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まずは、自らの気持ちを問い直してみてください。貴方は本当に何かを望んでいますか?心の底から。
その心の「飢え」が感じられたのなら、夕暮れ時を待ちましょう。全てのものが紅に染まり、現実と幻との区別がつかなくなる、そんな時間を。
季節はどうでしょう。過ごしやすい時期ですか?「飢え」は様々なものからやってきます。冬、それも薄ら寒い時期は特に、普段は元気な人だって、心に隙間ができるものなのですよ。
さて、この学校で一番寂しいのはなんでしょうね。やっぱり、一本だけ立っている、あのプラタナスだと思いませんか?人を惹きつけようとして、仲間の木もいないのに健気に頑張っているじゃありませんか。あんなにどっしりとした見てくれでも、きっと寂しがりやに違いありません。
さあ、夕暮れ時にプラタナスを見て見ましょう。どこを見ていると思いますか?
木は、場所を知っているのですよ。
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…抽象的ではあるけれど、それは確かに探し方を教えてくれていた。
なんといったって、今は冬、薄ら寒い時期で、夕暮れ時。ここからプラタナスが見えるのだ。探さない手はないだろう。
でも、プラタナスが見ているってどうやってわかるんだろう…「彼」の向いている方向をどうやって知ればいい?
僕は部室の窓を開けて首を出し、プラタナスを見上げた。枝ばかりになっていて、そこから覗いている西日が眩しかった。どこに儚石はあるんだ?儚石は、儚石は…。儚石の事だけを考えて一心に見つめた。西日がちょうど幹に重なるように角度を変えて、僕は部室からプラタナスを見つめていた。
何か変化はないか?何か読み取れないのか?
そう、考えながら。側から見ている人がいたら、ただ思索に耽っているように見えたかもしれない。
…ふと、強い風が吹いた。西風なのか、部室の開けた窓から吹き込んできた。寒い。この時期の風特有の気味の悪い寒さが僕を襲った。そういえば、と思って振り返ると、幸い、文芸冊子は、棚から飛ばされることなく、きちんと収まっていた。
プラタナスには葉が付いていない、と僕は思っていたが、一葉、最後の一葉が、枝に引っかかっていたようだ。それがくるくると風に乗って舞い、部室の中には入ってきた。思ったよりも小さいその葉は、最後にふわっと舞って、床に置いてある文芸冊子に落ちた。そう、儚石の探し方が書いてある、あの文芸冊子だ。
プラタナスの向いている方向、それは、この部室なんじゃないか…!?そう思って、僕はとても興奮していた。
この部室に、儚石がある。どこだ?どこにあるんだ…?
よし、探そう。と思って床に置いていた文芸冊子を手に取ると、その下の床の模様が、少し奇妙なことに気がついた。
部室棟の床は普通の木でできていて、タイル状のような、正方形が連なった模様をしているはずだった。しかしそこだけ、その正方形の中に、円形の、別の木が埋め込まれていたのだった。
さっきはそんな風になっていることに気がつかなかったが、確かに、これは儚石が入っているに違いない。そう思って僕はその木の板を外そうとした。
数回クルクルと回しひねると、案外簡単にパカっと外れた。
その中を恐る恐る、しかし興奮したまま見るとそこには、小さな匣が入っていた。その模様はまさに外国のもののようで、怪しげな魅力のある色をしていた。
この中に、儚石がある。自分の願望が叶う。
僕は期待を込めて、匣を開けた———。
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