#67 Empty Handed(何も掴めない)

 彼曰く、無為で無価値であった過去を告白したギタリスト――そんなミニマリストを呆然と見送った僕はそれから数分間、季節通りに手早く沈む夕陽を適当に眺めた後に、それに同調する訳でもなくと帰宅した。


 手早く着替えを済ませて再び外出。練習スタジオ『ネメシス』へと自転車を走らせる。


 当初の集合時間に遅れること無く到着し、ファッション的アナーキストなベーシストに小言を言われることもなかった。

 ジュンは先程までの饒舌は鳴りを潜めて、僕の良く知るクールで物静かな様子であった。


 先日と違ってゲストもおらずメンバーだけが入室した狭い鏡張りの部屋でオリジナル楽曲を鳴らす。僕の作業が捗っていれば新曲についてもう少し時間を割けたのだろうが、思わしくない為全体のイメージだけを共有した。


 運命の奴隷の様に意思も感情もなく演奏していたつもりだったが、仲間から特に指摘を受ける事もなく終了時間を知らせるランプが光った。


 退室後、やけに呑みに行きたがるベーシストから逃げる様に帰宅して、いつもよりも多目に酒を飲んでから床についた。


 感情が尽く死滅したかと思う程になだらかに流れていく一日。


 これまで…現在に至るまで、僕はどんな思いで歌っていたのか、どのように音楽に接していたのか…思い出せなくなってしまった。

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