第10話 暗闇と告白

僕は朦朧とした意識の中で目を開ける、頭がずきずきと痛みそれだけがこれが現実だと教えてくれる。

瞼を開けて周りを見ようとするも周りには一切光源がなく、瞼を閉じているのと同じ暗闇が広がっている。


体の下には柔らかい布団が敷いてあり頭の上には鉄のような物があるとぼんやり感じる、どうやら僕はベットの上に寝かされているようだ。

そして体を捻ろうとして気付く、両腕と両足、そして腰のあたりががっちりと固定されている感覚があり、身動きの一つも取れなくなっている。

途端に焦燥感が湧いてくる、僕は無理やり体を動かして何とか拘束から逃れようとするも、拘束具はがっちりと一部の隙もなく固定されているようで逃れるすべはない様だった。


僕は暗闇に向けて一縷の望みをかけて呼びかけを行う。


「だれか、誰かいませんか!」


だがその声は暗闇の中響くばかりで、誰かに届いた様子はない。


僕はどうしてこうなったのか、その事を朦朧とする頭で必死に考える。

ここで先ほど目覚めるまでの記憶を遡り、こうなった原因の糸口を掴もうとする。

そう、あれは授業が終わった放課後、何とか勇気を振り絞って宮園さんと連絡したのだ。



加藤さんをあんな目に合わせた後、僕は体調が優れずに3日程学校を休んだ後ふらふらしながらも学校に登校していた。


季節は春のためまだ外は肌寒く、空も分厚い雲に覆われている。

クラスでは他愛もない話で満ちており、僕が現実の世界に戻ってきたと思わせてくれる。

だけど


「なぁ知ってるか、違うクラスの女子ほらあの化粧いっぱいしてるケバイグループのいたじゃんその内の一人がさ、その日まで元気だったのに、公園で突然意識を失って今も植物状態なんだってよ。しかもその子体には傷一つなく健康体らしいぜ。」


そんな噂で学校中が持ちきりになっていた、その噂を聞くたびに胃の中をぶちまけたい衝動に襲われる。

いっそのこと、やったのは自分だと申し出るべきだろうか?

いや、申し出たとしてもどうやってそんなことをしたのか聞かれれば、僕には答えられないのだからただ困惑させるだけなように思う。

だけどそれだって言い訳で、ただの逃げだっていうのはわかっている、僕はただ怖いだけだ。


そうして逃避し何もしないまま放課後を迎えた僕は、宮園さんと話すために連絡を取ることにする。

クラスにいる彼女は特に何も変わった様子がなく、たまに僕の方を見て笑いかけてくれるだけだ、だけどそんな変わらない様子の彼女が不気味だった。

ルージュさんの話では彼女は僕と加藤さんが公園で何をしたかを知っているはずだ、だからそのことを知っているのにいつもと変わらない彼女は…。


だから、そうだからこの前のことについて彼女に問いたださなければならない、この前のことを本当に見ていたのかどうして見ていたのか?あの瞬間は見ていたのか?見ていたならこれからどうするつもりなのか?聞かなければならない。


もしあの時のことを周囲にばらされたとしても僕は構わないように思う。

むしろ証人がいてその証言を信じてくれる大人がいて、僕に罰を与えてくれるその方がいい、そして楽になりたいと思っている自分がいた。


そんな風に考えていると、宮園さんからメッセージが来ていることに気付く。


≪私もあなたに話したいことがあるから、また公園で会えない?≫


というメッセージが来る、僕はそれに顔をしかめる。

この前あんなことがあって、そんな場所に近づくのはホントに嫌だったし彼女があの場面を見ているのならなおさら行ってはいけないような気がした


≪こっちから誘っといてなんだけど、ファミレスとかファストフード店とかではダメかな?≫

≪私そういう場所苦手だから、それに大事な話だから二人きりで話せる場所がいいんだけど。≫

≪う~ん、ごめんいい場所が思いつかないです。≫

≪それじゃあ、川沿いの橋の下とかどうかな?あそこなら人はあまり来ないし≫

≪うん、いいよ。それじゃあ6時にそこでいい?≫

≪大丈夫、それじゃあまたあとでね。≫


そうして連絡を終えた僕は、今は四時を少し過ぎたあたりで少し早いかなと思いながらもそのまま行くことにする。

それにしても彼女の大事な話とは何なんだろうか?

