第2話 記憶の歯車

同じ、紺色の名札ーーー同学年、だ。

それだかしか分からない。

中学が同じか、1年の時に同じクラスでなければ、共通点もなければ知り合う機会なんてない。


咄嗟に名札を見て、記憶を探る。


(中空……聞いたことない名前だな)


全く知らない相手になぜ、頭が反応したのか。

でもーーーなんとなく『似てる』

そう、思った。


相手もこちらを見て一瞬、目を見開いたようだった。

それがまた、知り合いなんじゃないかと勘ぐってしまう。

気のせいだろうか。


でも

(どこかで会いました?なんて同じ学校なのに失礼だよね)

冷静に考えて。


(……気になるけど、変な印象を持たれるのも嫌だし)


何事も無かったかのように視線をメイに戻し

なに食わぬ顔で、クラス発表の掲示板を見に行った。







「……やった!今年も同じクラスー!!!」

私とメイは手を取り合って喜んだ。

他に知り合いは誰がいるのか、と気になって掲示板の名前を確認する。


「あ…」


『中空 昴』という名前を見つけ、先ほどの彼の顔が浮かんだ。

(もしかして)


その後ろで

「おっ!やったな〜今年もよろしく」

「はぁ…今年もお前の面倒を見るのは俺ってことか…」

なんだかコントのような会話が聞こえ、思わず振り向くと


さっきの、彼がいた。

(やっぱり)


また目が合うと変に思われそうだと、素知らぬ顔で教室に入る。

自分の席を確認し、少し緊張しながら席に着く。

幸運なことに、後ろの席はメイだった。


「半分は知り合い、って思うと気が楽ねえ」

メイの言葉に頷く。

確かに、同じ中学の子や昨年のクラスメイトが多いのだ。

「どうやってクラス替えって決めてるんだろうね」


呆然とそんな会話をしていると。

「あ、俺の席ここだわ」

「ほらーやっぱり俺ここだろ」

さっきと同じ、声がする。


ふと顔を上げると

案の定、彼が椅子に座ろうとしていた。


(……!?)


こんなことってあるのだろうか。

今まで、全く知らなかったはずの人間なのに。

『懐かしい』と思ってしまう。

幼馴染に再開したかのような……



あまりにも彼の顔を見すぎていたようだ。

「……なに?」

彼がこちらを見て不思議そうに尋ねてきた。

「あっ、ごめんなさい。ちょっと知り合いに似てるなって思ったというか…」

咄嗟に出た言い訳があまりにも酷くてつらい。


「ふうん」

彼はそっけなく返事をして、前に座っている友人の背中を小突いていた。


その日はそれ以上、隣を見ることはできなかったし、もちろん話しかけるなんてことはできなかった。





「……気になるなあ」


帰宅するなり、幼稚園の頃のアルバムを引っ張り出してみる。

どこかで会っているんじゃないだろうか。


「絶対、見たことある気がするんだよね…」


学校ではない、どこかで。

それがどこだったのかーーー


近所に幼馴染とか住んでいなかったのかと

母に聞いてみたが、そんな名前の知り合いは居ないという。


「うーん……」


いつもなら、そのうち思い出すだろうと

気にも止めないのに。

どうしてこんなに気になるんだろうか。


ベッドの中でもひたすら記憶とにらめっこしているうちに

どうやら眠ってしまったようだ。





『……絶対諦めんなよ』


薄れゆく意識の中で、あたたかい手の感触。

耳に残る、優しく強い声。


『必ず、俺がお前を迎えに行くから』


うん、待ってる。

絶対だよ。忘れないから。


『二人でなら、怖くないね』


胸が苦しくて、目が醒めた。

窓から差し込む光で、朝だと認識する。



「ーーーなに、今の」


目尻に残る涙を指で触り、夢だと思ったが。

違う。

今までに見た夢と、違う内容だった。

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