第12話 解かれる糸

こうして。

微妙な雰囲気のまま、私たちは近くのファストフード店に入った。

とりあえず、席を確保して

「飲み物買ってくるよ、何がいい?」

メイと二人で買いに行こうとすると

「いい、俺が行く」

と、間宮くんが立ち上がった。

「あ、じゃあ俺も」

謎の彼も一緒に席を立つ。


中空くんは彼らに任せるようだ。

間宮くんと少年がどういう関係なのか、後で聞くことにして。

とりあえず私は彼の言葉に甘えることにした。

「私オレンジで」

メイも紅茶をお願い、と伝える。


「了解。ちょっと待ってて」

間宮くんは頷いてカウンターへ向かう。

少年は無言で、彼の後を付いていった。


二人が見えなくなると、中空くんが大きなため息をついた。

「はあ〜何なんだよ一体……」

それはこっちのセリフよ、とメイがボヤく。


「私、一番の部外者よね」

いっその事私も何か夢に出て来ないかしら、と笑っていた。

二人が居ない間に、私は中空くんに気になる事を尋ねた。


「ねえ、中空くんと間宮くんは、いつから知り合いなの?」

彼は突っ伏していた顔をあげて、椅子に座り直して答える。

「俺らは中学の頃からの付き合い。最初は俺がなんとなく興味半分というか…面白い夢みた、って感じで話してたら、アイツも似たような夢見た事あるって言うからさ」

「ふうん……」


中空くんは続ける。

「話してみたら、オマエと同じだよ。環境やまわりの感じが似てるって。しかも……アイツ、もしかしたら俺と幼馴染だったんじゃないかって感じでさ。」

「幼馴染?」

「うん。なんか初めて会った時から、妙に長い付き合いだったような変な懐かしさがあってさ。その夢の話で納得したというか」


それは少し、分かる気もする。

私もーーー目の前の彼に対して、そう感じたからだ。


それが、もし

この『夢』と何か関係があるのなら。

そう思いながらも、まだどこか他人事のような感じで聞いていたのだけれど


「それでさ、俺とオマエが隣同士だった、って話したじゃん」

「うん」

「だからさ、もしかしてそれって」

中空くんが何か予想しかけた所で、後ろから声が聞こえた。


「お待たせ」

後ろから、ドリンクを抱えた間宮くんが戻ってきていた。

少年はメイにアイスティーを手渡す。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」


間宮くんは中空くんにコーラを渡し、自分のドリンクをテーブルに置いた後

「はい、山下さんはオレンジだったよね」


そう言って彼が私にカップを手渡してくれた瞬間

見たことの無い映像が突然、目の前に流れた。

「!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はい、今日の分。」

彼は私に、コップと薬を手渡してくれた。

「ねえ、これってもっと美味しくできないの?」

「無茶言うなよ。これでもマシなほうだ」

これでも口に入れておきな、と飴玉を手渡される。


黄金色の、丸い飴。

甘い、甘い……思い出の味。


「最近、アイツ来ないな」

「……うん」

「まさか」

「変なこと言わないで」

「ごめん」


少し無言の時間の後

彼は言った

「さくら、俺、お前にーー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「っぶねー!」

ドリンクを受け取り損ね、私の手から滑り落ちそうになったところを

中空くんがキャッチしてくれた。

その声でハッと我に返る。


「ちょっ、お前なにして……」

そう言いながら私の顔を見て、一瞬動きが止まる。

「まさか」

そう言って反対側を見るとーーーやはり予想通り


「……え、なにこれ」

間宮くんも、驚いていた。

「……さっきの、は……夢?」


頭が、痛い。

また、だ。

昨日、中空くんから水を受け取った時と同じーーー


「…え、どういうこと?」

例の綺麗な顔をした彼は、状況がわからずに目を丸くしている。


「これは……いよいよ、だな」

中空くんは受け取ったドリンクを静かにテーブルへ置き

「さくら、ちょっと休んどけ。その間に……そこの少年に話がある」


少年と呼ばれた彼は、自分のことだと認識しようだ。

ふふ、と妖艶な笑みを見せて着席する。

中空くんは、右隣に座った彼の目を見て、静かに尋ねた。


「お前、本当にフリッツか?」

彼は少し、中空くんを確かめるように見つめた後。

「やだなあ、幼馴染のこと…疑ってんの?」

「そういうワケじゃねーけど」

「まあ、突然すぎて理解できないよね。それに、自己紹介もしそびれちゃった。」


確かに。

私もようやく、そこに気がついた。

色々驚きすぎて、考えが追いつかない。


「じゃ、とりあえずお前は何者なのかを教えてくれよ」

中空くんはコーラを飲みながら促す。

少年はうん、と頷き話し始めた。


「改めて…初めまして。俺は木下タケル。来年、君たちと同じ高校に通う予定の……中学生だよ」

「中学生?」

私たちは声をそろえて叫んでしまった。


やはり何処かあどけなく見えたのは、間違いでは無かった。

けれども彼は私たちに臆することなく、さらりとその理由を述べた。

「うん、俺はーー君達が亡くなった後も2年、生きてたからね。ちょうどその年の差分じゃないかな。」

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