第7話 公園と新たな困難

僕は宮園さんとの約束の通り、近所の公園に来ていた。


この公園は昔からよく来ていた公園で、池があり程よく木も植樹されていて広さも十分にあるために森林浴やランニングする人が多く、住民の憩いの場になっている。


しかし今いる場所にはひと気はほとんどない、面積が大きいため中心になるところ以外は平日の夕方ぐらいにはそこまで人が来るところでない。そのせいでカップルや仕事に疲れたサラリーマンがいたり、犯罪が起こったりすることもあるが、今は別の話だ。


僕は今公園の端の方の奥まったところにある、人があまり来ない記念碑がある広場のベンチに一人で座っていた。

約束の時間まではまだかなり時間があるが、緊張で足が震えて体に力が入らずもうどうしようもないので早めに出てここに座っているのだけど、さっきから手汗と貧乏ゆすりが止まらない、こんな臆病な自分に自分自身、腹が立ってしょうがない。


「あ!山本君もう来てたんだ、早いね。」


僕がハッとして素早く声のした方を見ると、制服姿の宮園さんが立っていた。

宮園さんはとても綺麗だと今でもそう思う、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる体形、目鼻立ちは整っており顔も小さくショートカットの髪型もとても似合っている姿はいつみても見とれそうになる。

しかし、病院での表情を見てしまった僕は何か不気味なものを感じてしまう、僕とは何か違うようなそんな感じなのだけど、うまく表現できないもどかしさがある。


「うん、ちょっと早めに来てたんだ・・。」

「そうなんだぁ。私遅れてきたかと思って焦っちゃた。」

「そんなことないよ、僕が早すぎただけだし・・・。」


それだけで話が止まってしまう、別れ話を持ち出そうと思うのだが言葉は重い鉛になったように喉から先に出てこない。

気まずい空気が流れる中、彼女が話し始める。


「ねぇ山本君ってさ、最近なんか変わったことなかった。」

「へ?か、変わったことって、な、なんで?」

「クラスのみんなが話してたの、山本君って最近かわいいとかほっとけないとか、そういうことをみんな言ってるものだから。」

「そ、そ~なんだへぇ~、だ、だけど僕は特に変わってないかなぁ・・・。」

「ふーんそうなんだ。でも私も前と変わったと思うんだけどなぁ。」


そんな風に怪しむような、こちらをバカにするようなそんな無遠慮な視線を彼女は送ってくる。

僕は先ほどから冷汗が止まらない、ここはなんと言い訳すべきだろうか?

