2:特に変わらぬ曇り空な日常
X97年 2月1日 (木) 午前7時17分
家を出るとやっぱり雨はざーざー降っていて、仕方なしに私は傘をさす。
傘をさしながらふっと空を見上げる。
相変わらず空は灰色と毒々しい緑色のみ、とてもつまらない。
この世界の中央に位置する大木、人々はそれを
理由は簡単、この木が人を生かしてるから。
この木によって雨が降る。太陽が、月が出る。
母のように私たちを守ってくれている。
ありがたいと多少は思う。
でも、私はあの木が嫌い。
だって、あれは……
上をずっと見て色々と考えていたせいか、必死に走っていたであろう灰色のマフラーをぐるぐる巻きにした息の荒い男性と正面衝突してしまった。
「…っ、ごめんなさい!お怪我はしてませんか!?」
すぐにぶつかった相手に謝ったのだが、彼は無言で私の落とした傘を拾って差し出してきた。
「あ、ありがとうございます。」
私の言葉を聞くなり彼は頷き、
「こちらこそ、すまなかった。」
ボソリと、でも確かに彼は私に詫びをいれた。そして彼はぶつかる前と変わらず走って私の元から去っていった。
◇
午前8時2分
いつもより2分遅刻しての出社。
「おーい、今日は遅かったじゃねぇかよ''007《ナナ》''」
仕事場所である自分の席に座ると私と同期の''089《ハク》''が大声にどや顔をつけ足して近づいてきた。
「たかだかほんの数分でしょ、何どや顔してんの…」
ナナの呆れた声にハクは黒猫みたいな癖っ毛を指で
「いっつもお前から最初に挨拶されるからな、次こそは俺から~ってさ」
「だから、おはようナナ」
ハクの笑顔付きの挨拶を貰う。
これがモテ男の実力か…
自身のタレ目をうまく使った素晴らしい挨拶だなコノヤロー、滅べイケメン。
そんな事を思いながらもナナはハクにおはよう、とやっとのことで声を出した。
ここはニュース記事を作る弱小会社。
でも、みんなこの仕事にやりがいを感じている。
私もハクもここで働きだしてもう3年くらい経つが、そこまで不満はない。
人数が少ない分、アットホームな会社だ。
『緊急速報です。』
突然、テレビはバラエティー番組からニュースへと変わり、ニュースキャスターが見てるこっちからでも分かるくらい焦った表情をしてる。
その表情を見た同僚たちがなんだ、なんだとざわめき始める。
「どうしたんだ、緊急速報なんて珍しいじゃん。」
ハクの疑問は最もだ。
普段、緊急速報は天皇家のお祝い事くらいにしか使うことがない。
お祝い事ならニュースキャスターもこんなに焦った表情をするはずがない。
何事かと、皆がざわめく中ニュースキャスターが声を出した。
『儀式の適合者が逃走を謀りました。
逃走者は''018《イチヤ》''、身長175~180くらいの上下黒っぽい服を着て、灰色のマフラーを巻いている20代くらいの男です。』
ざわめきは一層大きくなった。
儀式の適合はとても名誉なこと、この世界のために自分が何かをできるということだけで自分が必要とされる人間ということを認識でき、周りに示すことができる
逃げるなんてことはありえない。
それは自身の否定を意味するのだから。
儀式でいったい何をするのかはわからない、ただ1回の儀式に適合者を男女共に3人ずつ召集する。
その後、マザーの中心から半径1㎞の円形の壁の中へと入っていく。
そこからは私たち一般の人間には秘密になっている。
彼は壁の中でやることを知ったから逃げたのだろうか?
そんな考えがナナの頭の中で湧いて出てきた。
そして今朝出会ったマフラーの彼を思い出した。
ああ、多分あの人だ
直感的にそう思った。
周りを見ればネットにアップされた逃走者の写真を見てる同僚が何人もいた。
その写真はやはり今朝の彼で間違いなかった。
ハクはスマホを手にしながら
「すげぇ変なこと考えるやつもいるもんだね。
まあ、どうせすぐに捕まるんだろうけどさ。」
「だろうね、名前を身体に彫られてるんだからすぐに見つかるね。」
私たち国民には生まれた時から名前が彫られている。
だからこそ、情報がこんなにも早く回るのだ。
そのおかげで犯罪率は0.1%を何十年も保っているのだ。
「おい、お前ら仕事の時間だぞ!!」
課長の怒声に誰も彼もがびくりと肩を上げた。
「やっべ、じゃあまたなナナ!」
「うん、またお昼」
ハクとは部署が違う。
私がここ4階の情報処理部
ハクは6階の記事製作部
ナナはハクが消えた場所を遠目に見ながら、腕時計で隠れてる自身の名前が彫られた場所を一撫でして普段通り仕事をやり始めた。
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