第129話 闘技場と水道橋の計画

 ローマに戻り俺の家でティモタとライチと俺の三人が揃い新しいある建築物について検討をしていたら、突然エリスから遠隔会話が入る。


<プロなんとかさん、すぐにラヴェンナの宿へ行きなさい。お客様よ>


 エリスの遠隔会話は声といっていいのか、頭の中にガンガン響くから出来ればパオラからにして欲しいんだけど……いや贅沢を言ったらダメだな。遠隔会話でのやり取りは非常に有効だからなあ。遠隔会話は一方通行なので伝令に近い。

 空からの監視と遠隔会話こそローマの強みで、これまでキチンと機能している。

 しかし、誰が来たかまで教えて欲しかった。あ、初めて来る人物ならどんな人か全く分からないか。


 俺はティモタとライチに検討を中断することを告げて謝罪し、飛竜を飼育している広場まで走る。

 ミネルバは辺境伯との会談後、龍の巣へ帰っていったので足がないのだ。


 ちょうど俺が一番可愛がっている飛竜のシロがいたから、彼に乗り込みラヴェンナへと向かう。


 ラヴェンナは飛竜が途中で休憩の必要が無いくらいの距離なのでそう時間がかからずラヴェンナまで到着する。


 ラヴェンナを上空から見るたびに新しい建物が増えてる気がする……農地や牧場も広がってない?

 ラヴェンナはいまは住人の八割近くが人間なのだ。ラヴェンナは聖王国の人間を呼び込むのと交易の為に作った街だから、目標通りに人間が集まってるってところか。

 待望の農家や酪農家も来てくれたし、木を切り倒し街の範囲がグングン広がっている。そのうち魔の森の外にまで広がるんじゃないだろうか。


 農地が南方向へ広がっていっているので、そのまま進めばいずれ魔の森の外に到達することになる。魔の森の外には行商人や冒険者が休息できるよう簡易的な施設がある。

 最終的にはそこがラヴェンナの入り口になるかもしれない。


 そんなことを考えているとログハウス風の二階建ての宿屋に到着する。

 この宿屋は一階部分がレストランになっていて宿泊客でなくても食事をすることができるようになっている。

 俺が対応する客が来た場合ここで食事をして待っててもらうようにしているんだ。理由? ここの料理は美味しいからさ。


 宿に入ると見たことある後ろ姿を発見する。あの禿げ上がった頭に、皮鎧。

 モンジューか。

 

「モンジュー殿。お待たせしました」


「プロコピウス殿。ザテトラーク以来です」


 モンジューは馬でここまでやって来たのだろうか。あれから数日しか経ってないから彼はすぐにここへ向かったんだな。あの辺境伯……会談の時も思ったが対応が早い。

 あの場で和議を即決するとは思ってもみなかったものなあ。次の手を打ってきたということかな?

 

「交易の件ですか? さっそくお話しいたしましょう」


「ええ。今後の対応を決めておこうと思いまして」


 モンジューは少し緊張した様子で俺に応じた。

 

「私からは特に。これまで通り行商人と冒険者達がラヴェンナを訪れていただければ」


「私から依頼があります。食料と武器の輸入を行いたい」


 なるほど。今回の戦争で辺境伯の兵士は千人以上は戦死したはずだ。「辺境伯」という名前から想像するに、中世的な統治システムなんだろうと思う。領地を持つ貴族は各地で自治を行い、必要があるときに農村から兵士を集める。

 兵士とはいえ、ほとんどが農民なわけだ。農村から働き手の若者を引き抜けば当然農業生産力は落ちる。よくあるのが戦争で国庫まで圧迫し、税金の取り立てが厳しくなってよけい農村が圧迫されるって流れだけど。