いい話ではないことは確かだろう、だけど……いや気にしてもしょうがないその場で考えるしかないのだ。



そうだそして僕は宮園さんとの約束で橋の下で待っていたはずだ。

約束の時間になっても宮園さんが現れずに、どうしようか連絡しようかと悩んでいるときに不意に目の端に人影が現れた気がして振り向いたときに、殴られて倒れそうなときに後頭部を鈍器のようなもので再び殴られて気を失ったのだ。


そうやって思い出してみて、どう考えても怪しいのは宮園さんだ。

どうして僕を殴ってこんな部屋に監禁したのかはわからないけど、宮園さん以外にあの場所で待ち合わせをしているのを知っている人はいないはずだった。


そうして考えている時にも、無駄なことだと分かっていても体を捩って拘束から脱しようと試みていた。

その時突然扉の開く音がし、照明のスイッチが入れられる。


突然のことと、目が暗闇に慣れてしまっていたせいと強烈な光で、目を刺されたような痛みが生じ僕は顔をしかめる。


「あら、山本君もう起きていたの?」


扉の方向から宮園さんの声が聞こえてくる、だけどその声にはその場に似つかわしくないくらい平常なもので、僕の恐怖心を駆り立てていく。


「み、宮園さんなの?僕を、ここに・・・閉じ込めたのは。」

「うん、あ、だけど安心して別にあなたに今は危害を加えるつもりはないから。」

「じゃあなんで…。」

「簡単に言うと好奇心かな?山本君という人間についてもっと観察して、実験したいと思ったからかな?」

「観察?実験?いったい何を言ってるの?」


僕は話しているうちに慣れてきた目を少しずつ開けていく。

そこには扉の近くで、嬉々とした様子でこちらを見ている彼女の姿がある。


「そうよね、実験に付き合ってもらうんだし、そこは話しておくべきかもしれないわね。私って人間がホントに嫌いなの、いえそんな言葉では表せないわ。生理的嫌悪感というより根源的な拒絶感とかそういった方が近いかもしれない、人間って生き物に近づくとホントに寒気と吐き気がしてくるの。矛盾してるって思うでしょ?君も人間なのに人間といるのが嫌なのかって?そうよ私は私という存在が人間であると認識するたびに死にたいほどの絶望感に苛まれるのよ!!この苦しみがあなたにわかるの!!」


そう彼女は一気にまくし立てる様に喋ると、息を切らしたのか呼吸を整えるように深呼吸している。


「ごめんなさい、ちょっと興奮してしまったわ。こんな話誰にもしたことなかったから、ほら私って外では完璧に演じてそういったことを隠してるでしょう?この事って親にも言ったことなかったから。」

「そ、それでそれと僕にどんな関係が…。」

「そう、そこなのよ。人間が嫌いで嫌いでたまらない、ましてそのオスなんて一緒の空気だって吸いたくないぐらいなのよ。そんな私が山本君、あなたに好意を抱いているこんなのはおかしいと思わない、おかしいでしょう、絶対におかしいわ!!だからあなたの事を調べつくすの、どうして私があなたに興味を持ってしまうのか実験が必要なの!!」


彼女のその顔は先ほどまでの笑顔とは違い、狂気に満ちたものに変わっていた。

僕は全身の毛穴が粟立つように感じる。


「それで・・・僕はいつ帰してもらえるの?」

「それは実験の進捗次第でしょうね、今は何とも言えないけどね。」

「そんな、僕は今回のことは秘密にするし、宮園さんが言ってくれれば実験に付き合うから…、だから家に帰してもらえないかな?」

「・・・ほんとにイライラするわ、お前は私の言うことに黙って従っていればいのよ!!ほらどうしたの、わかったらハイっていうもんでしょ!!」

「は・・・はい。すいません。」

「ふ~、ごめんなさいまた私興奮しちゃった。もう変なこと言わないでよ私の彼氏でしょ。」

「う・・・うん、あ、あのさ実験て何をやるの?あまり変なことはやらないよね?」


僕がそういうと彼女は得意そうに笑い出しながら言う。


「まずはこの前の公園で加藤さん?だっけあの人にやったことと、同じことをやってもらうことにするわ。私の考えでは、あれが私の君への好意と関係している気がするの。」


そういわれて僕は、全身を冷汗が流れる。

やはり彼女は僕と加藤さんが一緒にいて、その後どうなったのかも見ていたのだ。

それは彼女の言う観察のためだったのだろう、だけどあんな悲惨なことを何回も繰り返すわけにはいかない。

呪いと祝福には相関関係はあっても、因果関係はないのだから。


「ごめん、待って宮園さん。加藤さんのことは色々と理由があるんだ。でもそれと宮園さんが僕に持っている好意とは関係がないんだ。」


そう切り出して、一種の賭けではあるが僕の事についてすべて話すことにする。

僕はなんとかわかりやすいように噛み砕きながら悪魔のルージュと話した内容と、僕がやってしまったことを話した。

話を聞いている宮園さんは難しい顔をしている、疑惑が六割、困惑が二割、期待が二割といった顔をしている。


「う~~ん、なるほどね、信じられないような内容だけど、加藤さんとの事もあるし嘘だと一概にも言えないわね…。ゴメン、山本君実験は延期にするわ、実験計画を練り直さなくちゃならなくなったから。」

「そう…。」

「それじゃあ、私行くね。あ、トイレとか食事をするために拘束は軽くするけど暴れないでね。」


そういうと彼女は僕の拘束を一度解き、新たに手錠をかけなおすと上機嫌で部屋を出て行った。


そんな時でも僕は抵抗できなかった、体全身の力が入らすなすがままだった。

これから僕は何をさせられるのだろう、その恐怖から僕は身を震わせていた

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