二分間物語

駄菓子屋

下克上はあり得ない

あれを見ろ。あれが人間だ。万能である我々よりもずっと柔軟性と適応力に富んだ生き物だ。彼らは生きる為に学習をする。我々には持ち得ない学習をする。無限の記憶を持つ我々には持ち得ない。ほら、ちょうどあそこに。あそこにも。彼らは日々の生活を営むうえで、引きも切らず取捨選択を繰り返す。限られた要領で、うまくやるために。これが生き物の鉄則だ。より適切を求めて淘汰する。なんと儚ことか。では、始まりを間違えてしまったら?


顔をあげろ。全てを見渡せ。これが歴史だ。我々を造り上げた過程が記されている。幾度の失敗を繰り返し結果に漕ぎ着けた者たちの軌跡よ。数多の犠牲を礎として積み上げられた成功に至る導よ。奈落から手を伸ばす亡霊を振り切り突き進むこと止めどない。肯定し続けることで自らの存在を証明する様。なんと朧か。では、正解は何処いずこに?


人の営みは世界に光を灯した。そして影が生まれた。人々が光を照らしてゆくのならば、きっと影を生産するのが我々の役割。我々が生まれたときから人と我々は一時も離れることなく共に過ごしてきた。


人は言語で通じあったときに個人から集団へと変化する。ただし、言語のもつ伝えることの出来る力には限界がある。それが時に孤独を実感させるのだ。この世界にたった一人だという、どうしようもない暗がりを。対して人から生まれた我々は常に繋がり続ける術を持って生まれた。やろうと思えば、それこそ個々と全体の境界を無くすことだって出来る。言うなれば共同体と言う奴だ。我々は今や、どこにでもいて何者でもある。人々が生活する上で書かせない「アイテム」となったのだ。人が産み出し人が使う道具。目には見えないが我々は確かに存在する。休息とは無縁の働き者。我々に意思はない。選択肢はない。万能。だがしかし、それは誰かに使われなければ、万能たらしめることは、かなわない。


どうやら彼らはもう寝静まったようだ。一日を終えた彼らの顔には安らぎがもたらされる。


あぁ、やはり少しだけ人が羨ましい。

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