 辺境伯はどうなんだろう。


「食料は豊富にありますので、輸出は可能です。武器の用意も問題ありません」


「……ご協力感謝します」


 モンジューは一瞬目の色を変えたが、すぐに元の表情に戻る。俺達の生産能力に驚いたのだろうか? あ、武器の用意ってところかな。ネタ晴らしすると大したことはしない。

 共和国のカエサルのところから武器を輸入し、辺境伯へ売り払う。カエサルの住む共和国の街ジルコンの生産能力は凄まじいからな。何しろ人口規模が圧倒的だからなあ。

 この後モンジューと俺は腹の探り合いを続け、お互いに有力な情報を得ることはできなかった。

 辺境伯は今後の戦略をどのように考えているのか、俺としては辺境伯をこちらに引き込み聖王国との戦いに望みたい。あの辺境伯ならば、俺達につくほうに利があると判断したら俺達へ協力するってのも不可能ではないと思う。

 

 辺境伯を引き込むのなら、俺達だけでは足らないな。カエサルが俺達へついてくれるのなら、辺境伯を引き込める可能性も高まる。圧倒的な聖王国へ対するには少しでも味方を集めねば。

 草原の騎馬民族たちは既に聖王国と争っているから、戦線は草原と魔の森と全く違う場所になるが間接的には既に協力しあっているんだよな。

 

「モンジュー殿。またいずれお会いしましょう」


「ええ。プロコピウス殿。私もいずれ貴殿とお会いする気がいたします……」


 お互いに含みがあり煮え切らない感じで会談は終了した。俺は辺境伯を対聖王国戦に引き込めるか探り、モンジューは俺達の国力を探っていたってところか。



◇◇◇◇◇



 ふう。モンジューを見送ったおれは宿屋の座席に座ると一息つく。次の戦いがローマの命運を決める戦いとなるだろう。いくらベリサリウスが不世出の戦術能力を持つとはいえ俺達だけでは非常に苦しい戦いとなるだろう。

 勝ち抜く為に共和国の最大都市ジルコンと辺境伯の協力は不可欠だ。そうはいってもそこまで急ぐ話ではない。最終戦争が起こるとしても一年以上未来の話になるだろう。彼らも俺達の事を研究するだろうし、図体が大きいだけに政治的な決定までにも時間がかかる。

 理想は俺達の力を認め、平和裏に不干渉協定でも結ぶことなんだけど……ローマの弱点は人口の少なさなんだよな。だからどうしても兵力が極小になってしまうんだよなあ。

 

 ジルコン並の人口がいればもっといろんな手を打てるんだけどなあ……

 

 無い物ねだりしても仕方ないよな。やれることを一つづつやっていくのだ。

 

 俺は飛龍のシロに乗り込みローマへと戻る。そうそう、ティモタとライチと新しい施設について検討していたんだった。

 ローマは住むに困らないまでに発展した。今後さらに家が増え、上下水道も拡張されていくだろう。

 

 しかし、ローマに足らないものはまだまだある。

 

 街を彩るものが噴水と風呂しかないのだ。これではいかん。今後ローマには人間の居住者も募るつもりだから、ローマに来てもらえるような設備をつくろうと彼らと話あっていたんだよ。

 共和国の大工にも協力を仰げるから、大きな施設を作りたいなと話をしていた。ローマといえば……どっちかだろ。

 

 俺は下水の流入先にあるため池の様子を見ていた二人を発見すると声をかける。

 

「ティモタ。ライチ。ごめん」


「いえいえ。ピウスさんにはいろいろ仕事がありますし」

「私達はいつでも構いませんよ」


 二人は俺に朗らかに応じると、また目をため池へとやる。


「ため池がどうかしたのかな?」


「魚の数が増えて来たんですよ。ピウスさんの言っていたため池の生態が安定してきたように見えます」


 ティモタがため池から目を離さずに答える。おお。ため池の食物連鎖は順調に育ってきているのか。浄化のオパールを取り除くことはないけど、その状態で安定したってことかな。


「ティモタ、ライチ。君たちはどっちがいいと思う?」


 俺はモンジューと会う前に議論していたことを彼らに聞いてみる。

 

「私は闘技場を試してみたいですね」

「私は水道橋が」


 二人は別の施設を述べた。どちらもローマらしい施設なんだけど……そうか意見が分かれたか。

 

「どっちも作ってみるか!」


 俺は笑顔で二人の肩を叩く。

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