第3話 説明と絶望

僕が目を覚ますとそこは知らない天井だった。


周りを見渡すとベットが数台あり、一つは使用中なようだが人はどこかに行ってしまっている、他は使われず無人になっている。そんな事を見ながらここが病院であろうことに気が付く。


気付いた瞬間、体中が針に刺されたように痛む。

よくよく見てみると頭には包帯、腕などにも包帯が巻いてあることに気付くしかし骨などは折れていないことに安どの吐息をする。


そして目覚める前の事を思い出す、僕はなぜか咄嗟に女の人をかばって階段から転げ落ちてしまったのだ。


そのことを思い出して、サッと血の気が引いていくのを感じる。

そうだ僕は気絶する直前に爆発の呪いが発動するのを聞いている、あの後どうなったかは分からないがあのままだったとするとあの女の人が爆発の呪いに巻き込まれてしまった可能性は高い。


なんで僕はあの時あんなことをしてしまったのだろうか、僕はいつもこういった目立つ行為や、助けるみたいなことはあまりやらず生きてきたっていうのに・・・。


そんなことを考えていると病室のスライド式のドアが開き、スーツ姿の女性が入ってくる。


「あ!やっと目を覚ました!ほんとに心配したんだからね、会社に突然電話があって息子さんが大けがしたなんていうからすっごい焦ってきたのよ。でも・・よかったわぁ無事で。」


なにを隠そうこの涙目になりそうになってる女性が、僕の母親だ。

両親ともに共働きであるためあまり家にはいないが何かあったらすぐに駆け付けてくれる。

なんだかんだ良い母親だと思う。


「ごめん、母さん。」

「うん、無事でよかったわ。昔からよくボッーとしてるって言われてたんだから気をつけなさいよ。」

「そうだね、次からは気を付けるよ。」


こうして話していて、重要なことを聞いていないことに気付く。


「ね、ねぇ母さん、僕の近くに大けがした人がいたかきいてない?」

「えぇ?そんな人いるなんて聞いてないけど?」


よかった、僕の呪いに巻き込まれて爆発した人はいなかったようだ。


「というか、あんたどうして階段から落ちたのよ?」

「いやそりゃ、女の人が階段から落ちそうになったのを助けるためだよ。」

「あんたねぇ、階段から落ちた人なんかあんたしかいないのに、どこからその女の人が出てくるのよ。」


母さんは何を言ってるんだ、僕は確かに女の人を助けるために手を伸ばし、体勢を崩して落ちたのだ、女の人がいなかったなんてことは絶対にない、だけど嫌な予感だけはつのっていく。


「そんなはずないよ!確かに女の人がいたんだよ!」

「そんなこと言ってもねぇ、別に信じないわけじゃないけどあんたが階段から落ちたのを目撃して、救急車を呼んでくれた女の子もあんたが一人で落ちてきたって言ってたみたいだし。それにあんたと一緒に搬送された人がいるなんて聞いてないわよ。」

「そ、そんな、でもほんとに・・・。」


僕はなんとなく事態が最悪であることを察した、でもそんなのありえないしあんまりだ。


「それでなんだけどハルくん、お母さんどうしても会社の仕事でこれからまた行かなきゃいけないのよ。一応お父さんがこれから来るとは思うけどそれまでおとなしくちゃんと寝てるのよ、ホントにごめんね!!」


