第4話 共鳴

その後、私の話を聞いたメイは

「……それって、ホントに何かあるんじゃないの?」

と、興味津々で喜ぶように尋ねてきた。


「何か、って何よ」

何も思い当たる節なんて、ない。


「うーん、ほら、『前世の記憶が〜』とかってよくあるじゃん」

「まさか」


そんな漫画や小説みたいな話、リアルにあるわけない。

ないない、と私は適当に彼女をあしらって授業の用意を始めた。



チャイムが鳴り、授業が始まる。

今日はいつになく、眠い。


午前中からうつらうつらとする意識をなんとか叩き起こし、

板書だけは死守していた。

先生の話が、何故か別の人の話に重なって聞こえる。


「……だから、この時の主人公の心情は……」


ふいに、目の前が霞んで


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「……でさ、フリッツがこれを見つけたんだよ。すげえよな」

「うん、すごい」

「アイツ、絶対いい医者になるよ。だからお前の病気だってーーー」


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「ーーー山下、山下さくら。」


ふいに自分の名前が耳に届き、ハッとする。

「……!はい」

名を呼ばれ、前を向くと

「白目むいてたぞ。大丈夫か」

教卓から先生が、少しふざけた調子で言う。


「えっ、あっ、大丈夫です」

反射的に取り繕うように答えたが

「そうか、では次の段落を読んでくれないか」

「は、はい……」

どこを読めばいいのかサッパリ分からない。

周りからクスクスと笑う声が聞こえる。


「p35。2段落」


隣から、周りに聞こえないくらいのボリュームで声が聞こえた。

中空くん、だ。

私は慌てて、その段落を読み始めた。


おかげで、皆は授業に戻り

私はホッと胸を撫でおろした。



今の、なんだったんだろう。

ついに授業中にまで居眠りしてしまうほどに疲れたのか

いや、それより

さっきのはーーー夢?



変な汗が出るのを感じながら

私は深く息を吐いて、それ以上考えるのを一旦止めた。

とにかく今は、目の前の授業に集中しよう。





数分後。

現代文の授業が片付き、次は音楽室への移動だった。

少し重く感じる頭と体を無視して、手荷物をまとめる。


「さっきの授業、ヤバかったね〜」

メイが席を立ち上がって振り返り、話す。

「もしかして、寝てた?」


「もしかしなくても、寝てたっぽい」

私は肩をすくめて、冗談交じりに軽く返事をした。

そして隣の彼に向かって礼を言う。

「中空くん、さっきはありがとう」


「ん?…ああ。とりあえず凌げて良かったな」

はは、と笑って彼は音楽の用意を持ち、前の席の友達とサッサと教室を出ていった。

よし、とりあえずお礼は伝えた。

まだ出会って間もない隣の彼とは、どうもぎこちないのだけれど。

少しずつ、馴染めればいいかな。


そんな風に、気楽に思っていた。


道具を持ち、メイと音楽室へ向かう。

「それにしても授業中まで居眠りするのは、ちとヤバいんじゃない?」

軽い感じで話してくれてはいるが、メイなりに心配しているようだ。

「うーん、確かにヤバかったね。」

今日は早退でもして寝るべきか、ああでも初っ端から授業休むのは成績上印象がよろしくないね。

なんて話をしながら階段を降りようとした時。


ふいに、目の前が霞む。

なに、これ。


とっさに手すりを掴んでその場に止まろうとするも

「ちょっ、さくら……大丈夫?」

手に力が入らず。

「ごめ……メイちょっと私……ヤバいかも」

その瞬間、

体が、宙に浮くような感覚に陥った。


落ちるーーーーー


「さくら!!!」

メイの声が聞こえる。


「ーーーんなっ」

前にいた彼がその声に振り返り、咄嗟に身構えるも


ドサッ



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「だから、気をつけろっていつも言ってんだろうが」

「…ごめん。でも少しでも、外が見たくて」

「元気になったらいつでも見れるって」

「そうだけど」

「…しょうがねーな、じゃあ少しだけだぞ」


そう言って彼は私の身体をそっと抱き上げて、窓の外の景色を見せてくれた。

一面の、雪景色。

太陽の光が反射して、キラキラと眩しい。


「……綺麗」

「だな」

「今年も、この景色が見れて良かった」

「来年も見れるって」

彼は笑う。

屈託のない笑顔。


この笑顔が、もう見れないなんて

私は、思いたくなかった。

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「……なに、今の」

私を受け止めた彼が、目を見開いて呟く。

その声で、私の意識は現実に戻った。

「……え?」

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