第14話 私にはまだ、分からないことばかり。

伝えたい何か。

それって一体、何だろう?


「…まあ、とにかく。せっかくこうして同じ時代の記憶を夢に見る仲間がいるワケだし。ちょこちょこ思い出話に浸るのも面白いかもな」

だから今日ここに誘ったんだけど、と中空くんは私を見て言った。


「間宮のこと、また改めて話そうか。本人の居ないところでってのもなんだし。」

「そうだね。」

私は頷くと、タケルくんはジュースを飲み干して立ち上がった。

「俺、そろそろ行かなくちゃ。」

「タケルくん」

私が思わず声をかけると、彼は胸ポケットから生徒手帳を取り出し

おもむろに1ページをやぶり、ペンでサラサラと何か書き出した。


「はい、これ…俺の連絡先。」

「え」

思わず受け取ると、タケルくんは可愛い顔でニッコリ笑って

「いつでも連絡して。なんでも聞くからさ」

そう言って、サッサと帰ってしまった。


「…………」

私たちはポカンとその後ろ姿を見送った。

「……何なんだアイツ」

呆れたように中空くんがため息をついて。

「とりあえず。同じ『夢』の共有者ってワケか」


共有者ーーー

なんだかその言葉を聞いて、ふいに

自分は一人じゃないんだと安心した。

変な夢を見るのは、自分だけではなかったということ。

そしてそれを話し合える相手がいることに

少しだけ、ワクワクした。


「ーーーねえ、さっきのタケルくんってさ。なんでアンタの名前知ってたの?」

ふいにメイが聞いてきた。

私と中空くんは顔を見合わせて納得する。

「メイ、私ね。実は……夢の中でも『さくら』って呼ばれてるんだ。」

「えっ」

メイは目を丸くした。

私は視線を手元のオレンジジュースに戻し呟く。

「だから最初は本当に、自分の勝手な夢だと思ってたんだけど…」


まさか、過去の誰かの記憶だったなんて

しかも同じ名前とは。

偶然、なんだろうか。


「確か……アッチのさくらの両親は日本びいきで、日本に美しい木があるって話でその名前をつけたって言ってた」

「えっっ」

突然言われた記憶にない名前の由来に、今度は私が驚いてしまった。


「なんで俺が覚えてんだろうな。多分夢の中でオマエに聞いたんだと思うんだけど……」

そう言って彼は頭をかきながら宙を仰いだ。

「私、全然知らない……てか何で中空くんもタケルくんもそんなに色々知ってるの?」

「いや、俺たちだって知らねえよ。好きで見てるワケじゃねーし」


どうやら私と他の人たちとは、夢の範囲というか…記憶の広さが違うようだ。

私はどうして、同じところばかり見ていたんだろうか。


隣で静かに聞いていたメイが、ふふふと笑って楽しそうに言った。

「なんか面白いね。今まで全然知らなかった相手なのに繋がるって」

そう言われて、私も中空くんも素直に頷いた。

「そうだね」

「確かに面白い」


メイは、これからもその話が面白そうだから聞きたいと言ってくれた。

普通なら気持ち悪いと思われてもいいはずなのに。

本当にありがたい存在だと思う。


しばらく三人で他愛ない世間話をして、窓から見える空が紫がかってきた頃

また明日、と解散した。


その頃、私達の知らない所で彼らが顔を会わせていたとは

この時はまだ、知らなかった。

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