第15話 間宮とタケル。
その頃。
頭痛を理由に席を立った間宮は、ひとり早足に自宅へと向かう。
今日はなんて日だ。全く訳が分からない。
中空ーーー昴から聞いた話で
同じクラスの山下さんが、自分たちと同じように夢を見ているらしいと聞いた。
そもそも、自分と昴が同じ世界の夢を見るだけでも怪しい状態なのに。
しかも、さっきの現象。
あれは何だ?
山下さんにジュースを渡そうとしただけなのに、なぜあんな映像が目の前に出たのか。
あれはきっと、夢で見る『記憶』と同じものだ。
あの記憶はーーー
「頭痛、大丈夫?」
ふいに背後から声をかけられ、背中を変な汗が流れた。
この、声は。
足を止めると、声の主が隣に並ぶ。
「ねえ、何があったのか教えてくれるかな」
「……お前は」
「ストップ」
少年の名を呼ぼうとしたが、すぐにそれは遮られた。
「体調悪そうだから、手短に話そう?」
「……」
何も言わないことを肯定と捉えたのか、少年ーーー木下タケルは
先ほどまでとは違う、低い声で尋ねた。
「あれ、何」
何のことを聞いているのか即座に察したけれども、自分ですら消化できていない事案なだけに
説明なんてできる訳がない。
「ーーー彼女、あんまり知らないみたいだね。全然思い出してなかったよ。だけど」
彼はそう言いながら一歩前に出て、こちらに向かい合う。
「不用意に変なこと思い出されちゃ、困るんだよね」
「…………」
「何故?と言いたげな顔をしているね」
タケルはふふ、と笑って。
「俺が、俺でありたいからだよ」
彼の言葉の真意を汲み取ることができず、無言で見つめ続ける。
何を企んでいるのだろうか。
「俺はね、ずっと……孤独なんだ。だからーーー少しくらい、夢を見てもいいだろう?」
孤独。
それはきっと、彼の過去の記憶から推測は出来るのだけど。
「……夢……」
一体、何を夢見ているのだろうか。
タケルはまだ幼さの残る笑顔で、彼に話しかける。
「彼女は、俺が守りたいんだ」
「一体何を言ってーーー」
「だから」
またもや言葉を遮られ、最後まで何も言わせないような威圧感を感じる。
彼は本当に、中学生なのか。
「だからーーー大人しくしていてね?……あなたは俺の、弟だ」
「……っ!いい加減に」
「あの話を皆にバラされたく無ければ、大人しくしておいた方が身のためだよ」
「!!」
それは
その話はーーー
「俺、知ってるんだから。彼女のーーー」
「違う!」
タケルが何かを言おうとした声を、大声で否定する。
違うんだ。そうじゃない。
だけど、それを証拠とするものが今は何もなくて
街中で突然発せられた大声に、周りの人が何事かと振り返る。
タケルは笑って
「ーーーそろそろこの話は終わりにしようか。あまり目立ちたくないからね」
そう言って肩に手を置き、すれ違い様に耳打ちをする。
「頼んだよ、弟くん」
「……っっ」
彼は鼻歌を歌いながら、人混みに消えた。
頭痛はまだ、治らない。
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