7.さあドリップしよう

 サーバーを温めていたお湯を捨てる

 そうそう、言い忘れていたけれど、台所のステンレスのシステムキッチンなんかでドリップするなら鍋敷きでも敷いて熱が逃げないようにしておいた方がいいかもね


 サーバーの上にドリッパーを載せる

 ポットのお湯はだいだい85度


 ポットを利き腕で持って脇を締める

 ドリッパーの中心にポタポタポタと、数滴お湯を垂らす

 小さく「の」の字を書くような感じで中心から外側へ、垂らしていく

 肘や手首も構えた姿勢で固定して、身体全体で「の」の字を描くイメージ

 注いだところから泡が出てくるから、その泡の円周に沿って外側に広げていく感じ

 なんだか武道の「型」みたいだけれど、冗談とかではなく手首や腕でポットを動かそうとすると、どうしても中のお湯が揺れて波打つから一定の量ずつポタポタではなく、突然ドバっと出てしまったりするわけだ

 ドリッパーに広げられた粉の直径の半分ちょっとまでポタポタしたら一度止める


 いわゆる「蒸らし」ってヤツだ

 台形なり円錐形なりの中心から外側にお湯が染みていって、挽かれた豆が水分を吸って成分が出やすくなっていく


 古くなって湿気った豆だとここで水分を吸わずにお湯が粉の隙間からサーバーへ滑り落ちていってしまう

 鮮度の良い豆なら、お湯を垂らしたところから細かい泡が出てくるはずだ

 この泡は焙煎直後に出ていた二酸化炭素ガスがまだ豆の内部に残っていたものなのだそうだ


 もしもカニがブクブク吹くような大きな泡っぽいのが出てきたら、それはお湯がまだちょっと熱すぎたってことだ


 逆に泡っぽくはなるけれど盛り上がってくるほどでもないなら、今度はお湯がぬるすぎたか豆の鮮度が落ちているか、だ

 この場合はポットを一度火にかけて少しお湯の温度をあげよう


 蒸らすこと30秒くらい

 再び中心から「の」の字を描くようにポタポタとお湯を垂らしていく


 あ、今はひとりかふたり分をドリップしているイメージで説明している

 4人分くらいを一度にいれるなら(大抵のドリッパーは1〜2人用と3〜人用の2種類の大きさを売ってる)ここからはもう少しダイナミックでいい



 ドリップしていると肌理の粗い泡で表面が盛り上がってくる

 その出てきた泡の外周をなぞるように外側へお湯を注ぐ

 ポタポタまたは細くツーッという感じで少しずつ

 ドリッパーの外周に近くなったらまた逆に中心に戻っていき、中心まで来たらまた外周へと「の」の字を描くように繰り返す

 ここでのポイントはフィルターの紙に直接お湯をかけてしまわないことと、全体に泡でもって盛り上がってきているはずだから、泡がドリッパーの縁から溢れてしまわないようにコントロールすること



 とある店主はドリップ時間は3分と言っていた

 それ以下だと旨味のすべてを引き出しきれないし、それ以上だと雑味が出てきてしまう、と


 別な店主は言っていた

 そんな「の」の字にポタポタなんてしなくていいよと

 紙にかけちゃうのはまずいけど(お湯の浸透具合が均質でなくなっちゃう)温度管理さえできていればある程度雑にかけまわしても大丈夫、と


 どっちも自分が焙煎した豆の性質を最大限に引き出すために試行錯誤した結果なのだろう、どっちが正解でもあり、あらゆる豆に対して100%の正解はたぶんない、ドリップに関しては



 で、ドリップしながらサーバーに落ちていくコーヒーの色に注目だ

 最初は濃い茶色

 それがだんだん薄くなってオレンジがかってくる

 ここからが見極めどころ

 黄色くなってきたらもうストップだ

 慣れてきたら、黄色くなりかける直前、薄いオレンジあたりで寸止めしたい

 この先落ちてくるのは出がらしの味が前面に出てくる


 一度試してみるといい

 コーヒーカップでもマグカップでももうひとつ用意して、黄色くなりかけた後のだけをそっちに落として飲んでみる

 一見コーヒーっぽい色をしているけれど、飲み比べてみると味は「ザ・出がらし」ってわかるはずだ


 ちなみに私の場合、ひとり分でマグカップに直接ドリップするのだけれど、それにかかる時間は蒸らしのあとは1分から1分半

 あともう少し時間をかけたいところだ

 なんとなく美味しさを100%引き出しきれていない感じがいつもしている



 そうそう書き忘れていたけれど、私はこの黄色くなった後まだちょっとポタポタ落ちてくるのをまとめて捨てるために要らないカップ(食べ終えたプリンのカップだけど)を用意してドリッパーをそちらに載せ替えている

