〜外伝編〜
〜狂人たちのお仕事・番外編第壱狂〜
番☆外☆編
──
これはボク、骨譟菱垣の昔咄。
コツコツコツコツ……
廊下の奥から革靴の足音がする。兵隊の行進のように規則正しく歩くその音は、正しくボクの相棒の足音だ。
「…………菱垣、仕事だ。猫のように寝て無いで起きろ……」
「んん……? ……なんだキミかァ……もう少し寝かせてくれても良いじゃないか…………」
無粋にボクの眠りを妨げた相手を寝惚け眼を擦りながらな睨むと、大して傷付いた風も無く相手は肩を竦めて謝った。
「スマンな気持ち良さそうに寝ていたからつい、乱暴に起こしたくなったんだ。それよりなんでそんなに眠そうなんだ? 昨日は俺より早く寝たハズだろ?」
「ふぁ〜……夢の中でキミより活発に動いてたんだよ、単細胞が動かなかったからね」
「単細胞って酷でェなァ……」
「滅多に動かないでしょ指示飛ばすだけで」
「まァ俺は肉体労働派じゃあ無いからな。しかし……未だに視るのか、その…………『予知夢』ってヤツ」
「視るねェ……まァ鮮明じゃあ無いだけまだマシってモノだよ、あんなモノは
「そういうモンか……」
面倒臭そうに髪の毛を掻き上げながら言う菱垣に相棒は肩を竦めながら苦笑する。
「それで? 今回の仕事はなんだい、面倒事は早く片付けたいよ?」
「あぁ今回は掃除だ。マフィアに邪魔な奴らを片付ける」
「本当に面倒臭い仕事だねェ……」
菱垣は面倒臭そうに欠伸しながら長めの髪を纏めて側の机に置いてあった紐で括る。
そんな菱垣を相棒である
「穐ちゃん一々畳まなくて良いよ、どの道帰ってこれるか解んないンだから」
「…………だからこそ畳んで綺麗にしとくんだろ。何でお前はそう悲観的にモノを捉えるかな……」
「悲観的に捉えてるんじゃなくて、現実的にモノを考えてるって言って欲しいなァ?」
「事実だが口に出す必要は無いだろ?」
「無いけどねェ……」
パチンッと扇子を閉じながら菱垣が言う。和紗は菱垣が鉄扇以外のモノを使う所を見た事が無い。たまに素手で闘ってる事が無い訳でも無いのだが、拳銃や剣など他の武器を使う所を見た事が無いのだ。相手がどんなに強くても鉄扇以外のモノを使わない。何故そう頑なに鉄扇以外のモノを
──何か理由があんのか……?
訊いてみたい気もするが、中々訊くにも訊けずそのままになっていた。
「穐ちゃんまァた面倒臭い事考えて無いよねェ? そういうのが一番面倒臭いって言っただろう?」
「…………考えてねェよ」
勘の鋭い菱垣が何かを感じたように顔を顰めて訊いてくる。何故か菱垣はこういう勘は異様に鋭い所があった。
──…………ったく本当に読めねぇ奴だな、俺の相棒はよ……
はァ……っと軽く息を吐き、リボルバーに拳銃を入れ懐に小型ナイフを数本入っているのを確認する。
俺が準備を確認している間に菱垣はいつも通りの着流し姿に着替えていた。前にスーツを薦めたのだが一回着たきり、『動きにくいからヤだ』とそれ以降拒否されてしまった。
──…………着物よりは動き易いと思うんだがな……?
未だに菱垣の詳細や過去は闇に包まれたままだ。マフィアに来た時は到底マフィアには向いて無いと思ったが、今ではそう思う事も無くなった。ヘラヘラと笑う事がめっきり減ったのも原因の一つかもしれないが仕事に行った途端、雰囲気がガラリと変わったのだ。まるで──まるで別人に成り代わるかのように。
「さァて仕事に行きますか。……ねェ
「…………だな。此処からそう離れた場所じゃないからすぐ行けるぞ」
「たまには電車に乗って行くってのも粋だと思ったんだけどねェ?」
「その金は俺のポケットから出てるだろ」
軽口を叩きながら二人は部屋を出て大通りを歩き、そして目的地である寂れ掛けた廃墟のようなビルに着いた。
「わァお雰囲気のあるビルだねェ? まァ大して興味は沸かないけども」
「…………数日前、此処に拠点を構えてるギャングの頭領が
「ふーん……はた迷惑な話だねェ全く。お陰でボクの睡眠時間がまた削られたじゃないか……」
「まァまァぶつくさ言ってやるなよ、世間様で言う『若気の至り』ってヤツだろ」
「『若気の至り』って言うんだったらちゃんと後始末までして欲しいよ、何でボクらが関係の無い奴らの尻拭いをしなきゃならないんだい?」
「まァごもっともなんだがな……」
鉄扇を面倒臭いという風にぱたぱた振る菱垣は到底マフィアには見えない。戦闘時とはまるで違う。だがコイツもマフィアの一人なのだ。菱垣が何故マフィアに入ったのか、それはよく知らない。だけどボスからは菱垣が
ザリッ
背後で砂を踏む音がした。それと同時に弾幕が始まる。
「ッ……!!」
間に合わないと解りながら拳銃を抜いて構え放つ。幾つか相殺出来たようだが全ては防ぎ切れずそのまま跳んでくる。
──あぁコレは死ぬな……
無意識にそして直感的に自分の死期を悟った。思わず目を瞑る。──暫く経っただろうか──何時までも痛みや苦しみは来ない。不思議に思い目を開けると目の前には華奢な体付きをして渋柿色の羽織と真っ黒な闇に椿と蝶が舞う着物を着た、相棒が立っていた。彼の足元には俺に向かって飛来したと思われる銃弾が、不様に潰れてひしゃげて転がっていた。
「全く……簡単に諦められたら困るよ? 仮にもボクの
「ひが、き……」
足元に転がるひしゃげた銃弾のなれ果ては菱垣が能力『
「お前まさかもう
「そうだけど? 面倒臭い場所に何時までも留まるつもりは更々無いよ、ボクは。留まりたいならキミが
「いや留まりたくは無いが……何時もより終わるのが速くないか、お前?」
「誰かさんが起こしたからでしょ〜?」
「悪かったってば……」
菱垣は睡眠時間を削られた事で少し機嫌が悪いようだ。謝るが到底直ってくれそうには無い。仕方無い。
「…………菱垣。今日いつもの店でなんか奢ってやる」
「はァ? キミ正気? ボクが彼処行ったら皆騒がしいじゃないか」
「それはお前の活躍ぶりを皆知ってるからだろ?」
菱垣は面倒臭そうに言いながらも顔は嬉しそうに綻んでいる。菱垣はあの店のジンジャーエールが大のお気に入りでこっそり瓶に詰めてもらい、職場で飲む程気に入っていた。
「じゃあ決まりだな」
「奢るって言ったからにはキミの財布が空になるまで呑ませてもらうからね〜?」
「解ってるが手加減してくれよ?」
そうして俺達は仕事を終えて行き付けの酒場に向かった。その時の俺は思っていなかった、まさか
──そう、若しかしたら気付けたかも知れないのに。着実に近付いてくる、
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