よくあるラブコメ

むにゅっ


「おっはよー!」


おはよう諸君。今日は憂鬱絶好調な月曜日。人は皆、フトュンと睡魔と世間体との葛藤の末に渋々足並みを揃えて各々戦地へと向かうのだ。それが月曜。電車のなかは陰気臭い面した人ばかり。そんなに嫌なら行かなければ良いのに。みんな嫌でしょ?出勤、登校。休んじゃえば良いのに。皆して休めばそれを咎める上司もいない。なのになぜだか。赤信号、皆で渡れば怖くないなんて風には、ならないのである。それはさておき現状の説明を少しばかり失礼。なんの?って、「むにゅっ」についてだよ。冒頭のあれ。そろそろいいか?説明はいるぞ?ゴホン。


低血圧で朝に弱いタイプのネクラボンクラ弱冠17の高校生の脛椎には、今しがたキャパシティオーバーな重負荷がどっしりと、ミシミシと、みっちりと。殺さない程度にガツンと加えられていた。その存在感を全面に押し出しつつ(押し付けつつ)毎度朝のを言葉よりも的確に遂行してくれるのが、俗に言う。おっぱいである。そして、その胸の持ち主が先程の声の主。“豊穣みのり”だ。


「月曜からたわわだな。お前の顔を見ると安心するよ」

「そこは月曜から元気だな。とかじゃない!?そしてさらっとプロポーズ!?新婚旅行はハワイかな!?パリかな!?あっ、ローマもいいな!!」

約物の多い奴め……どうしたら月曜からこんなにたわわd(かみまみた。元気でいられるものか。こいつの胸にはきっと夢や希望よりも現実に立ち向かうための力が沢山つまっているのだろう。少しくらい分けてほしい……いや、遠慮しておこう。

「そうだな。ハネムーンならバイエルンなんてどうだ」

「ロマンチック街道だね!?素敵!さんせー!!」

「おう、あそこなら憂鬱な月曜日にも活力を与えてくれるんじゃないか。そんでもって最後には俺が城の主だ。どうだ?あそこの城主は俺にぴったりだと思わんかね」

俺の放つ一言一言に相づちを打っているせいでそろそろ首でも、もげるんじゃないかと心配になる。というか、話を聞いてるのか?こいつ。「王様だね!うん!ゆうくんにはぴったりだと思う!!そして私が王妃様になるんだね!?やったー!ついに二人は結ばれるのね!!」どうやらしっかり聞いていたらしい。この光景も見慣れたもので憂鬱な月曜日というのも半分は嘘だ。ここだけが騒がしい通学路。この場の空気が実は嫌いでなかったりする。分厚い雲を凪ぎ払う突風のように現れ。温かい、お日様のように燦々と輝く笑顔を振り撒いてくれるのが、こいつだ。俺は恵まれてるのかもしれん。そんなことを考えながらこいつの顔を見ていると、さっきまでのハイテンションから一変、急に萎らしく顔を赤らめる。「なっ、なんか変なこと言ったかな!?言った、かな……」おまけに艶やかでふわりとした髪をクルクルと指先で弄りはじめる。いい香りが鼻先を掠める。困ったな。俺がゲイじゃなきゃ危うく恋に落ちるところだったぜ。溢れでる、この女子力を誰か別の男に振り撒けば彼氏なんてすぐに出来るだろうに。そんでもって幸せな新婚旅行を満喫できるだろうに。まったく勿体無い。ただ、こいつが別の男と仲良くしているのを想像すると、それはそれでなんだか嫌だなぁ。


はぁ、まったく憂鬱な月曜日だよ。

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