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寂しい。言われようのない虚無感に取り憑かれて、逃れられなくなったことはないだろうか。
とにかく、寂しいのだ。
考えてみれば、生まれてこのかた、誰かに一番に想われたことなんてなかった。
どうしたら、誰かに一番に想ってもらえるんだろうか。恋人が出来たら…?世の中のカップル達はお互いのことを想いあって、それが上手くいかなくなったら別れてるんじゃないか…?そう考えると、今の自分にも説明がつく。彼女いない歴=年齢の、可哀想な非リア特有の症状じゃないか、なんてね。
こんなことを考えてしまうのだって、今がきっと深夜の2時で、誰とも話せない時間だからなんだろうな。そんなのわかってるさ。なんだかんだ僕だって、それなりに学校生活を楽しんでいるんだから。
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はぁ…。昨日の深夜にメモに書き残してあった、鬱っぽい文章。なんだこれは。支離滅裂だし、悩んでるのか悩んでないのか全然わかんないぞ。
文芸部として、こんな文章許されないよなぁ……まったく、眠かったとはいえ、どうにかならないかなぁ…。
さてと…こんなものは置いておいて、休み明けに出すらしい冬の文芸冊子に載せる小説にとりかかんないとなぁ。
パソコンを開く。バックのイラストは僕の一番好きなイラスト。女の子が窓の外を見てるところだ。普通のイラストなんだけど、女の子の前に置いてあるコーヒーがカップ一杯に入ってるのに、湯気を立ててない。ただの書き忘れかもしれないけど、誰かを待っているのだろうか、その人はまだ来ないんだろうか、って想像が膨らんでしまう。まあ、そんな女の子に待っていてもらいたいなーなんていう非リアの妄想でもある訳なんだけどね。
冬の文芸冊子。それを出して、校外の人にも売るのが、文芸部の中でも最大のイベントの一つだ。今年、部長の先輩が決めたテーマは暖かい心。その中でも、学年ごとのイメージが決まっていて、僕たち高校一年生は恋愛、なんだそうだ。「男女間の暖かい心のやりとりを書いてね♪」とのこと。部長の先輩、ポニーテールでちょっと好みだなーとか思ってたけど、鬼だった…。非リアの僕に暖かい恋愛なんて書ける訳がないのだ。毎日プロットを練ってるんだけど、イマイチ感じがわからない。どうにかならないものかなー…。
そうだ。過去の先輩にだって、きっと僕みたいに、恋愛したことないのに恋愛モノを書かなきゃいけなくなった人がいるはずだ。そういう人は、どんなものを書いたんだろう。それを参考にしてみれば、何かがわかるんじゃないか、そう思って、僕は部室へ向かった。
グランドの端にある部室棟の目の前には、プラタナスが一本だけ生えている。結構大きな樹で、毎年沢山の葉をグランドに落としている。文芸部の部室は、部室棟の中でも一番プラタナスに近いところで、窓からよく見える。今はもう、すっかり葉が落ちていて、枝の向こうから西日が部室に強く射し込んでいた。
部屋の電気をつけると、誰かに怪しまれるかもしれないから、この光は僕には好都合だった。西日の光を頼りに過去の冊子を漁った。開いては閉じ、開いては閉じ、としているうちに、僕はひとつの小説に惹き寄せられてしまった。恋愛モノを探していたはずだったが、何故かそれに心奪われてしまったのだ。
その小説は、10年ほど前の冊子に載っていたもので、うちの学校に伝わる、都市伝説、いや、学校伝説を元にしているもののようだった。
儚石、と書いて、もうせき、と読むその石が、この学園にあって、その石は、持ち主の望みを叶えてくれるんだそうだ。だけど、それは、叶えるために何か犠牲を払わなきゃいけない。自分で何を犠牲にするか選べるが、対価が釣り合わない時には、勝手に他のものも奪われてしまうんだそうだ。
そんな石なんて、あるわけない…と思いつつ、自分に文才があったら、恋人がいたら…なんて、想像が広がってしまう。
でもそんなのないよな、と思って他の小説を探そうと隣の冊子を開いた時、その話の続編を見つけた。
そこには、石の探し方が書いてあったが、作者によると、それを見つけられるのは本当に心から何かを望んでいる人にだけだそうだ。でもそんなの気にしたらいけない、僕にだって見つけられるかもしれないじゃないか。そう思って、僕は実行に移すことにした。
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