そうして母さんはいそいそと病室を出ていく、母親ならもっとちゃんと一緒にいてよと思う所だが今はそんなことどうでもよかった。

自分の最悪の想像があっていれば、僕は取り返しのつかないことをしてしまったことは確実だ。


どうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたらどうしたら


「やあ、なんかとてもお困りみたいだね。」


視線を窓の方に向けると、そこにはまるで存在感がなく、まるで人形が動いているかのようにみえる少女、悪魔のルージュが立っていた。


「ル、ルージュさん?」

「やあ昨日ぶりだね、元気だったかい。っとまあ今の君の状態をみれば元気じゃないことぐらい一目瞭然か。」

「はい・・・。」


僕は聞かなければいけない、僕のやってしまった過ちについてほんとにそうなのか。もしかしたらただの勘違いという可能性もある、だから、だから聞かなければならない。

しかしどうしても最初の一言が喉から出てこない。


「・・・・。」

「ふむ、君は何か聞きたいことがあるようだね、だけどそれを聞いてしまってよいか悩んでるといった感じか。」

「・・・・。」

「まあそうだろうね、誰だって聞きたくても聞けないことはあるものさ、だからまあ気にすることでもないと思うよ。」

「・・・・・。」

「とは言っても私も暇なわけじゃない、だから早く聞いてくれると助かるね。」


そうして少しづつ、僕はルージュさんに今日あったことのあらましを話した。


「ふむ、なるほどね。で君が起きたらその女性がいないといわれたと。」

「そうなんです、ありえないですよねこんな事何かの間違いですよね。」


そう、女性が一人突然いなくなるなんてことはありえない。


「いや、それは全部事実だよ、はっきりいえば君の呪いのせいだね。」

「そんな、だってこの呪いは相手を爆発させる能力だっていってませんでした?」

「ああ、確かに相手を爆破する呪いだけど、熱や炎を出して爆破するのとはわけが違う。この呪いは異次元とこの次元を無理やりにつなぐことによる、次元の差異を利用した爆発なんだ。」

「つ、つまりどういうことなんですか?」

「まあつまり、無理やりに触れた部分を別次元に移動させるみたいなことだね。だから最後に君が触った女の人も別次元に移動させられたことになる。」

「でも、どうしてそれで女の人が最初からいなかったことになるんですか?


もしルージュさんの言っていることがすべて事実だとしても、みんなが忘れていることの理由にはならない。


「ああ、それは爆発の現象とは関係なく、呪いの副次的効果の爆破による相手の魂の損耗の結果、対象の存在が希薄化してしまったからだろうね。それは呪いの効果が大きければ大きいほど存在感が希薄になったしまうんだよ。」

「つまり爆発すると、体だけじゃなくて魂までなくなってしまうってことなんですか!?」

「まあそういうことだね。」


最悪だ、相手の体だけじゃなく他の人の全てを奪ってしまえる存在に、一種の災害になってしまったことに体の底から悪寒と吐き気がこみあげてくる。

どうして僕はこんな体になってしまったのか、誰のせいか、いやそんなこと考えるまでもない目の前の悪魔のせいだ僕は体を無理やり動かしながら彼女を睨み付ける。


「いや~そんなに睨まないでくれよ、私だって君に呪いなんかかけたいわけじゃないしね。呪いをかけたのはうちの上司でその尻拭いで、いまこうやって懇切丁寧に君に説明させられているわけだしね。」

「あ、あんたが来なければこんなことにならなかったんだ!!」

「まあ、今何を言っても無意味だろうからね、それじゃあ今日は帰るよ。お大事にね。」


彼女は肩をすくめながらやれやれといった感じで病室から出ていく。

僕は体中痛いことを無視して立ち上がり、よろよろと歩きドアを開ける。


「待てッッッ!!」


ドアを開け周りを見渡すもルージュはすでにいなくなってしまっていた。

僕は気が抜けて床に座り込む、体中がいたい、いやそれよりもこれからの自分の人生に絶望する。

こんな呪いを受けてしまってはまともに生きていくことはできないだろう、誰と触れ合わずに生きていけばいいとは思うが、今はまだ普通に生きて生きたいと思う自分がいる。


「や、山本君!?大丈夫?どうして泣いてるの?」


僕はいつの間にか泣いていたらしい。

僕はゆっくり声のした方に目線を上げると、そこには心配そうにこちらを見ている宮園さんがいた。

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