこんな事、ココじゃあ屁のツッパリにさえならないけれどねぇ?」

いつもの調子で菱垣さんは軽く言い切った。あたかも警報を打ち鳴らすかのように……。

ザワッと辺りがザワつく。誰かが来たようだ。

「…………お久し振りです」

「……あっはまさかまさかの再会だねぇ? まだ生きてるとは心の底ほども思ってはいなかったけどね」

「…………………………知り合い、ですか……?」

この時の俺はまだ知らなかった。菱垣さんの強さと狂気を。狂人相手にさえ『狂人』と言わしめる、菱垣さんの本当の二つ名を……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る