神様の祝福のことを説明すべきだろうか?いやそんなことを説明しても信じてもらえるわけがない、だけどいい言い訳も思いつかない。

だから僕は逃げ道を作るために話を逸らすことにした。


「えっと、宮園さん?」

「何?」

「あの、この前のデートのことだけど・・・・、あの時ひどいことしてゴメン。」

「ああ、あのこと?全然気にしてないから大丈夫。」

「ほん・・とに?」

「うん。」


そうして彼女の表情を覗くと笑顔が浮かんでいて、僕は心底安堵する。

だけど本番はこれからなのだ、僕は気を引き締める。


「それで今日なんだけど・・。」


話を切り出そうとしたところ、彼女が割り込むように話を始める。


「待って、私からちょっと聞いてもいい?」

「えっと・・、なに?」

「別にデートの時のことは怒ってないんだけど、どうしてああいうことしたのかなぁと不思議に思ったの。」

「それは・・・あの・・・緊張してというか、混乱してというか・・・。」

「そうなんだ・・・。ああいうことはあまりしない方がいいと思うよ。」

「はい、反省しています。」


僕は先ほどから手汗を書きっぱなしで、声も震えている。


「あ、ゴメンなんか今日は話があるんだったよね。」

「うん、それで・・えっと・・僕たちの事なんだけど・・・。僕とその・・わかれ・・。」


そこまで言った僕は怖気のようなものを感じ、彼女の表情を覗く


そこには感情が抜けきった能面のような、笑顔という表情の仮面を被っているかのような彼女の姿があった。


それを見てしまった僕は、もうなんていえばいいのかわからなくなってしまった。


僕としては永遠と思えるような時間、でも実際は1、2分といったところだろうが、そうしたところで突然僕を呼ぶ女の人の声が近くからしているのに気づく。


「お~い、山本!!おい無視してんじゃねぇよ!!」


気を取り直した僕はあわてて声の方を向く。

そこには三人組で全員マニキュアを塗り、髪を茶に染めて派手な髪留めを使っており制服は着崩している派手な僕と同じ高校だと思われる女の子たちがいた。


その中で真ん中の女の子がほかの二人に対して、ごめぇん用事出来たから先帰っててと言って他の二人はその真ん中の彼女を冷やかしてからそのまま帰っていく。


「山本、久しぶりじゃん元気してた?あ、もしかして隣のひと彼女?へぇ~あんたもやるじゃん、何の特徴もない地味男のあんたがねぇ~。」


と一人でまくし立てている女性が一人いる、僕は若干呆然としながらも頭をフル回転させて名前を思い出そうとする、だがなかなか出てこない喉までは出かかっているがそこから思い出せない。

というのも彼女はけばけばしいメイクをし髪はサイドテールで茶髪、制服はだらしなく着こなしシャツもスカートから出しており、知り合いだとしてももはや誰かわからないぐらい様変わりしているからだ。


「この人って、山本君の知り合い?」

「うん、だと・・・思う。」

「はぁ?あんた人の顔も名前も覚えてないの?信じらんない。加藤よ!加藤愛莉!幼稚園も小学校も、今だって高校も一緒でしょうが。」

「ああ、加藤さんか、その、結構変わっているから気付かなかった。」

「マジでひどいわあんた、まぁあんたとはほぼ喋ったこともないから当然と言えば当然だけどね。」

「うん、ゴメン。」


そんな風に話していると宮園さんは、怪訝そうに僕と加藤さんのことを見ているのに気づいた。


「あの、加藤さん?僕に何か用事かなにかあるの?」

「用事がなきゃ知り合いに声かけちゃいけないのかよ。」

「いや、そうじゃないけど・・・。」

「それにしてもあんたら全然付き合ってるように見えないよねぇ、というか仲良さそうにさえみえないんだけど。」

「そんなことないよね、宮園さん?」

「ええ、私たち仲はそこそこいいと思うけど。」

「ふ~~ん。」


そんな風に怪しいと表情で言っている加藤さんを前に僕は困惑していた、たぶん祝福の影響だと思うけどどうしてこんなに厄介ごとに巻き込まれるんだろうと。


すると宮園さんの方から、携帯の着信音が突然鳴り響く。


「あ、ごめん山本君ちょっと家の用事が出来ちゃったみたい、先に帰るね。」

「え、そうなの。それじゃあその・・・近くまで送ろうか?」

「ううん、ちょっと早く帰らなくちゃいけないから今度お願いするね。」

「そっか、それじゃあまた明日ね。」

「うん、また明日ね。」


そう言って宮園さんは僕の方に可愛らしく手をふり、加藤さんに一礼だけしてその場を立ち去って行った。

僕は少しだけほっとしていた、ただの先延ばしに過ぎないけど別れ話をせずに済み彼女と険悪な状態にならなくて良かったと体の力が抜けていた。


「ふ~んあんたも苦労してんのね、あんな手ごわそうな女が彼女なんて疲れるでしょ?」


そういって自然に彼女は僕の隣のすぐ近くに座ってくる。


「いや、そんなことないけど。」

「そう?でもあんたたちさっきから遠くで見てたけどカップルに見えなかったわよ。親に怒られている子供って感じ。」

「それは・・・。」


僕は何も言うことができない、僕も彼女と僕の関係は似たような感じに考えていたからかもしれない。

でも彼女と僕は付き合いも短いし、話もほとんどしたことがないので当然だとも思っている。



ねぇと呟くようにそういいながら加藤さんは突然、僕の手に手を絡めて来る。

僕は頭が真っ白になり呪いのことをとっさのことで忘れてしまっていた。


「私と付き合ってみない、今の彼女より楽しいと思うよ。」


彼女の囁きは甘く、悪魔のように恐ろしいものだった。

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