 出がらしの味見は一回で充分だったし、普段使いのマグカップをわざわざ使って洗い物を増やしたくもないから


 ブクブク出てきた泡はアクだと言われているけれど、参考書として持ち出した『コーヒー「こつ」の科学』の石脇氏によると、泡の部分だけすくい取って混ぜたコーヒーと混ぜてないのを飲み比べたけれど、味の違いは感じなかったから「アク」と呼ぶのは言い過ぎではないか、と書いていた

 だとしたら、お湯を注ぐ寸止めのタイミングを会得したら要らないカップなど用意せずに最後までドリップしてもいいのかもしれない


 私はいまだ毎回ブレるので(気温、お湯の温度、豆の鮮度いろいろ要素は絡まってくるから、と言い訳しておく)落ちてくるコーヒーの色を見て抽出を止めるタイミングを見ている


 で、だ

 ドリップを止めたのはいいけれど、必要な量に足りない場合(たいてい足りなくなっているはずだ)はどうするか

 私が教えてもらった回答は、「お湯で割る」だ


 この状態でドリップを終えると、サーバーにたまっているのはけっこう濃いコーヒーなのだ

 これを今の今までドリップに使っていたお湯で必要な量まで薄める


 まさにコロンブスの卵!

 必要な量まで抽出しようとしてドリップしても、後半は出がらしの味ばかりが出て美味しくないコーヒーになってしまう

 ならば美味しいところで止めておいて、それをプレーンなお湯で割ってしまえばいい


 プロならこんなことをする必要はないだろう

 自分が焙煎した豆の性質を知り抜き、同じ場所で日に何十回何百回とドリップしているのだから、適切な量やタイミングは体得しているはずだ

 でも一日一杯かせいぜい二杯をドリップする程度の素人が何ヶ月も何年もかけても、室温や豆のコンディションはいつも違っているのだから、なかなか上手くは見極められないだろう

 少なくとも私はできていない


 この「お湯で割る」の利点はもうひとつあって、何人かで飲む時に濃さを変えられるということだ

 年配の人や飲みなれていない人には薄めにしたり、カフェオレみたいに飲みたい人には濃いままのコーヒーを少しだけマグカップなりカフェオレボウルに入れてミルク(気取ってみたけどつまり牛乳)をたくさん入れたり


 私は深煎り豆のコーヒーは少しぬるめの方が味がよくわかると思う

 ドリップが終わったら、温めておいたカップにそのまま入れると私にはちょうどいい温度に感じるけれど、ぬるいと思う人はサーバーをちょっとだけ火にかけてからカップに移せばいい



 ドリップの技術は味の一割程度

 お湯が熱すぎたり、ぬるすぎたり、ドバドバ一気にお湯を注いだり、勢い余ってフィルターの紙に直接お湯がかかったり、あともったいないと思って出がらしの味しかしない最後の最後までドリップしようとしない限り、豆選びさえ間違えなければ、今までとはひと味もふた味も違う美味しいコーヒーが家でも飲めるはずだ



 と、ここまで書いてきて「きっとネットに動画あるじゃん?」と思って見てみた

 いくつか見たけど、私のやり方と大きく違うのは3点


 ・最初にフィルターをぬらさない

 ・蒸らしの時点で結構たくさんお湯を注いでいる

 ・落ちてくるコーヒーの色を視認することなくけっこうドバドバとお湯を2回にわけて注いで目標の量になったらドリッパーを外す


 一般的に言われているのは動画の通り

 たいていのコーヒーの本にもだいたい同じようないれ方で説明されている


 でも、「ポタポタなんてやらなくていいよ」って言った店主でももう少しこまめに繊細にお湯を注いでいる

 そももそ、動画のやりかたなら1万円もするようなポットを用意する必要はない


 かけられるお金と出来上がりの妥協点をどこに置くか、だけれどそこそこ先の尖ったポットでネット動画にあるよりはゆっくり繊細にあたりが落としどこかな?

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