第58話 ギガ―ス族の秘密 Ⅱ
「じゃあ後は――?」
『どうした?』
「――お店の扉が開いたような気がして。まだ開店前ですよね?」
『いや、そろそろではないか? ……ともあれ、よろしく頼むぞミコト。我は念のため、この町に残る』
「一緒に来ないんですか?」
『ああ。日中に町が襲われるかもしれん。……カールヴィのやつも今ごろ逃げる算段をたてている頃だ、空になった役職は我が利用するさ。お前達は好きなだけガルムに集中してくれ』
「助かります」
俺が頭を下げた頃、店の扉からはギガ―スの銅間声が聞こえてくる。……食事をしに来たわけでもなし、退散するとしよう。
全員揃って外に出ると、待っていたのはグニヘリルとその部下だった。後ろには大型の竜車もある。これから、彼の地元へ向かおうというのだろう。
『ではまた後でな。吉報を期待している』
「はい。ロキさんの方も、注意してくださいね」
『はは、まだまだ我は現役だぞ? 狼ごときに遅れは取らん。――まあ残念なことに倒す自信もないがな!』
「こ、このタイミングで不安を煽るのは止めてくださいよ!」
まったく洒落にならん。見ろ、テューイが身体を震わせて怯えてるぞ。
もちろんロキは我関せず。呑気に笑いながら、港町の奥へと去っていった。
しかし。
『……』
彼は一歩進むたびに振り返って、心配そうな目つきでテューイのことを凝視している。
当人が鬱陶しそうな身振りをすると、ロキは嫌々ながら正面に向き直った。――が、直後に同じ動きが繰り返される。
「あ、あのロキさん、心配なら一緒についてきても……」
『いや、我が村に行けばパニックになるぞ。彼らはギガ―スなんぞ見慣れていないからな。……なのでテューイの独り立ちを見守るしかないのだ』
「な、なるほど」
『……』
口で言えても本心はまったく別らしく、ロキは進んでは戻りそうになって、を繰り返す。……テューイが向ける軽蔑の目は、次第に強くなっているのに。
「――ロキ、私は平気。いい加減信用して」
『し、信用はしている。ただ我は、お前が怪我をしないけど――』
「信用しろ」
最後には命令形となって、ついにロキが納得――もとい、項垂れた。
彼は肩を落としながら歩みを再開する。その途中でもテューイに目を向けていたが、足蹴にされるのが精々だった。
「……なあイダメア。ロキさん、死ななさそうだな。死んでも化けて出そうだな」
「私もそう思います。――では、先に屋敷へ戻っていますね。カールヴィさんのことで町も動くでしょうし」
「了解。……アントニウスさんが何かやりそうだったら、真っ先に教えてくれよ?」
「ち、父も今回は大人しくしてますって。多分……多分」
こちらも不安で一杯である。
俺とイダメアは互いに手を振り合って、それぞれに必要な場所を目指して行った。
隣には自然とテューイの姿が。――彼女にとってロキは特別な存在なのか、去っていく彼を心配そうな顔で見つめている。
「……どうしたの、ジロジロ見て」
「あ、ああ、悪い悪い。単に珍しいな、って思っただけだよ」
「昨日会ったばっかりで、珍しいも何もないと思うけど?」
「仰る通りで……」
でも、とテューイは一言挟む。竜車で待っているグニヘリルの元へ近付きながら。
「隠し事をしてて、ごめんなさい。これじゃあ貴方のことを言えない」
「なんでテューイが謝るんだよ。隠し事をしてたのはロキさんだし、別に迷惑だとは思ってないぞ?」
「そう言ってくれると助かる。……ところであの人、何か言ってなかった? 少し過保護なところがあるから」
「あー、言ってたことは言ってたかな。テューイが神器を嫌ってるとか、そのためにフェンリルと戦おうとしてるとか」
「何それ、勘違いもいいところ。……まあ王国が作ってる人造神器については、ちょっと複雑に思ってるけど」
「……」
理由を聞かないでいると、彼女は竜車の中に入ってしまった。グニヘリルへは挨拶らしい挨拶もない。
「あの、彼女を責めないでやってください。人と話すのが苦手みたいで」
「ええ、ええ、存じておりますとも。私どもが反感を抱くことは御座いませんので、どうぞご安心ください」
「あはは、どうもです」
俺も竜車へ乗り込む。中には戦う準備を終えた帝国兵が数名。お陰でテューイは緊張しきっており、こちらの隣で肩を寄せてきた。
――人付き合いが苦手でも、さびしがり屋だったりするんだろうか?
などと妄想しつつ、動き始めた風景に横目を向ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます