ご注文はうなぎですか?
「へいおまち!活きの良いハマチだよ」
「いや、あの。僕が頼んだのは鰻なんですが。あと、ここでピチピチと跳ねてるの。なんです?」
「ハマチだよ!」
「えぇ、知ってますとも。だってさっきあなた。言ってましたものね。でもね、そういうことじゃなくてですね。いくら活きの良いとは言えど。これは、やりすぎでしょう。ハマチの踊り食い。聞いたことあります?あなた、この道のプロですよね。素人の僕ですら、わかりますとも。ハマチは踊り食わないって」
「捌きますかい!」
「捌きません。要らないです。ハマチ」
「おっと、旦那。そいつは聞き捨てならねぇな。俺はこの道30年の職人でっせ。いくらお客といえど。食材を粗末にするような奴ぁ、許せねぇ」
「僕も許せませんよ。あなたのような人がこの業界で30年も、のさばって居たことが。僕がほしいのは鰻です。ヌメッとして太い奴。ハマチは注文してくれるお客さんのために取っておいてください」
「あら卑猥」
「これが最後です。鰻をください」
「しょうがねぇな。旦那の頼みとあっちゃ仕方がねぇ。ちょっと待ってな」
20分後。
「へいおまち!活きの良い鰻だよ」
「鰻を持ってくるだけなのに随分と時間がかかりましたね。まぁ、良いですけど……ってキモッ。なんですかこれ」
「いや、なんですかも、なにも。旦那の注文した鰻ですよ。しかも特注品です。旦那にゃご贔屓にしてもらってるんでね。鰻の中でもこいつぁ、別格。他の鰻とは一線画してまっせ。鰻界では生きた化石なんて風にm」
「はいはい、ヌタウナギ、ヌタウナギ」
「おっ、旦那知ってるねぇ!」
「誉められても、なにも出ません。というかね。何処の魚屋に鰻と注文されてヌタウナギを出してくる店があるんです?しかも、満面のドヤ顔で」
「いやぁ、それにしてもこいつ。気持ち悪いっすねぇ。ほんとに、こいつ鰻ですかい?見れば見るほど大ナメクジにしか見えねえが」
「話聞いてませんね。おたく、売る気無いでしょ。もしかして僕、実は最初から客として扱われてませんでした?常連なのに?ってか普段は、どうなのよって。この話を聞いてる人は、多分。そこら辺、気になってますよ。こいつ、いつもこんな、めんどくさいことやってんのか?って半ば呆れ顔で」
「なに変なこと言ってんだい?常連だけど旦那、この店に来たのは初めてだろ?というか、俺がこの商売を始めたのだって、たった数分前のことで」
「際どい発言をするねぇ。なに?僕ら今もしかして箱のなか?それともお月様?」
「そんでもって旦那。買うか買わないか。そろそろ、はっきりしてくだせぇよ。俺も、このやり取り飽きてきたんですわ」
「買わないよ。最初からそう言う姿勢でしょ?僕。あと、めんどくさいとか言わないで。色々と我慢の限界だから」
「なんでぇ、買わないならあっちいった。冷やかしは御免だよ」
「うっわ、最悪だ。なにこの店。僕ってこの店の常連らしいけど。金輪際、来るのやめよ」
「はぁ、まったくもって無駄な時間を過ごしてしまった。なんだったんだ、あそこの店主は……おっ、こんなところにスーパーが在るじゃないか。ここならいたって普通の買い物が出来るだろう。信頼と安心のチェーン店。時代は、もうスーパーですよ。低価格、均一品質、なんでも揃うの三拍子」
「いらっしゃいませー」
「マニュアル対応最高!鰻!うっなぎ!」
10分後。
「見当たらないなぁ。あの、すいません」
「はい、なにかお探しでしょうか?」
「あの、鰻を探してるんですが。どこにありますかね」
「鰻でしたらこちらに。鹿児島県産、高知県産、中国産がありますがどちらに致しましょう」
「これ、ほんとに鰻ですかね。僕の知ってるのと違うような。ハマチじゃないですよね」
「はぁ、こちら確かに鰻ですが。もう一度確認させていただきますが。ご注文はうなぎ(Anguillidae)ですか?」
「いいえ、うなぎ(lamprey)です」
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