#81 Loop The Loop(繰り返して繰り返す)
今尚拭い切れずに頭にしつこくこびりついて。
延々と切り裂いて責め立てるみたいに反響して、残響を残してループし続けるのは数分前に放たれた言葉。
一撃で穿つ凶器の様に鋭くて頑強なそれは麗しい女性の魅力的な唇を震わした感情の発露。その結果。
『ごめんなさい』
単純明快、極めて明瞭な拒否に当てられて、エコーとファズでラッピングされた脳内は前後不覚で、本来あるべき秩序と統制を完全に彼方へと失っている。
正しい意味で心神喪失の脳味噌の下したあやふやな命令に従って夢遊病の様な怠慢さで電話を掛ける。相手は電波を通じて直近で話した女性。
『もしもしですです…
「あぁ…あ〜もしもし…。その
発した声が意識との釣り合いを失っている感覚。
今喋っているのは誰だ? 僕は何を口走っている?
業務連絡を生産する機械みたいにオートマチックな動作で口が開いて、淡々と喋って。
らしくもない口調で経過を述べていく。
「今彼女の家を出たとこ。当初の予定通り謝罪して説明して…不意に話の流れで…その、不本意な形で告白をした」
電話の向こうからは感嘆を含んだ黄色い声。今の僕には到底見えない幸福の色。見つけられない。
咳払いをひとつ零した彼女はふふんと鼻を鳴らして早口になる。
『なるほど…いやはや、その御礼の電話という訳ですね。いや〜本当に律儀というかなんというか……しかし、恋のキューピットと仲人を務めた私に御礼ということでしたらお気になさらずに。私は、いもうととして当然の事をしたまでですので。ねぇ…
何やらとんでもない勘違いをしているようで頓珍漢な発言が耳を滑る。訂正しなければ…。
「気が早いというか、気が違う…そう、君は違うんだ? 間違いなんだっ……」
『何がですか? どういった意味ですか?』
少し迂遠だっただろうか?
上手く伝わっていないので直接的な単語を選択。胸の引っ掻き傷が広がった。
「告白したけど、フラレた…」
『え? うそっ……あるれぇえええええぇぃうあああぁぁああああ????』
電話口から響いた義妹(偽)の絶叫は、面と向かって告げられた拒絶の言葉を塗り替えることは無かったし、決して脳内に定着すること無く右から左へ抜けて行ってしまった。
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