英語2
「先輩」
聞き慣れた、優しい声が聞こえてくる。
「起きてください、先輩」
良い声だ。声はともかく、自分は目覚めたくない。いやいやと首を振ると、耳元に生温かい風が吹く。
「先輩。起きないと課題、終わりませんよ?」
言葉の内容と行為に、思わず飛び起きた。耳の中がくすぐったい。変な気分だ。開いた目が捉えたのは、平然とした顔で目の前にいる小林くん。
「えっ、今の、何」
「囁き、ですかね」
彼は、私から見て真正面の方のコタツへと足を入れて腰を下ろした。テーブルの上には、途中で買ったのだろう、ココアの缶が置かれる。いいな。でも今温かいものを飲んだら絶対寝ちゃう……違う!!
「なっ! なんで、小林くんが私の家にいるの!?」
こんな深夜に。誰もが寝静まる深夜なのに。
「先輩が課題終わらないの分かってたんで、先輩のお母様に頼んで鍵を拝借してました」
「お母さん……」
嬉しいような気持ちと、果たしてそれで良いのだろうかという想いが葛藤する。とはいえ。
「小林くんが来てくれれば、もう課題は終わったも間違いなしだね!」
1人よりも2人。面と向かって彼と話しながら課題するのは、とても課題と向き合いやすい。特に、程よいプレッシャーをかけられる辺りがとても良い。
「すげぇ白紙じゃないですか」
広かった数学のプリントを見て、彼は理解出来そうにないという拒絶の表情を浮かべている。
「今は英語タイムだから!」
「どうせこの後やるんですよ……」
「英語! やります!!」
言い返す言葉もなく、私はただ決意を新たにした。目覚め方に問題があったが、少し寝たおかげで意識もスッキリしたような気がする。
再度ペンを手に取り、英語のワークと睨み合う。彼はというと、数学のプリントをじっと見つめていた。一応は後輩なので習っていない範囲だと思うのだが、彼には出来てしまうのだろうか。手伝ってくれることは期待していないが、自らの後輩が優秀なのは誇らしい。
「こっち見てないで、課題と向き合ってください」
「あれっ、見てた?」
「見てましたよ。ほら、早く自分の犯した過ちと向き合ってくださーい」
言い方を変えるだけで、なんだか悪者のような扱いだ。彼にとっては悪者なのだろうが、そんなに重罪を犯しているつもりもなくなんとなく悲しくなってしまう。
「反論が少なくなって来たので、来た甲斐がありました。多分終わりますよ。がんばりましょう」
「小林くん……!」
「感動しない、手を動かす」
「はい!」
こういうところがあるから、彼を頼らずに課題を終わらせられないのだろう。依存、とまではいかないだろうが、やはり自分でもどうかとは思った。
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