新成人アウトブレイク

「これにて、平成29年度。成人式典を閉会いたします」

終わった……俺らの成人式はここで終わったのだ。あちらこちらで絶望の声が聞こえる。家族との離別を嘆くもの。ただ恐怖に震えるもの。そして俺は目を閉じる。座席の背もたれに背を預け。会場内にこだまする様々な音に耳を澄ませる。やがて会場内に火が放たれた。今頃きっと、壇上に張られた防火ガラスの向こう側で老人たちは汚いニヤケ顔を、こちらに差し向けているのだろう。悔しさや憎しみは感じない。今はもう過ぎ去った感情だ。招待状が届き。ここに足を運んだということは、つまりそう言うことなのだ。なにを今更嘆くものか。覚悟を決めて俺はここに来たのだ。


「起きて」頭のなかに響くのは母の声。

「いつまで寝てるんだ。今日は皆で水族館にいくんだろ」そうだ。今日は水族館に行くんだ。待ってて、父さん今すぐ行くよ。

淡い光日包まれて。僕らは今飛び立つ。

ーー生きて

声が聞こえる。これは母の言葉。違う。僕には妹がいた。そうだ、まだ妹が居るじゃないか

これは祈りの言葉。誓う。僕は祈りに誓う。

ーー生きて

その呼び掛けに呼応する。

生きる。それが僕の選んだ道。


ごめんなさい。父さん、母さん。僕はまだ

「大人にはなれない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る