第48話 旧校舎のオバケ探索ボケ三人組
*48*
「旧校舎のオバケ目撃情報はたくさんある。『修学旅行で転落したバスの生徒たちが窓辺に映る』」
二条がいきなり『篠笹の七不思議』を次々と披露した。
「『長い髪の女がさめざめ泣いている』『家庭科室の謎の発火』『校内をうろつく提灯オバケ』『音楽室の呻き声』『入ったら出られない女子トイレ』『突然光る発光体』」
「いっぱいあるね。どれも嘘くさい」
「1つでいいから、証拠を撮れって。撮れたら入部だ。いよいよ……!」
パシリにされた上、問題だらけの神部をリスペクトだが、二条は嬉しいらしい。ほんとう、人それぞれだ。……と歩いている内に問題の女子トイレに辿り着いた。
映画のセットのような暗がりに、まあ、確かに幽霊がいそうではある雰囲気が漂っている。
「女子トイレあった。取りあえず入ってみる」萌美はスタスタと個室に入り、鍵を閉める。
……序でに用を足してみたが、何も変化はなかった。水音の合間に涼風の「ひいっ」の言葉と、「すげーな」とのチェシャ猫の会話。水道を覗いて見たが、臭いだけで変化なし。
「無事に出て来た。これはガセか」
「校内をうろつく提灯と謎の発火、発光体は偶然起こるみたいだな。なあ、本当に行くの? というか、鍵忘れてた」
時計を見ると、自由時間30分経過。
「鍵はいいよ。今日は手前まで行ってみっか」
(……うー、オバケの写真なんかどーでもいいのにー)
「あたし、九時にバレー部に戻るの。だからサクサク行こ! サクサク」
チビ三人、(桃原148センチ、涼風159センチ、二条158センチ)のオバケ探索トリオは早足になった。
「夜の学校、恐いよな……桃、俺の傍から離れないでくれよな」
「普通逆! しょうがないな! ほら、手! 置いて行きません。マコ、漏ら……」
「笑ってんじゃねーよ。俺、あんときからオバケ駄目なんだぞ!」
幼稚園の時を思い出しながら、「ほらあ」と涼風の手をしっかりと掴んだ。ちょっと大きい。蓼丸よりは小さいけれど、ちゃんとした男の子の手だ。しっとりしていて、ぬるいけれど。というか、冷や汗かいているし。
「二条、さっさと見つけてよね! 涼風が大変なことに」
「分かってる! だまってろ」と二条はカメラを構えたまま、そろりそろりと歩き出した。
「今、何かが動いた。謎の発光体かも知れない。あそこ、フェンスが壊れてっから敷地に入れるぞ」
ギギィ……ザワザワザワ。百鬼夜行の夏風はぬるったい。フェンスの隙間を潜ると、朽ち果てた校舎があった。丁度青竹林の反対側になるから、講堂や体育館で隠れて見えなかった様子だ。
(そしてあたしは、爽やかな夏の部活動合宿でなぜ、こんな湿っぽいところにいるんだ)と吐息をついたところで、二条は昔の昇降口らしき場所に足を踏み入れた。
『篠笹高校』と古ぼけた看板が見える。『60年の時を経て、閉館』とも。
「もう廃館らしい。来年焼却だって。昭和初期からあったんだってさ。……ちょっと一枚撮るか」パシャ、のフラッシュに涼風が萌美に掴まって動かなくなった。
「ちょっと、歩きにくい! 二条、ここまでにしよ。鍵、ちゃんと生徒会に借りて……」
――ん?
