俺様勇者様のお付き人

めるしー。

第1話 勇者召喚の報

「いたぞぉ!アベルだ!ぶっ殺せェ!」


裏切り者の中隊長が隊員に怒鳴り声で指示を下す。

風を切って飛来する矢を剣で叩き落す。


「ハッ!所詮は地方の弱兵かっ!お前らァッ!不埒な反逆者共に洗礼をくれてやれっ!」

「「応ッ!」」


狗達が鬨の声をあげて突進する。突進した兵士達は颯爽と駆け抜けていく。裏切り者達の首をはねながらである。狗が刃を振るうたびに血飛沫と首が空へと舞い上がる。

40人ちょっといた反逆者は忽ち4,5人まで減っていった。


「ヒィッ!降参だ!降参するっ!だから命だけはァー」


降参の声は言いかけた途中で無慈悲な一撃に沈黙させられた。


「選べ。自害するか、殺されるかを。」


アベルの隣にいた男が侮蔑の目で生き残った者たちに言った。

心が折れたのであろうか。敵は座り込んで、そして自ら首をはねていった。


「若!敵は全滅しました!これで掃討は終了です。」

「良くやった、アドルフ。」

「はっ!ありがたき幸せ。」

「諸君、帰投するぞっ!」

「「応!」」



屋敷の前に、完全装備のずんぐりむっくりとした男が立っている。


「誰だっ!」


アドルフが剣の塚に手をかけて威圧する。


「おお、若でしたか。お久しゅう」


男は北方区長のルドルフであった。


「おお!ルドルフか久しいな!今日はどうした」

「いえ、ちょいと王都の方で勇者召喚に成功したと聞きやしてね、そいで頭に呼ばれまして緊急の幹部会ですよ。」

「そうかそうか。それはご苦労だな。その方は俺も知らなかったぞ」

「そりゃあ、私もさっきまでしりやせんでしたからね。うちから逃亡者が出たのでね、そいで別邸にいやしたから駆けつけれただけですよ。他はあと2,3日はかかるでしょうねぇ。」

「ああ、そいつはいいのか悪いのかだったな。んじゃあ、まだゆっくり休めや。」

「へい、若!」


ルドルフが数人の部下と去っていった。アベルはアドルフに小声で話しかけた。


「アドルフ、後で影を回せ。親父には俺から言っておく。」

「はっ!」


アドルフは大抵のことはわかる男である。



部屋で休んでいると、コンコンとノックする音が聞こえた。一泊して失礼します、という声が聞こえた。親父の秘書のブリュノだ。


「どうした。」

「幹部会でございます。若、御準備を。」


ブリュノは昔からこの家に使えている男だった。見た目は痩身で、いかにも不健康な文官みたいな男のであるが、親父が勢力を広げる前から護衛についていたらしく、今でも影の次官の役職に付いている。今は次官といっても親父の秘書であり、影を率いて戦うことはまずない。偶に教育係はしているらしいが。


「ブリュノ、お前一人か?」

「ええ、そうでございますが。」

「そうか、じゃあこれが終わったら親父にルドルフが来ていたが、唾をつけて帰らせた、と言っといてくれ。」

「はっ」


会議室の扉は開いていた。中で8人の男が椅子に腰掛けている。


「アベル様をお連れいたしました。」

「来たか」

「おう!遅れたみたいですまねぇ」

「ああ」


手前にあった椅子に腰掛ける。そこから少しの間沈黙が舞い降りる。いつもこうだ。


「勇者が召喚されたらしいねぇ」


大将の一人、バルサスである。この男は非常に若く、まだ20手前であったが、次代を率いる者の一人として大将に抜擢された男だった。軽薄そうに見えるし、実際そうではあるが、戦いぶりなどは慎重で手堅く、大きな負けはしたことのない男である。


「これは参りましたな…」


バルサスの向かいに座っていたラザロである。この男も四人の大将のうちの一人で、見た目は好々爺であるが、奇襲のラザロと呼ばれ、夜戦などにかけては最強の男である。

ラザロの言うことももっともなことであった。勇者召喚、ということは、世の害悪を一層する、という国の意思である。つまり、自分たちの拠点にしているスラムはもとより、組織自体の取り締まりがある可能性を示唆していた。


「では、人員拡張と武力増強でもやっちゃう?」

「いや、それはならん。証拠を隠し、やり過ごすべきだ」


バルサスに反論したのはグロウスである。この男は大将の一人ながら文官肌の男で、直接隊士を指揮することはなく、本部における参謀の役割を果たす男であった。


「いや、やりすごせば地方への睨みがきかんようになる。ここは一戦交えるべし」


直轄軍「狗」の将軍、ドレイクである。この男は猛将で、かつて、帝国軍2000がはった伏兵をわずか100人で突き破った男である。


「然り、最悪、城下で叩いてしまえばよい。」

「うむ。」


発言したのはブラックである。この男こそ一門最強の将軍であり、南部、西部を鎮圧した男である。また、帝都一の色男とも呼ばれ、常に戦場では女を侍らせて兵士を指揮する男だった。

そして、それに賛同したのは暗殺者集団「影」の長官レイである。元々帝国の情報部部長であったが、帝国の弱体化に呆れ、私兵集団を作って兼ねてより親交のあったボルスに使えたのである。


「ほぅ、割れたな。」


男が 静かに言った言った瞬間、幹部たちは一斉に背筋を糺した。一番の上座に座っている男、この男が、ブラッケ一門のボス、ボルス・ブラッケである。

帝国の裏社会のドンであり、かつ、帝都議員である。

ボルスが続ける。


「では、一戦交えるかどうかについて多数決を取っておこうか。賛成は…バルサス、ドレイク、レイ、ブラック、アベル、それにクーリッドか。ふむ、まあいい。では一撃見舞うとしよう。グロウス、構わんか?」

「殿のためならば。」

「うむ、では解散とする」

「「はっ!全ては一門のために」」


全幹部が唱える。これは幹部会では絶対に行われることであった。


「殿」

「ブリュノか」

「はっ。若からの伝言がありましてな」

「ほう」

「ルドルフが来ていた、と。」

「うん?それは、、」

「若は、影を一人回しておいた、と。」

「ハッ!中々やりおるわ。」

「ですな」

「だか、惜しいな。儂なら一小隊つけるな」

「ではその様に…」


そう言って静かに退出しようとするブリュノを慌ててボルスは止めた。


「待て待て、一度アベルのやりたいようにやらしてみろ。」


ブリュノは静かに答える。


「仰せのままに。」

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