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第1話 繰り返す夢

『……大丈夫。きっと、また会える。だからーーー』



誰かに手を握られ、そう言われたところで

目が覚める。



(また、この夢…)



頬に伝わる涙をそっと吹きながら、ぼんやりと天井を眺めた。


いつも、同じ夢を見る。

いつからなのか、覚えていない。


時折、忘れた頃に『思い出せ』と言わんばかりに見る夢。

まるで壊れた映写機のように、何度も同じシーンが繰り返される。

知らないうちに涙まで出ている始末。



「うーん、疲れてるのかな…」



私の中で『疲労のサイン』だと勝手に解釈している。

それくらいの頻度で見る夢なのだ。


かといって、その前後の続きや同じ設定の夢を見た事は無い。

本当に、そこだけが切り取られて再生される。


だからこそ、疲れている時には

どこぞのゲームの王子様がそう言って諭してくれているのだと

都合良く思う事にしたのだ。





「さくら!!いい加減にしないと新学期早々遅刻するわよー!」

「!」


やばい。

この夢を見た時は、ものすごく目覚めが悪いもんだから油断していた。

時計を見て飛び上がり、慌てて制服に着替える。

適当に朝食を済ませ、なんとか予定どおり家を出た。



今日から、高校2年。

新しいクラスと友達への期待に浮き足立つはずだったのに


「あ〜朝からあんな夢見たせいで体力ゼロだわ…」

「ちょっと!背中!」

ポン、と軽く背中を叩かれハッと我に帰る。


「あーメイ…おはよ…」

後ろから飛びついてきたのは、親友のメイだった。

小学校からの長い付き合いだ。


「ちょっと!朝からなんて顔してるのっ」

「そんな酷い顔してる?」

「してるしてる。背中丸いし髪の毛ボサってるし…もう、新学期でこの気合の無さは何!?」


彼女は私を頭のてっぺんからつま先まで眺め、どこからツッコもうかと言わんばかりに勢い良く話かけてきた。

「はは…ちょっと寝坊してさー」

「もうその時点で既にアウトね」

メイは呆れた顔をして

はぁー、と大袈裟なため息をつく。


「ま、さくらは昔からそんな感じだよねー」

「でしょ」

「開き直らないのっ」

あはは、と二人でいつも通りの会話をし学校へ向かう。



「それにしても、毎回同じ夢って何だか気持ち悪いよね」

付き合いの長い彼女は、私の寝坊の理由を知っている。

「もう慣れたよ」

「いやそこは慣れるっておかしくない…?」


メイは苦笑いを浮かべる。これでも心配してくれているのだ。

「うーん、でも私が続きを知りたいって思って見れる夢なら、それこそ怖いよ」

「それはそうなんだけど…」



そう、いつも同じシーンで途切れる。

ベッドの上からの眺めーーー手元には白い自分の腕と、点滴。

命の終わりを待つような、そんな状態で。


それでも、側にいてくれる人がいて。

いつも、『大丈夫』と声をかけてくれる。

懐かしくてあったかい。


あの人は一体誰なんだろう。

それだけでも知りたい、と思っている。


そして、一体この夢は何を意味しているんだろうか。


毎回、見えているのは自分目線だけれども、こことは全く景色の違う世界で。

どこかで見た映画や本の影響?

いや、そんな作品ならきっと印象に残っているはず。


しかも結構な頻度となると、何かしら意味があるんじゃないかとつい考えてしまう。

でも、心当たりが無いモノはどうしようもなくて。


せめて、『あの人』がどんな人なのか分かればいいのにーーー

懐かしい、あの人。


(……あぁ、そうそうこんな感じの)


と、ふと視界に入った人の顔を見てなんとなくそう呟きそうになって。


「え?」


思わず自分の頭の声に反応して、変な声が出てしまった。


ちょうど校門の前。

向かいの道からこちらへ向かってきていた男子学生と、目が合った。

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