第13話 覚悟と機会
僕がこの宮園家の地下から脱出するために、しなければいけないことは3つだ。
第一にまず宮園加恋を気絶させ鍵を奪わなければならない、あの女は警棒を持っている。
だから正面からではなく背後から油断しているときに、後ろから殴って気絶させるしかないと思う。
第二にこの家では照明をつけることができない、今は何時かわからないけど電気を点けずに素早く行動する必要がある。
第三に普段家の外で飼っているシェパードが、脱走の警戒のためか家の中で放されているという。
これについては僕もどう対処したらいいかわからない、シェパードは警察犬として有名な犬でどんな風にしつけられているかわからない、知らない人間を発見した場合、吠えてくるのか噛みついてくるのかもわからない。
噛みついてきた場合のために腕に何か巻いておいた方がいいかもしれない。
この場所を脱出をするためにルージュさんも手伝ってくれるようだけど、あてにすることはできない。
結局は自分の力で脱出することになるのだ、それに僕が臆病で何もしなかったことがこうなってしまった事の原因の一つにある。
だからできる事を今度こそは全力でやろうと思う。
僕が計画を実行に移したのはルージュと話してからすぐだった。
時間を長く置いてもチャンスが来るかどうかわからないし、またあの凄惨な実験が行われるかもしれない。
また僕の決意もいつまで続くかわからない、僕は意思が弱い人間だというのは自分がよくわかっている、何が起こって心が折れるのかわからないだから今しかないのだ!
僕はベットで体を横たえながら、実行の時を今か今かと待っている。
普段はあの女は学校から帰ってくると三時間おきぐらいの感覚で様子を見に来たり、食事を置いていったり、地下室の扉のすぐ脇にあるトイレへ僕を連れて行ったりする。
先ほど来た時からすでに三時間になるだろうか、もうすぐ来るはずだ。
心臓の音がうるさい、これを逃すと機会がないそう思うと途端に心音が高くなる、僕はそれを別の事を考えることで誤魔化そうとする。
多分あの女の油断するチャンスは食事をテーブルに置くときに後ろを向く時と、トイレに連れていかれる時に手錠のワイヤーが外されたときだろう。
そんな緊張感のなか地下室に近づいてくる足音がする、僕は本当にちゃんとやれるのだろうか?何か不測の事態が起こるのではないか?もう宮園にすべてバレてしまっているのではないか?僕は恐怖から胃の内容物がこみ上ってくるのを抑え、深呼吸する。
扉を開け入ってくる宮園、手には食事のトレーを持っている。
「ほら、今日の食事よ。ちゃんと残さず食べてね、片付けるの面倒だから。」
僕はベットから起き上がり宮園の様子を確認する。
宮園は何の不審なそぶりは見せずに、いつもと同じように同じ動きで小さなテーブルに食事を置いている。
今僕のいる方は宮園に対して死角だろう、僕はチャンスだと思いいつでも飛び掛かれるように腰を上げようとする。しかし
――カチャリ
宮園は持ってきていた箸が落ち、女はそれをすぐ拾い僕の方を微笑を浮かべながら見る。
僕は不味いと思い、すぐに力を抜きそのままベットの上に戻る。
「ごめんなさい、お箸落としちゃった。今代わりの持ってくるから待っててね。」
そういわれて僕は焦る、今回はやめた方がいいのか?次のチャンスを待った方がいいのか?
しかし僕はルージュさんの事を思い出す、もしかしたら今箸が落ちたのもルージュさんが何かをしたのかもしれない、だったらチャンスは今しかないのかもしれない。
「ちょっと待って!」
「どうしたの?」
「あの・・えっと・・。ト、トイレに先に連れてってもらえない?」
「あ、トイレか、わかった連れていくけど変なこと考えたりしないでね。私一応警棒持ってるし、あまり暴力的なことってしたくないのよ。」
そういいながら宮園は警棒を構える、こちらをけん制しているのだろうこちらを目を離さずにじっと見てくる。
「しないよなにも、僕だってバカじゃない。」
「ふ~んそう、うんわかったそれじゃあ山本君のこと信じるね。」
いつもは特に何も言わずにやるくせに、今回はとてもしつこかった。
もしかしたら、僕の言動や何かで感づかれたのかもしれない・・・。
それでも僕の勘でしかないけど、今がやるべき時なのだと自分に言い聞かせる。
宮園は慣れた手つきで柱に巻き付いているワイヤーに取り付けている小さな南京錠を外す。
外れたワイヤーを空いているほうの手で持ち、僕が逃げないように手に巻き付けてしっかり握っている。
そして警棒を僕に突き付けながら立つように促してくる。
僕は促されるままその場から立つ、なんとかこの女の隙を見つけようと観察する。
僕はトイレに向かうためそのまま扉の方に向かいゆっくりと歩き始めた、その時
上の方から犬が激しく吠える音が聞こえてくる、ルージュが言った通りこの家には犬がいるようだ。
だがこれまで僕は一度も吠えた声など聴いたことがない、そう思い宮園の方を見ると少し慌てたように上の方をみている。
「変ね、うちの犬はちゃんと躾けてるからめったに吠えることはないんだけど…。」
「上で・・・何かあったんじゃない?」
「・・・・。」
僕がそういうと宮園は黙ってどうするべきか考えているようだ。
そしてやっぱりトイレは今は諦めさせようと思ったのか、柱の方に向き直った瞬間を僕は見逃さなった。
「うあああああああああああ。」
僕は声を上げると宮園に向かって体当たりをする、宮園は完全に不意を突かれたのかこちらを見ることもできずに前方に転倒する。
しかし、手に持っていたワイヤーに引っ張られて僕もそちら側に引っ張られ体勢を崩しそうになる。
だがまだ終わりではない宮園はただ倒れているだけであり、いつ反撃されてもおかしくない。
僕は男で宮園は女だけど、はっきり言って僕は体力的にも筋力的にもあまり自信がない。
だから僕は慌てて周りを見渡し、武器になるものを探す、すると宮園が先ほどまで持っていた警棒が近くに転がっているのを発見し、僕はがむしゃらに手を伸ばしそれをがっちりと握る。
そうしていると宮園はショックから立ち直ったのか体を起こそうとしている。
僕は今追撃しなければ絶対不味いことになるそう感じ、無我夢中で彼女の後頭部へと警棒を振り下ろす。
「うがああああああああ。」
僕は奇声を上げて振り下ろした警棒は彼女のこう頭部に、鈍いガツという音と手には確実に当たったという確かな手ごたえがあった。
「ハア、ハア、ハアハァ。」
荒い息を繰り返した後、僕はすぐに宮園がどうなっているか確認しようとする。
あんなに殺したいと願っていたというのに、いざその状況になってみると彼女の心配をしてしまう、ホントに僕は卑怯者で臆病者だ。
宮園は確実に気を失っているようだった、手を持ち上げてそのまま落とすが何の反応も見られない。
そして宮園の後頭部からは赤黒い液体が流れ続けている。
僕は手当てをするべきか迷ってしまう、しかしそれはタダの偽善であり今考えることではないだろう。
それに僕は遂に呪いとは関係なく人を傷つけてしまったのだ、たとえ相手がどんな人間であれ。
だから僕は必死にそのことから目をそらす、そんなことを考えないようにするために。
それから僕は宮園のスカートの右ポケットを探すことにする。
目の前の自分にできる事をしなければならない。
今目の前にいる僕の罪悪を具現化したような存在と、この後に起こるであろう厄介ごとを少しでも考えないようにするために。
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