第9話 救済と謎
「神に祈っても何も変わらないよ、神ってのはただのシステムだからね。」
クローゼットの中膝を抱え、震える全身を抑えるように座っている僕に対して場違いなほど朗らかな声が聞こえてくる。
僕は今にも途切れそうになる意識を保ちながら、声のする方に視線を向ける。
そこには真っ黒な衣装に身を包んだ見知った悪魔の姿があった。
「やあ元気だったかい、とは言っても元気そうには見えないね?そうだ私がなぜ元気がないか当ててあげようか。う~んそうだなぁ彼女に振られちゃったとか?そんなはずないよねじゃあ病気かな?当たらずとも遠からずといった感じだね、それじゃあなにかな・・・。」
「う・・る・・い。」
「え?なんて言ったのかな聞こえなかったよ。」
「ウルサイって言ったんだ!!!」
僕はもう何もかもが我慢できなかった、この悪魔は今回のことは全部知っているはずだ、なのにわざとらしく知らないふりをし、こちらを振り回そうとする、いい加減ウンザリだ!!
「全部、全部知ってるんでしょ!僕が公園で何してたか!加藤さんがどうなったのか全部全部ぜんぶ!!」
そういって僕は過呼吸と貧血で一瞬目の前が真っ白になる。
「悪い悪い、悪かったよ。僕なりに気を使ったつもりだったんだけどなぁ、そうかぁだから同僚にも空気が読めないって言われるのか、なんか納得したよ。」
「何をいまさら、元はといえばあなたたち悪魔が僕をこんなにしたんでしょう!!」
「まあそれはそうなんだけど私に言われてもね。そうそう所で君、今の自分の体を見て変だと思わないかい?」
「変なところなんて・・・。」
そういって僕は加藤さんの血がついてべとべとであろう自分の服を見ようとする。
だが見る前に僕は気付いてしまう、体に濡れている感触も血が固まっている不快感も何もないことに。
そして改めて服を見るとそこには――
――血など全くついてない以前のままの制服だった
「な、なんで、どうして?」
「どうしてって私が元に戻したからだよ。」
「元に戻した?じゃ、じゃあもしかして加藤さんは生き返ったの?」
僕は藁にも縋る思いだった、僕の罪を帳消しにしてくれるかもしれないそう思えるだけで悪魔でも何でもよかった。
「半分正解で、半分不正解かな?」
「どういうこと?」
「前にも言ったとおり、爆発っていうのは正確には違うって言っただろう?対象となったもの全てを焼失させるつまり魂も消し去ってしまっているからね、肉体を同じような素材で元に戻すことはできても魂まではそうはいかないからね。器は元通りでもこぼれた中身は戻せないってことだね。」
「つまり・・・。」
「うん、つまり彼女は体には異常がない、でも意識がない状態。つまりは植物状態って感じだね。」
「それって治す方法は・・・。」
「う~ん、僕は知らないし、そんなこと聞いたこともないね。」
その言葉でまた気持ちはまた絶望に染まっていく、僕のせいで僕とかかわってしまったために彼女はこれから死ぬまで寝たきりかもしれないそう思うとまた嘔吐感と鼓動が高くなっていく。
「あ、そうそう余り関係ない話だけど、君の彼女宮園さんだっけ?その彼女が加藤さんが爆発するところを見てたみたいなんだけど、記憶を改ざんした方がいいかな?今ならおまけでやってあげてもいいよ。」
今なんて言ったんだ?宮園さんが見ていた?彼女は家の用事で途中で帰ったはずだ。
それがどうして加藤さんが爆発するところを見ていたんだ?
本当に意味が分からない、もう一度宮園さんと話さなければならない。
改ざんといっても何をどうするかわからない、もうこの悪魔に振り回されるのはごめんだ。
「やめて・・下さい。僕が彼女と直接話をしますから。」
「そうかい?それならいいんだけどね。そのほうがおもし・・。いやなんでもない、まあ頑張ってくれ。」
本当にこの悪魔はなんなんだろうか、悪魔と思えないくらいとても親切だし聞いたら大体教えてくれる。
空気を読めないところはあるがそこも愛嬌であるよう思ってしまう。
だからこそ、とても不気味なのだ。どうしてこんなに親切にしてくれるのか不思議でしょうがないだから真っ向から聞いてみる。
「どうしてルージュさんはそんなに親切にしてくれるんですか?」
「悪魔が親切なんて面白い事言うね。でもその考えは間違ってもいないね。」
「どういうことですか?」
「そもそも悪魔なんて言われているけど、絶対の悪なんて存在しないって事。善悪なんて相対的なものなんだよ。いいかい、僕のクソ上司が関わっているアダムとイブの楽園追放にしたってそうさ、一方から見れば悪魔にそそのかされて永遠の楽園から追放されてそれは罪悪だって思う人もいる、でも逆に悪魔に知恵の実を食べることを勧められて知恵を得られたから、楽園の檻から解放されて今の人類の発展があるって考える人もいる、要するに人によるってこと、で君は今の立場だから親切に思ってしまっているってだけだと思うよ。」
「そうなんですかねぇ。」
僕はなにか腑に落ちないものを感じる、だが何となく気が抜けてしまい続けて聞く気が失せてしまう。
「さて、それじゃあ用事も終わったし、私は帰るとするよ。」
「ちょっと待ってください。」
「何かな、まだ聞きたい事でもあるのかい?」
「ホントに・・この呪いは解けないですか?」
「私は呪いに関しては全く専門外だからね、よくわからないっていうのが本音かな?」
「じゃ、じゃあ呪いを軽くするとかあまり起こらないようにするとかは・・・。」
「それに関しても僕にはさっぱりだね。」
「そう・・ですか。」
「まあそんなに落ち込まずに、いままでので傾向と対策は練れるだろう?なんとかなるんじゃないかい、そんなこんなしてれば自然に解けてるんじゃないかな。」
「・・・・・。」
「じゃあ私は忙しいからこれで帰るよ、それじゃあね。」
楽観的で空気の読めない悪魔はそのまま扉をあけて出ていく、今僕が扉を開けて出て行ってもどうせそこにはもういないだろう。
僕は加藤さんのあの時の光景が唐突にフラッシュバックして、慌ててトイレに駆け込み何も残っていない胃の中身を便器の中に吐き出す。
肉体的に死んでいないと聞かされても、魂がなくもう目覚めないと聞けばつまりは僕の罪だ、再び吐きそうになるが胃の中からは何も出てこなかった。
それから僕はそのまま布団に横になり、体中は疲労でぐったりしているのに目は冴えたままで寝ることができなかった。
宮園さんに連絡しないといけない、加藤さんのことを見ていたらしいのでうまい言い訳をしなければならないだから宮園さんとまた会う約束をしなければ。
そんな風に考えながらいつの間にか僕はウトウトしていた。
僕は明日はもっといい日になってほしいそう願いながら眠りに落ちていった。
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