第弐宴

「な、な、な……」

「ちょいと少年、『な』しか言ってないよぉ?」

「な、な、な……なんでこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「あっはは〜元気良いねぇ? 久々に元気が良い子が此処の敷居を跨いだ気がするよ〜」

「アンタは暢気過ぎねぇか!?」

アレから約一時間。何故か僕は知らない人の家で、知らない人と、知らない名前のお茶やお菓子を、一緒に食べていた。

「ぅぅぅ……けどお茶とお菓子は美味しいんだよな……」

「だってよ卯月〜良かったねェ?」

「お褒めに預かり光栄至極……」

もう嫌だこの人たち……すっかりこの人たちのペースに巻き込まれてしまっている。

あの惨劇から救われて、此処、『葬骨屋ホムハニヤ』に連れ込まれていた僕は、訳も解らず美味しいお茶とお菓子をごちそうになっていた。

少し話がしたいと言っていたひがっちゃんは、今は暢気に折り紙で恐竜の骨格模型を作っていた。(イヤリアルにすげぇよ、クオリティが)

ひがっちゃんが『卯月』と呼んでいたのは、ひがっちゃん曰く『式神』の類であるらしい。

身長が僕より高くて軽く頭一つ分は高いと思われる。(因みに僕の身長は163.8㎝)

薄らとピンク色に染まる着物地に水色や淡い黒、青などの蝶や花ビラが舞う着物柄で、髪はゆったりとした白銀の長髪、瞳は真っ蒼な蒼碧色オーシャンズブルー雪花石膏アラバスターの肌が一際目を引く、まさにベスト・オブ・ベストの美形だと言っても過言では無いだろう。

しかし此処の異様さと相まっては不気味な印象しか掻き立てない。

──…………そ、そろそろ用件を切り出して欲しいな……

「…………さてさて少年も落ち着いたみたいだし? 用件に移ろうかァ?」

「え、あ、ハイ」

ひがっちゃんが俺の心を読んだかのように、用件を切り出してくる。

「まァまァそんなに固くならなくても〜? とって喰いはしないさ、ボクは骨しか興味無ししね〜。で、用件って言うのは、ぶっちゃけると〜……」

「ぶ、ぶっちゃけると……?」

「ぶっちゃけると、ボクの助手として働いてくれないかなぁって、仕事のお誘い♪」

「…………………………ハイ?」

──ま、待て。僕は騙されてるのかな? 今のは聴き間違いじゃ無いよな……? 今『助手として働いてくれ』って意味に聴こえたんだけど…………?

ひがっちゃんを恐る恐る見ると、彼はニコニコ笑いながらハッキリと聴こえるように繰り返した。

「だ、か、らァ〜……ボクの助手として働いてくれないかなぁ? ってお仕事のお誘いなんだけどね?」

「え、ぼ、僕がですか……ッ!?」

「そそ、キミが▪▪▪、だよ少年?」

ニヤァッと猫みたいな不気味な笑みを浮かべて、ひがっちゃんが僕の顔を見た。

「む、無理です! 僕、さっきみたいなドンパチ戦闘出来ませんもん!」

「あっはは誰もそっちの助手とは言ってないよ〜? ボクが頼みたいのは所謂いわゆる客人接待だの書類整理だのの雑用さァ〜」

ケタケタと悪魔じみた笑いをしながら、僕をジッと見る。どうやら僕の決断答えを待っているらしい。

卯月さんがお茶のおかわりを注ぎながら静かに▪▪▪こう告げた。

「助手をしないのもするのも、アナタの自由です。ですがどの道アナタの身に降りかかる危険は変わらない事をゆめゆめお忘れ無く。主は言いませんでしたが、私個人としては言う必要性があると判断し告げました」

「あっはは〜卯月。それで良いんだよ、ボクはお前に思考を赦した。お前はそれに従い思考し、自分個人としての答えを導き出して行動した。それの何処に怒る要素があるんだい?」

「あ、あの……僕の身に降りかかる危険は『変わらない▪▪▪▪▪』ってどういう事ですか?」

恐る恐る訊いてみる。ひがっちゃんは二ヤァッと化物じみた顔で笑いながら教えてくれた。

「…………キミが目撃した場面は本来、見てはならない▪▪▪▪▪▪▪モノだったんだよ。だからキミにはコレから一生涯危険が付き纏う。ソレこそ死ぬまでずっとね?」

ひがっちゃんの眼には何の色も▪▪▪▪映っていない。映っているのは困惑した顔をしているボクだけだ。

「さァ考える時間シンキング・タイムだよ? To be or not to be受けるべきか受けざるべきかthis is the questionそれが問題だ.少年よ君の意思はどちらを選ぶ?」

とても愉しそうに見えた。まるで大好きなオモチャで遊んでいるかのような、はたまたアリを無惨に殺す子供のような笑顔で。彼、ひがっちゃんはボクを見る。

「……僕、は────」

黙っていたらイケないような気がした。自分の身に等しく危険が降り掛かるのなら、この人の傍に居た方がまだ▪▪長生き出来る可能性がある。それならば────────

僕は意を決してひがっちゃんの質問に答えを導き出す。

「……承けますYes。僕で良ければ助手になります」

「そうかそうか。じゃあコレから宜しくね? ボクの名前は骨噪菱垣、通称『葬骨屋』を営む人呼んで『歩く災いモエ・ウォーク』だよ。君の名は?」

「僕は鳩慈霊梓潼。宜しく御願いします。…………骨噪さん」

「あっはは苗字じゃなくて名前で呼んでくれて良いよ。堅苦しいのは好きじゃないんだ」

ひがっちゃん──改め骨噪さ……じゃなかった菱垣さんは二ヤァッと口角を上げながら言った。

「……解りました、コレから宜しく御願いします菱垣さん」

そうして僕は狂人たちの織り成す不思議な世界へと足を踏み入れる事となる────

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