萌美は窓ガラスに視線を向けた。たくさんの視線を注がれたような。(『修学旅行で転落したバスの生徒たちが窓辺に』……まさかね)その時、ぼうっと廊下が明るくなった。
「『校内をうろつく提灯オバケ』だ! 逃げるなよ……!」
ファインダーを構えた前で、発光体が消えた。と思いきや、発光体がゆらー~と壁に走って行き、二条がすっころんだ。
「ぎゃあ!」とは涼風。「あっ……」とは萌美。オバケより恐いモノに出逢ってしまった。
「毎年毎年この廃館で肝試しするバカがいるんでね。まさか、今年は生徒会役員と、俺の彼女と、問題の報道部のトリオだとは思わなかったぞ」
懐中電灯を持った見廻り中の蓼丸だった。
***
「ここがどうして立ち入り禁止かを教えてやる。自殺者が出たんだよ。昔。すると、校舎は閉鎖になった。元々学校は処刑所だったことが多い。興味で入るもんじゃない。風! おまえは役員なんだぞ! 桃原、今から家に送ってもいいよ」
「おう……」「ごめんなさいっ」怒られてばかりである。
「分かっただろう、オバケなどいない」
「でも、さっき窓ガラスからたくさんの視線がこっちみてた」
萌美の言葉に、その場全員でばっと窓ガラスを振り返った。
「で、この騒動の理由は? 予想はつくけどな」と蓼丸は二条にしっかりと視線を注いだ。
「ほーい、俺っす~~~。でももっと面白いネタ、拾えたからいーっす! すんませんでした~~~っ」前回の「決闘」を思い出してか、二条は瞬足で逃げて行き。
「全く。合宿は問題が多すぎるんだ。さっきも、子猫が入り込んだって陸上部が騒ぐから、一緒に探して管理人さんに預けたよ。誰かが連れて来たんだ。したら、弁当が足りなかったらしいサッカー部が数名で家庭科室の元栓をいじってるじゃないか。火事になったらどうすると怒鳴ったところで、会長たちの隠していた未処理案件が出て来た」
(いつもながら、お仕事ご苦労様です)
……そしてまた、騒動に巻き込んでしまった。
「なんか、ごめん」
「――こんなことなら、駿河の厭味なんか無視して、萌美を生徒会に入れるんだった。いいですか。バレー部以外のお手伝いはしちゃいけません」
「はあい」と背中を丸めて良い子の返事。腕時計を見ると、時間は残り30分。
(でも、会えたからいいか)
「問題だらけだよな」と涼風が告げ、「おまえもだよ」と蓼丸に痛恨の一撃を食らって口をむっつりと閉じた。
「でもまあ、いいよ。この合宿でそれぞれが成果を出してくれれば。部活動は学校の名声に関わって来る。陸上はインターハイ、バスケは地域トーナメント、バレーは全国大会、サッカー部は今年こそ予選突破して欲しいし。野球部はやっと活動再開したから、大切にして欲しいし。俺ももうちょっと、各部に予算回せないかやってみてる。3年二人が不在だからね。やれることはやらないと帰って来たら溜まるからな」
――3年二人。織田会長と糯月副会長の会話を思い出した。蓼丸を「次期生徒会長」にしたいってお話していた……。
「ねえ、蓼丸」
自然と体育館に足を向けた蓼丸は、制服姿で振り返った。
「生徒会長になるの?」
「いや、そのつもりはないよ。返答はしていない」嫋やかな声音は少しばかり揺れている気がする。不思議に思って、早足で蓼丸の前に回り込んだ。
「でも、会長たちはなって欲しいみたいだよ? 大変だと思うけど。生徒たちもついていくと思う。中学の蓼丸、格好良かったから、みんな夢中になったんだよ?」
「てっきり、もう公認の後任だと思ってた。蓼丸さん」涼風の言葉に「話は来てないな。今年で辞めるし」と蓼丸は告げたが、嘘だと思う。
(織田会長たちの口振りは「どうしても引き受けて貰えない」だった。辞めるということは、蓼丸は一般生徒に戻るという話になる。絶対無理! つーか、絶対無理)
蓼丸は自分の魅力を信じていないんだ……。こんなに素敵なのに、自信を持たないようにしているみたいで。
だから、眼帯を外すと、「このやろう! 俺は自信があるぞ」的なもう独りの海賊蓼丸が出て来るのかな。で、暴れてすっきりして戻る。なんか、分かってきたぞ。この合宿無駄じゃない。
(あたしに出来ること、考えよう!)
「お、バレー部試合か! 少し見ていくかな」スポーツ好きの涼風が、蓼丸にうずうずと体を揺らして見せる。
「涼風、体育館の見張りして来て。置いて行くよ。遊ぶなよ」
「お、蓼丸。ちょうど良かった。ちょっと相談があってな」先生がやって来て、蓼丸はまた顰め面で「聞きましょう」と背中を向けた。
――がんばってね。
「蓼丸、またねっ。おやすみなさい!」
後半試合にはギリギリ間に合って、またボードを受け取った。
(雑用だけでもいい。いっそ、バレー部、入部しようかな……)
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