第10話 間宮くん

咄嗟に隣の彼を見る。

小テストどころじゃない。


彼は素知らぬフリをしてプリントに回答を書き込んでいる。

私は上の空で英単語を綴る羽目になった。


ホームルーム終了後すぐに声をかける。

「中空くん」

「ん?」

「あれ、どういうこと?」

「え、そのまんま」

「はい?」

全く意味がわからず、訝しげな顔をしていると

途端にデコピンをくらう。


「痛っ」

「シワ寄ってる」

「失礼ねっ」


額を抑えながら抵抗する私なんておかまいもなく、

彼は前に座る友人に声をかけた。

「拓海」

「ん?ああ」

声をかけられた人物は振り返り、少しぎこちない様子でこちらを見る。


彼は、始業式の時からずっと中空くんと一緒にいるーーー間宮くん、だ。

名前だけは覚えた。


「さっきコイツに教えたけどさ、お前も同類って話」

私を指差して彼にそう説明する。

「ちょっと、コイツって誰よ」

「まぁまぁ細かいことは気にすんな」

「ひどい」

私が口を尖らせていると、間宮くんは優しく笑う。


「話に聞いたとおりだな。」

「話?」

間宮くんの言葉にキョトンとしていると、中空くんは嬉しそうに答える。

「だろ?もう全然変わってねーからビックリだよ」


「ちょっと待って全然話が見えないんですけど」

私は慌てて確認を取る。

一体何の話をしているんだろうか


「さくらって、名前もそうだけど話し方とか全然違和感ねーのな」

「……名前、も?」

「昨日話してた夢の中のこと」

「え」

私はポカンと口を開けて止まってしまった。

おーい、大丈夫かー?と中空くんが目の前で手を振っている。


そういえば私、夢は見るけど

自分の名前はおろか周りの人物の名前なんて知らない。


「……その様子だと、まだそんなに詳しく知らない?」

間宮くんが、中空くんに確認を取る。

「みてーだな。これは一度ゆっくり話す必要がありそうだ」

うんうんと頷いて、私の額を再度指で弾いた。


「いたっ!!ちょっと、二回も何するのよ」

「お前が遠くにエスケープしてるから現実に引き戻してやったんだろうが」

呆然とするのも当たり前じゃないの、と抵抗しようとしたけれど

「よし、お前今日時間ある?」

「……はい?」

どうしてこの人はこうマイペースなのだろうか

まだ彼の思考スピードに追いつけない頭で、私は間の抜けた返事をした。


「放課後ちょっと付き合え。間宮もな」

「えっ」

はい決定、と頭を叩かれ

ちょうどそのタイミングで始業のベルが鳴り響いた。


「もう、相変わらず勝手なんだから……」


ーーー相変わらず?ーーー

不意に出た独り言に違和感を覚え、首をかしげつつ

私は慌てて席に着き、授業の用意を揃えた。



***



放課後。

一人だと不安なので、メイにも付いてきてもらう事にした。


「今朝、何を話してるのかと思ったら……何面白そうな展開になってるの!」

メイは自分がそこに入れなかった事への不満をもらしつつ

実際は他人事だからこれは楽しいわと喜んでいる。


夢の話は以前からしていたので、理解が早い。

「ほら、やっぱり前世の夢かもって言ったじゃん〜!」

私の勘が当たったんじゃない、と嬉しそうにはしゃぐメイとは逆に

私は変な緊張感しか持てなかった。


私は、昔から同じ夢を見ていたのだけれど

それは本当に、同じ事の繰り返しでしかなくて。


前後の話が見えてきたり、関係ない感じの状況が見えたりするのは

ここ数日の急な話だ。


しかもーーー決まって『彼』と二人でいる事が多い。

他の情報が全くない自分にとって、彼らとできる話があるのだろうか。

でも、知りたい。

あの夢は一体どういう事なのか、考えるヒントになるなら。


そして

間宮くんが一体、誰なのか。

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