7th Day : 1217 "RULE OF A SELFISH GUYS"

#82 Sad Tomorrow(哀しき翌日)

 断続的に襲ってくる頭痛のせいで睡眠状態から不本意ながらも再起動を果たす。

 未練がましさのまま、引き摺るみたいにのそりと起き上がり、外気の寒さに染まった吹き上げる様な冷たい空気に身震いを一つ。


 遅れて不愉快な痒みのある髪の毛を反射的に触れば、染み出した汗とワックスとでバリバリである。

 なんとも不衛生で不快な感触が後味悪く、じめりと粘る様に指先に残った。


 消化しきれない曖昧に痛む頭と眠たい目のままベッドの縁に腰掛けて、意識無く薄ぼんやりと――馴染み深い自室を見渡す。徐々に光を取り戻した瞳に入る情景。


 本来そんなに几帳面かつ神経質では無い性格の為か。

 日頃から整理整頓されているとはお世辞にも言えない見慣れたマイルーム――それでも普段とはかけ離れた様相の部屋。救いようの無い荒れ地が更に荒れ果てている。


 地味なアーガイル柄のやっすいカーテンの隙間から差し込む無慈悲な陽光。


 冬の太陽が示すなだらかな日差しを吸収。少しずつ目が慣れて、同様に思考が段々と定まってくる。


 通常通り投げ捨てられた服や読み終えて散乱した雑誌類に加えて床に転がるのは、潰れた空き缶や空き瓶。中途半端に開封されたインスタントなつまみ類。


 無数のCDと文庫本が積まれたテーブルの上には飲みかけの缶ビールと空き缶に突き刺さった短いタバコの吸い殻が散乱していた。


 インスタントな快楽を齎す紫煙の副作用か、平時よりもっぽい声音で呟く。誰にも聞かれないから、好き勝手に。


「ああ…もう。いつぶりだ? 二年、いや――三年振りくらいかな……」


 灰色ながらも個人的には満たされた高校生活の中でいつからか格好付けの為に吸い始め、インディー契約の際に禁煙して距離を置いた合法的な麻薬。


 気持ち的には本当に久しぶりだったけど、かつて好んだはずの風味や心地良い酩酊は不思議と欠片も感じ無かった。

 今になって分かる『それ』は胸の空白を紫煙で埋めた気になるだけの無意味な自傷行為だ。


 多少なりとも大人になり、そこまで自覚した上で――昨夜の出来事を思い出しながら――再び煙草に火を点ける。大きく吸って、吐き出す。

 すると、薄暗い部屋の中に甘い匂いと紫煙がぼんやりと広がった。


 こうして僕は今一度、自身の遭遇した失恋直後に回帰する。

 思い出したくもない記憶は大抵不意にフラッシュバックするものだと相場は決まっているが、敢えて巻き戻す。

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