第3話 連鎖のはじまり
その日から、やたら『例の夢』を見る。
ほぼ、毎日だ。
同じ内容のこともあれば、はじめての内容もある。
けれども、共通しているのは
どうやら、自分は病気らしい(ずっとベッドの上で生活している)
いつもそばにいる『あの人』の顔はまだ分からない。
兄弟かな?家族がいるようだ(これまた顔が見えない)
肝心なところにモヤがかかっていて
なにも分からないのに、漠然とした場面だけが見える。
でも、少しずつ前後が見えてきた。
私を看病する周りの人たちとの会話、といった所だろうか。
おかげで、今まで普通に『疲労』だと片付けていた夢が
違う自分を見つけたような気分で面白くなってきた。
今日はどのシーンが見れるかな、なんて
映画を観るようなお気楽なワクワクさえあった。
なんせ自分目線の映画だ。
何かの物語の中に入り込んだ気分になれる。
まあ、夢だからそんなモノなのかもしれないけれど。
せっかくだから、周りの人たちの顔も見たいなあ
なんて思ってみたりするのだけれど。
そんなに都合よく見れる夢では無さそうだ。
とにかく。
夢を見る頻度が増えたということは
当然私の目覚めもすこぶる悪く。
毎日寝ているのに睡眠不足のような疲労感に襲われている。
新学期早々、授業中に居眠りなんて恐ろしい。
遅刻は免れているものの
あまりの毎朝の悲惨さに、メイがとうとう突っ込んできた。
「……ちょっと、一体アンタどうしちゃったの」
教室。
毎日のようにギリギリで滑り込んで机に倒れるように突っ伏している私を心配しているようだ。
けれどもその顔には『興味津々』と書いてある。
「そんな寝不足になるまで何してるの?……まさか男と長電話とか」
「ないない」
速攻で否定する。
そんなことあったらもっと今朝の身だしなみもマシだろう。
「だよね〜」
と、失礼な相槌を打つ彼女はきっと気付いてる。
呆れたように前の席から私を見下ろし、ため息混じりに核心をついてきた。
「……もしかして、あの夢?」
さすが親友。察しが早い。
でもこれをどう説明すれば良いのやら。
しばしの無言の返答を肯定と受け取ったのか、
彼女は私の方を揺さぶりながら聞いてくる。
「で、今度は何か進展あったの?」
「……あるような、ないような」
本当に、そう答えるしかない。
耳に入る言葉や声が違えども、相手の顔も見えなければ情報も皆無。
まるでこれ以上踏み込むなと言われているようだ。
でもそれならなぜ、そんな夢を見るのか。
自分のことなのに分からないなんて、重症。
「なにそれ、全然分からない」
面白く無さそうにメイは椅子に座りなおす。
「だから参ってるんだよ〜もう何なのこれ」
「病院行った方がいいんじゃない?」
「やだ」
第一、家族になんて説明するんだ。
「ですよね」
分かりきっていた返答にメイは頷く。
「せっかくだからさ、この際教えてよ。」
「何を」
「だから、その夢の話よ。」
「えー恥ずかしいよ。子どもじゃあるまいし」
小学生の頃なら、あんな夢を見ただの面白おかしく話もできたかもしれない。
けれども今、そんな話を真面目にしているようではもう変人扱いではないか。
「ほら、夢占いとかあるじゃん。そういう意味でよ」
調べてみるのもいいんじゃないー?、そう言って彼女はスマホの画面に指を滑らせる。
「ほら、夢占いのサイトとかあるんだよ」
「へえ……」
全く興味は無い。
けれど、少しでも何かのヒントになるのであればと
私は夢の話を少しだけ、彼女に話した。
私は睡眠不足で疲れていたようだ。
そんなくだらない会話を、隣の席の彼が真剣に聞いていたなんて
その時は全く、気付きもしなかった。
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